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「…………は? お前……何言ってんだ?」
圭はガバッと身体を起こすと、ボーイッシュな容姿に艶っぽさを纏う女を睨み付ける。
「私も来年で三十五になるし、いい加減、圭とセックスだけの関係を終わりにしなきゃって…………前から考えてたの」
千夏は、ベッドから抜け出すと、床に散らばった服と下着を拾い上げ、身支度を始めた。
「それに…………電子楽器で有名なゴーランドの御曹司と、年明けにお見合いするんだ」
「…………マジかよ……」
まさか、千夏が圭と密会を重ねつつ、同業者の御曹司とお見合いを取り付けていたとは、思いもしなかった。
千夏は、井河楽器の一人娘である。
仮に、千夏とゴーランドの御曹司が結婚するとなったら、井河楽器とゴーランドの合併も十分に考えられ、合併したとしたら、国内で最大手と言われる圭の会社、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツと、一位二位を競う楽器メーカーになる事は、彼にも予測できた。
(井河の社長は、千夏を使って、政略結婚を狙ってるんだろう……)
ベッドに腰を下ろしたまま、圭は、黒いベルベットのワンピースを身に包んでいる女の背中を凝視した。
「だからと言って…………突然過ぎないか? 俺、昨日婚約破棄になったばかりなんだぞ?」
圭は声に怒気を含ませながら、千夏の背中に吐き捨てる。
「だって、私のせいで、圭の婚約者だった人にバレて婚約解消して、しかも、あなたの弟さんカップルにも、私と圭が一緒にいるのを見られちゃったんでしょ? それはきっと、私たちの関係を、終わりにした方がいいって事なのよ」
女は、傍らに放置してあった真紅のポシェットを手に取ると、斜めがけにして、ベッドの上にいる圭に、身体を向けた。
「まぁ…………圭と再会してから過ごした日々は、それなりに楽しかったわ。恋人同士だった頃の気持ちも思い出せたし、あなたは、私を『女』として常に扱ってくれたし」
「…………」
窓に映り込む、星が瞬くような明かりを見やりながら、千夏が微笑むと、圭は無言で眉根に皺を刻みながら、険しい面差しを覗かせた。
「そういう事で…………良いお年を。圭も元気でね」
千夏は、背筋を伸ばし、颯爽とした立ち振る舞いで、ホテルの部屋を出て行き、バタンとドアが閉まる乾いた音が静かに響いた。
「…………クソッ! どいつもこいつも……勝手な事ばかり…………言いやがってっ!」
圭は枕を掴むと、ドアに向けて思い切り投げ放った。