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【夢に描いた地図】 作者 夢宮 楓
[ドクンーードクンーードクン]
僕はある宝の地図を持っている。
けれど、この地図はこの世には実在しない。
『今日はここに行こう!!』
『いいぜ』
『……うん!』
この宝の地図を知っているのは、友達の、ヨー子ちゃんと蓮朔(れんさく)兄ちゃんだ。
ヨー子ちゃんは、僕と同い年で少し弱気だけど、優しいところがある女の子。
蓮朔兄ちゃんは、僕より3歳上の頼れる兄貴みたいな存在なんだ。
(僕たちは夢の中ではじめて出会い、秘密を共有する、大切な友達……それが今の僕達の関係だ)
地図によると、この世界には、雲の広場、虹の噴水広場、風の宮殿などさまざまな場所がある。
僕達は地図の宝を目指して、色々探検している。
今日は雲の広場にやってきた。
『蓮朔兄ちゃん!あれは何?』
『ん?あれか?あれは……』
(雲から覗く、黒くて怖い大きな……)
『っヤベェ、逃げるぞっ!!』
蓮朔兄ちゃんは、僕達を担いで、走って逃げた。
『……どうしたの?』
『大丈夫だ!安心して捕まってろ!』
『……』
ヨー子ちゃんの震えた声、そして蓮朔兄ちゃんの真剣な眼差し、それが、僕に【あれが怖いもの】で、僕達が相手してはいけないものだということをあらわしていた。
虹の噴水広場
『ふぅ、ここまでくれば大丈夫だ』
30分ぐらい、蓮朔兄ちゃんは僕達を担ぎながら走ってくれた。
『あれはなんだったの?』
『……あれか?あれは……』
真剣に僕を見つめてこう言った。
『宝の番人……さ』
『宝の……』
『……番人?』
『あぁ……けどあそこまでデカくなってるとは……な』
『前は小さかったの?』
『ん……まぁ小さかったな』
『どれくらい?』
『んまぁ、いいじゃねぇか、そんなことはさ』
『……うん』
蓮朔兄ちゃんは少し不機嫌そうに顔をそらした。
『それより、あいつをうまくかわさないと……宝には近づけねぇぜ?』
『……どうしたらいいんだろう』
『うーん、いいアイデアが浮かばない……』
『蓮朔兄ちゃん!雲に隠れながら行くのは?』
『……いいとも悪いともいえねぇな』
『なら、……その雲を体に纏うのは?』
ヨー子ちゃんがチラチラ僕らをみながらオドオドしながら言った。
『ヨー子、やってみるか?』
『……(僕のアイデアは?うるうるの瞳で蓮朔兄ちゃんをみる)』
『……ヨー子のアイデアならある意味、こいつのアイデアも含まれているといえるしな?』
ニコニコしながら、蓮朔兄ちゃんが、僕の肩に手を回し、僕の頬を軽く引っ張った。
『いてて……』
『蓮朔お兄さま……、痛がってる……わ』
『っ悪りぃ、ついついこいつが可愛くて可愛くてさ』
『……もう(クスッ)』
『あははは』
『えへへ』
僕はこの幸せな時がいつまでも続いてくれたらなって思っていた。
また夢を見た。
僕は蓮朔兄ちゃんと虹の噴水広場であった。
『よぅ』
『蓮朔兄ちゃん、ヨー子ちゃんは?』
『んいやぁ、みてないけど』
ヨー子ちゃんが、いない、その瞬間、僕は、不安な気持ちになった。
『それよりさ、お前に見せたいもんがあんだよ』
『?なになに?』
蓮朔兄ちゃん、綺麗な水色の宝石を見せてくれた。
『この間、行った雲の広場あったろ?あそこにもう一度行ってみたらさ、こんな綺麗な石が落ちていたんだ』
『もしかして、宝?』
『どーだろうなぁ、けど確かにこれは宝かもしれないな』
『ヨー子ちゃんにも見せたいなぁ』
『……そうだな』
……僕は蓮朔兄ちゃんがこの時、怖いと感じた。確かに顔は笑っているのに、どことなく違和感を感じた……、この違和感は、嘘であってほしいと心の中でそう思っていた。
また夢をみた。
だが今回はいつもとは違う。
地図という言葉さえでてこない夢だ。
僕は、僕は怖かった。なぜか、それはある女の子が刺されて、殺される夢だったからだ。
僕は……その女の子を知っている気がした。
……あれは、一体、誰だ?
また夢をみた。蓮朔兄ちゃんがみえる、これはいつもみている宝の夢だ……けどなんが、薄暗い……いつもみていた綺麗な景色とは違っていた。
『よぅ』
『蓮朔兄ちゃん、なんかこの空間僕、怖いよ……』
『え?いつもと同じじゃないか……』
『……え?』
『それよりさ、今日はヨー子が一番乗りだぜ?ほら、お前が会いたがっていただろ?』
『……あ、うん、それでヨー子ちゃんはどこ?』
『ほらあそこに座ってるぜ』
……それは、ヨー子ちゃんとは、もう、言えないような『顔』がそこにあった。
彼女は顔だけしかなかった。
彼女はボロボロの壊れた笑顔で僕にこう言った。
『ッフフ、ゴメンナサイ、勝手にいなくなって』
『……ねぇ、蓮朔兄ちゃん、これがヨー子ちゃん?』
『あぁそうだよ、ほら、嬉しくないのか?久々に会えたんだぜ?』
『……蓮朔兄ちゃん、こんなのおかしいよ……』
『どうしたんだ、何もおかしいことなんてないじゃないか?』
僕は、怖かった。いつもみんな優しい笑顔いっぱいの世界、それがこんなにも変化してしまったのに、蓮朔兄ちゃんは気付かない……。
不意に、僕は黒くて大きい宝の番人が本当に悪いやつなのか……疑問に思った。
蓮朔兄ちゃん、もしかして……。
『どうしたんだ?っあ、おいっ!待てって』
僕は走った……そうあの雲の広場まで、全力で後ろを振り返らずに……僕は走った。
『……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ』
雲の広場についた……、危ないと思って、自然に寄り付かなくなっていた雲の広場。
僕はみた……。
ヨー子が刺されて、倒れているのを……。
『はぁはぁ……ったく、急に走ったと思ったら、雲の広場に?危ないだろ?戻ろう……な?』
蓮朔兄ちゃんは冷静にそう僕に言った。
……ヨー子ちゃんのことが見えているはずなのに……平気な顔をして……。
『なんで?……なんで?こんなことを……、蓮朔兄ちゃんもヨー子ちゃんといて楽しそうだったじゃん……なのになぜ?』
『……俺が殺したとでも思っているのか?』
『……違うの?』
『あぁ違うって、ほらあの宝の番人だよ、な?早くここから逃げようぜ?』
『……違う』
『え?』
思い出した……。昨日みた夢、あれは、いつもの宝の地図の夢だったんだ。
そしてあの女の子は……ヨー子ちゃん。
ただ、あれはヨー子ちゃんの記憶の夢だったんだ。だから僕はいなかった。
……ヨー子ちゃんを刺したのは……。
『っ……れっ蓮朔兄ちゃんなんでしょう?』
僕は震えていた、そして泣いていた……。
『……あの水色の宝石は……ヨー子ちゃん、なんでしょう?』
蓮朔兄ちゃんは笑みを浮かべてこう言った。
『そうだよ』
……蓮朔兄ちゃんは諦めたように話しはじめた。
『最初は、宝の番人についての話をしていたんだ』
雲の広場(一昨日)
『宝の番人のこと、私は、あの子に教えるわ』
『ヨー子、いきなりどうしたんだよ……』
『私、もうあの子に隠し事したくないの……』
『……なぁヨー子、考え直せって、あの宝の番人は、お前と俺の魂じゃないか、俺たちはあそこから生み出されたもの』
『きっと、あの子はわかってくれるわ』
『……っち、ヨー子、お前には呆れたよ』
[ザシュ]
『……っぅ』
……(ゴメンナサイ……私……)
『ヨー子が死んだ、これであいつは俺の……ずっと、一緒にいるんだ……ん?なんだこれ?』
雲の広場(現在)
『それが水色の宝石だった……』
『ヨー子ちゃん……』
『なぁ水色の宝石はもつとあたたかいだろう?』
本当にあったかい、まるで太陽の光みたいだ。
『……それはな……それがヨー子の本体だからだよ』
『……え?』
『だから、ある意味、体は死んだけど、ヨー子は生きて、お前のそばにいたいって言ったんだよ』
『……だからお前に見せたわけだが、ヨー子はお前のことが大切な人と思っていてさ、お前はヨー子を大切な友達だと思っているわけ、なら俺は?って思ったんだよ』
『……だからって、ヨー子ちゃんを……』
『……俺はお前が好きだぜ、けどお前はこれ以上、本当のこと言ったらきっと……いっちまうよな』
蓮朔兄ちゃんはなんだか悲しそうな顔をした。
『……本当のこと?』
『お前はこの世界が嫌か?』
『……好きだよ、嫌なんて、思えないほど好きだよ』
『そうか……お前は俺のことはどう思ってる』
『蓮朔兄ちゃんも好きだし、もちろん大切な、大切な友達』
『……そうか』
何かを決心した顔をして僕に言った。
『すまなかった』
『……蓮朔兄ちゃん……』
『実は、今、お前は死にそうになっているんだ』
『……え?、僕が?』
『ここは、お前の夢の世界、まぁわかりやすく言うとお前の心の世界、生死の狭間だ』
『生死の……狭間?』
『俺らは、お前の奥深くの心だ、ヨー子はお前の優しい気持ち、そして俺は、お前のダークな部分だ』
『僕の心……?』
『そしてあの宝の番人が守っている【宝】』
『……宝は一体なんなの?』
『……それは、お前の生きるための、この夢の出口だ』
……僕はようやくわかった。蓮朔兄ちゃんは、ずっと僕にいてほしいんだ。
『お前がこの空間を怖いと言ったろ?それは時間がない、お前の生命力が尽きそうになっている証拠なんだ』
『……蓮朔兄ちゃん』
『……もういいんだ、俺がどうかしていたよ』
『もし僕がここからでたら、会えなくなっちゃうの?』
『……あぁ、けど、お前の心の中にずっといるから……さぁ行けよ』
僕を宝の番人の前に立たせる。
そこには扉があった……
僕らが探し続けていた夢の地図の目的地。
『行くのか』
番人が僕に尋ねる。が僕は迷っていた……蓮朔兄ちゃん、ヨー子ちゃん、僕が1番大好きな人達ともう二度と会えなくなってしまう……そんな思いが僕の心を締め付けていた。
[ーーーードクンーーー]
『ほらっ行けよっ、……お前が死んだら、俺たちは死ぬんだぞ?、ほら……さっさといけ!』
……蓮朔兄ちゃんが涙を流しながら僕に言う。
『大丈夫、私達はあなたの中でずっとそばにいるから……生きて……』
ヨー子ちゃんの声がした。
僕は決意した。
そして……僕は宝の番人の目の前にある、出口に目を瞑って飛び込んだ。
眩い光に吸い込まれて……僕は僕は……。
[ドクンードクンードクンードクン』
『反応がっ!!』
『嘘……本当に?』
『よかったですね、これでひと安心です』
『よかった……よかったぁっうぅわぁぁぁん』
人の声が聞こえる。
『……っう』
僕は目覚めた…… 医師とお母さんや姉がそばにいた。
僕は交通事故で1週間目が覚めなかったらしい。
お母さんや姉はずっとつきっきりで、そばにいてくれたらしい。
『お母さん、それにお姉ちゃんもありがとう』
『別に……』
『よかった……』
僕は助けられたんだ。
蓮朔兄ちゃんやヨー子ちゃん
僕は忘れない。
僕の心の中の秘密の大切な友達のことを……。
終