【開かない扉】 作 夢宮 楓
何時何分どんな時間になっても【開かない扉】がある。それは・・・・・・
『おはよう』
『先生!おはようございます』
『今日も中井来ていないのか……』
『え、はい……』
『中井の隣の席は誰だ?』
『葵さん……だと思いますよ』
『あぁ速水か……』
『先生?』
『速水はどこだ?』
『さぁ?どこですかね?わかりません』
『そうか……』
私は廊下を歩き出した。
私の名前は石川駿介(いしかわしゅんすけ)
見ての通り学校で生徒達に勉強を教える先生だ。
私のクラスにも不登校の生徒がでてしまった。その生徒は中井賢明(なかいたてあき)。
彼は学校が始まってから1週間もたたないうちに学校へ来なくなった。
彼が来なくなってしまった理由?それは私にはわからない……、いや知ることができない状態なのだ。
彼は、彼はこじ開けることもできない、【開かない扉】の中に閉じこもってしまったのだ。
『あっ先生、葵さんなら、さっき図書室に行ってましたよ』
『おぅ、そうか、ありがとう』
私は図書室へ、向かった。
『『好きだよ』と彼に言い、私を天国へ連れていくと彼は言った』
『…みさん……やみさん?』
聞こえていないのか……?
『ポツポツと雨の降る悲しい日、彼は私にこう言った、『寒いね』と私はもうこの世には……』
『速水さんっ!!』
『っ!?』
『やっと気づいたか……』
私の声が聞こえたらしい、きっと集中していて気付かなかったのだろう。
『な…ん…です…か?……(小声)』
さっきとは同一人物とは思えないような、か細い声で私に言った。
『あっあぁ、中井くんに、このプリント届けてくれないか?』
『……わっ……わたしが……です…か……?(小声)』
『あっほら、隣同士で仲良さそうに二人で話していただろう?』
『……あっ……あれは……』
『無理ならいい、私が行くから……無理言ってすまなかった』
『…………その、わたし、いけ……るので』
『そうか……なら頼んだぞ、これプリント、置いておくからな』
『は……い(小声)』
彼女はコクンと頷きながらそう言った。
その次の日から、彼女は速水葵(はやみあおい)は学校に来なくなった……。
不登校というわけではなく、そうあの日、彼と会う前に交通事故で……彼女は亡くなってしまった……。
プリントは、交通事故の現場に落ちていた。
そのプリントには彼女が書いたのか、空欄に彼女が読んでいた本の一文が書いてあったらしい。
……が、警察の言っていた言葉は、あの時、彼女が言っていた言葉と少し違うことに気がついた。
『好きだよと彼に言い、あなたを天国へ連れていくと私は言った』
……あなたを?……一体誰のことだ?いや、このプリントは中井に渡すために持っていたのなら、あなたというのは中井!!……嫌な予感がする。
中井の家に行こう!!
私は無我夢中で中井の家へと走った……そしてみたのだ!彼は、彼は家にいた!!
……が返事も……さらには目の焦点もあわず、彼は私が来たことに気がつかないのだ。
『……い、……おい……ぼく……だ…………あ……い……』
なにやらブツブツと喋っているが、私は救急車を呼ぶことにした。
『もしもし、あの救急車、私は〇〇学校の先生で石川と申します、私がクラスを担当している男子生徒がっ……』
ピッ、中井が私の携帯をとり、通話を切った……。
『なっ中井?しっかりしろ、どうした?中井っ!!』
か細い声で彼は言う……
『……ん…せ…い』
私の肩にしがみついて彼は……中井は……。
笑顔で私にこう言った・・・・・・。
『寒いね……葵ちゃん』
中井……?中井っ!!
あれ?私は中井の家に来たことあったっけ?
……?……私は、私は……石川駿介?いや違う私は私は……【速水葵】だ。
あの交通事故……
『速水っ危ないっ!!』
ドンッ!!/キキィーーーーー/
そっか……そうだった。
あれは、あの交通事故は……先生が、先生が私を庇ってひかれたんだ。
『寒いね……寒いね、葵ちゃん』
『……賢明くん、本当だ……ね』
私は私は、中井くんに会えたんだ。
『……だよ』
ポツポツポツポツ雨の降る音がする。
『ポツポツと雨の降る悲しい日』
『彼はこう言った』
『『寒いね』』と
数日が経った。
賢明くんの、
彼の【開かない扉】
それは心の扉だった。
私は開かなかった心の扉を
ゆっくりと時間をかけて
彼が自ら開けて出てくることを
ひたすら願っていた。
二ヶ月が経った。
『おはよう』
『賢明くん、おはよ』
彼は中井くんは学校に来た。
そして、あれから、五ヶ月がたち。
先生の葬式も終わり。
私は中井くんと恋人同士になった。
先生、みていますか……?
賢明くんが……
『少しずつ学校に行けるようになりました』
先生、あなたのことは忘れません……
『『ありがとうございました』』
あの時、私は聞き取れなかったけど……。
彼に聞いたら私に『好きだよ』と言ったらしい。
……暗闇の中。
私はもうこの世にはいない
そう……この世には……。
終
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