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皆様こんにちは。芽花林檎です。今回も続きのお話を書かせていただこうと思っております。それでは、ご覧ください。感想、コメント、フォロー、高評価、歓迎しております。
今日も、朝から授業授業授業の繰り返しである。昨日は数学四時間連続という地獄を味あわされたが、今日はさすがにそのような事態にはならなかった。一時間目は僕の大好きな現代文。二時間目は古文。多少は救いができた。三時間目に数学はあるけれど。
もうあと少しで、テスト週間に入ってしまう。この学校本当にテスト多いんだよな。加えて難易度はいつも高めだし。国語は何とかなるけれど、数学とか、化学は何とかしないと今度も先生にみっちりとしごかれる羽目になってしまう。そう思って、僕はノートをとるペンを少しだけ強く握った。
数学の時間。先生のお経が聞こえてくる。何を言っているんだ、あの人は ……「今回は、えぇ、積分の総合問題ですね。今回は面積の最小値について考えましょう。えぇ、文字が逆数として表れているので、相加平均と相乗平均の関係も用いながら、積分区間を決定し、あとは中の関数を積分して、文字へ数値を代入することによって………」まったくもって何を言っているのかわからなかった。国語の先生の言葉は同じ日本語に聞こえるのに、数学の先生の言葉はお経、もしくは外国語に聞こえるのはなぜだろうか。そんなことを思いながら、僕は昨日の少女の言葉の意味を考えていた。「大丈夫だよ。まだ、時間はあるから。」
「まだ時間はある」、というのは何を示唆しているのだろうか。時間があるということは、そのうち”何か”までの時間がゼロになるのだろうか。限りなく、限りなく、近づいて行っているのだろうか。そう言えば、昨日の少女の言った夢を未来視するということが、どうしても僕の心に引っかかっていた。夢、を未来視することなんてあるのだろうか。未来視、は現実のことを見るのではないのだろうか。もしかすると、夢のことを見ることもあるのかもしれない。でも仮に、そのようなことが起こりえないとしたら、昨日見たあの夢は......いやいやいや、そんなはずはない。でも......そんなことを考えていると、「ちょっと、君!この問題の答えを言ってくださいね!」と先生に言われた。僕は急に当てられたことに戸惑いながら、必死に答えをノートの部分から探した....
お昼時だ。今日もやってきた、お昼の時間が。僕は、いつもの通り少女のもとへ行き、話しかけた。僕たちは昨日と同じく、屋上へ行き、そのベンチに腰掛けた。他愛ない会話が続く。この前話していたお店にいつ行くのか、とか、もうすぐテストだね、とか、苦戦している教科あるの、とか。そんな日常会話をしている途中、少女は、一瞬だけ何も話さなくなった。僕が話しかけても反応がない。でも、しばらくするとまた戻ってきた。こんな風に、少女は未来視をするとき、一瞬だけ肩を震わせ、一点を見つめたまま動かなくなる。出会ってからまだ少ししかたっていないけれど、明らかに、この数日で未来視の頻度は増えた。おかしいなと思ってはいた。最初に一緒に帰った時よりも、昨日のほうが。昨日のお昼時よりも、今日のほうが、未来視の数は増えている気がした。僕は、それが何かの前兆のような気がしてならなかった。最も、何の前兆なのかは見当もつかなかったが。僕は、「また、見えたの?」と少女に話しかけた。そう聞くと、少女は申し訳なさそうに笑った。
「うん。でも、前よりはっきりしないの。映像が、途中で歪んでしまう。」
「歪む?」
「うん。何でだろうね。私にもわからないや。」
なぜかその言葉に胸がざわついた。
「私の見ている未来が、本当に未来なのかよくわからないの。」
僕はその言葉の意味が理解できなくて、少女に続けざまに聞いた。
「どういうことなの?」
すると、少女は少し声を震わせて答えた。
「なんか、私の見える未来が、現実世界とは思えないようなものが多いの。突然見慣れた景色の中に見たこともないような廃墟が浮かんだり、あたりが炎で包まれたり。こんな平穏な世界の中で、そんなことが起きるのかなって少し不思議に思っているの。しかも、私が見る未来はそう遠い未来ではないの。明日、明後日、長くて一週間後くらい。こんな短い期間の中で見慣れた景色の中に廃墟が浮かんだりするのかなって。私が見ている未来はあくまで起こりうる未来のはずだから、この現実世界で起こりうる未来のはずだから、不思議だなって思うの。そして、その未来を見ると、途中で映像が歪んでしまって、そのあとは何も見えなくなるの。」
僕は、その言葉が胸の深くに刺さった。この前の夢といい、この少女の未来視といい、何か、この世界が少しずつ歪んでいるような気がしてならなかった。その瞬間、教室の壁に細い日々が走った。誰も気が付いていない。僕と少女だけがその音を聞いた。
パキ、パキ。
まるで、硝子が割れる直前のような音。
その夜、僕はまた夢を見た。
灰色の空。
崩れたビル。
人影がない街。
どこまでも続く灰に覆われた荒野。
遠くに浮かぶ鮮血の色に染まった炎。
降り積もる雪。
遠くで倒れるどす黒い影。
前よりも鮮明だった。
この前の夢よりも、細部までが鮮明に見える。
ふと、思った。
あれ、この景色どこかで見たことがある気がする。
気のせいだろうか。
ここに、来たことがある気がする。
記憶はない。
でも、そんな気がする。
僕は瓦礫の上を歩いた。
足元で何かが砕ける音がする。
あ、硝子の破片だ。
遠くで泣き叫ぶ声がする。
その声に僕は聞き覚えがある気がした。
ふと、視界の端に少女の姿が見えた。
あの、漆黒の長い髪をツインテールでまとめ、髪には桃色のピンを付けている少女だ。
風が吹く。
焼き焦げたにおいが鼻を刺す。
その腐った風が、ふわりと彼女の髪を揺らす。
灰へと化した木々が並ぶ。
でも、彼女は僕に背を向けていた。
僕は、言葉を発した。
「どうして、ここにいるの………..? 」
そう声をかけた瞬間。景色が白くはじけた。
一瞬の出来事だった。
耳の奥で、あの音が響く。
ガシャン!!
硝子、が、割れる音。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………僕は目を開けた。心臓が早鐘を打っていた。冷汗が首を伝う。なんなんだ、この夢は。妙に懐かしい感じがして、でも現実世界とはかけ離れているこの夢は。精神が狂いそうだ。おかしくなってしまう。助けてくれ。今にも発狂しそうだ。そんなことを思って、ゆっくりと目を開けた。すると。
部屋の天井が揺れて見えた。
なんでだ。なんなんだ、この前の夢といい、今度の夢といい。そして少女未来視がだんだんと歪んでいくことも、だんだんと夢が非現実味を帯びていくのも。だいたい、少女の未来視は、現実に起こることを見ているんだろう。どういうことなんだ。単に、たわごとを言っているのか、あの人は。廃墟が浮かぶなんて、非現実的すぎる。空想に近いかもしれない。あれは、少女の何かしらの不安が生んだ空想かなんかなのではないか?でも、あの表情からして、それは考えにくいような気がした。
ふと、頭の中に一つの考えが浮かんだ。それは恐ろしいほどの速さで、形を成していく。少女の未来視のおかしさ。僕の妙に現実味を帯びた夢。懐かしさをはらむ夢。目の前の視界の揺らぎ。え、ということは、つまり……..考えたくはなかった。恐ろしかった。そんなはずはなかった。でも、そう考えるとすべて整合性が取れる気がした。胸の奥が冷たくなる。ふと、窓の外を見た。夢の世界の景色が、窓の外の風景に重なった気がした…….
翌朝、教室へ行くと、少女は席にいた。気のせいだろうか。彼女の姿が一瞬ゆらいでみえた。光の加減かな、と思った。陽光が彼女をやさしく照らしている。そのせいだろうか、と思った。でも、近づくと、そうではないように思えた。
本当に、揺らいでみえる。
不思議だった。そんなことあるのだろうか。輪郭が、ぼやけて見える。まるで、透明な硝子を透かして見たかのように。
「大丈夫?」
僕が声をかけると、少女は笑った。
その笑顔は、どこか無理をしているようだった。
「未来視が増えたの。昨日よりももっと。未来がね、波みたいに押し寄せてくるの。」
その言葉が、僕の胸の奥を冷やした。
「波?」
「うん。あの非現実的な未来が、押し寄せてくるの。」
「それは、どういう意味で?」僕は矢継ぎ早に聞いた。その言葉に含まれている意味が、なぜかこの世界の存在を揺るがす気がした。自分でもよくわからなかったけれど、そんな気がしてならなかった。でも、落ち着いて考えると、言葉一つでどうやってこの世界を揺るがすのだろうという、それに揺るがすというのはどういうことだ、抽象的だよな、という考えが浮かび、そんなわけないだろうと取り払った。でも、少女はこう言った。
「何か、非現実的な未来が、流れ込んでくるみたいに。この世界、に流れ込んでくるみたいに。」
僕は息を呑んだ。少女は、僕の手をそっと握った。その手の感触は、柔らかかったけれど、少し冷たかった。
「ねぇ、昨日夢を見たでしょう?」
少女はぽつりと言った。僕は、少女に聞き返した。何か、変だ、この世界は。そして、その”変”の正体がもうすぐ暴かれてしまうようで、怖かった。根拠なんてないのに。
「うん、見たよ。どうして、わかるの?」
少女は、静かに言った。その瞬間、僕の視界が揺らいだ気がした。
「だって、私も見たから。貴方の夢の中に、私もいたんだよ。」
背筋が凍った。どういうことだ。夢を、共有している………….?
ふと、僕は空を見上げた。
意味なんてなかった。
でも、見上げてみたくなったんだ。
太陽が浮かぶ瑠璃色の空に、わずかな亀裂が入った気がした。
気のせいだったのかもしれない。
でも、確かに、見えたんだ。
その向こうに、見えたんだ。
____灰色の空が。
2026/03/16 芽花林檎