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異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまで

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異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまで

17 - 【第二章】第8話 言うならばせめて意思疎通が大事では?

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2025年09月15日

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「トラビス!トウヤ様のお迎えに行ってくれてありがとな!」


パフォーマンスが一段落したラウルがニコニコ顔で柊也達の元へと走って来た。先程まで彼の側にいた子供達の手には黄色や赤い風船で作られたキリンやらゾウなどが握られていて、とっても嬉しそうだ。


(こっちの世界でもバルーンアートってあるのかぁ。いいなぁ、僕もほし……ごほんっ)


子供の頃の憧れが少し頭をもたげ、柊也は羨ましい気持ちになったが、すぐに『子供っぽい要求は出来ないよね』と諦めた。

「いいんだよ、片付けの時間まではもう暇だしね」

穏やかな笑みで、ラウルに対しトラビスが返事をする。チラッと周囲に視線だけをやり、ヴァールスの姿がかなり遠くにある事を確認して、ほっと安堵の息を吐いた。


「トウヤ様。解呪は最後の締めに頼もうかなと思っているんですが構いませんか?」


人懐っこい笑顔を柊也に向け、ラウルが両手をパンッと叩く。

「うん、出来うる限り頑張るよ……あ、でも過剰には期待しないで下さいね?」

「大丈夫ー!だって、トウヤ様は【純なる子】だし!」

両手を広げ、笑顔を向けられた柊也の顔が少し陰った。彼らが抱く【純なる子】への『なんかスゴイ奴等らしい』という認識のせいで頭が痛い。


「さてと、トラビス……こっち来て!」


言いたい事を言ってスッキリしたのか、サクッと話を変えてラウルがトラビスの手を握り、やや強引に引っ張った。「うおっ!何だよ、いきなり」と声をあげながらも、トラビスが引かれるままラウルについて行く。


「どこに行く気だ?」


柊也達から離れ、広場の人集りをすり抜けて、中心部をラウルが目指す。そこは主賓であるカオルお婆さんの席があり、彼女の周囲には絶え間なく降っては消える、触れない色とりどりの薔薇の花弁が魔法のおかげで降っていてとても綺麗だ。

「ばあちゃんに祝いの言葉か?んなの最初か最後にしておけよ。今なんかまだまだ混んでるだろ。……ったく」

そうボヤきながらもトラビスはラウルの手を振り払ったりはしない。握られる手の温かさは、彼にとって振り解きたいなどと思えるものでは無かった。

「違うよー、お祝いの言葉はもう早朝にすませてあるしな」

ラウルが軽く後ろへ顔を向けてトラビスに言った。頰が少し赤くて緊張した顔をしているのだが、ピエロのメイクのせいでトラビスにはそれがわからない。


広場の中心に辿り着いてラウルの足が止まる。花弁が降り注ぐ範囲に入っており、二人を綺麗に包んでいる。映像を投影しているだけみたいなものなのに、会場中に花が多くあるおかげで触れられない花弁一枚一枚から心地よい香りがしている気がする。フワフワと、羽根のように舞い落ちる花弁にトラビスが目を奪われていると、ラウルが満面の笑みを浮かべた。


「実はさ、コレ、お前の為に用意したんだ。綺麗だろう?」


周囲に聞こえぬ様、ラウルはトラビスの耳元へ近づき小声で言った。

「そうなのか?とっても綺麗だ。すごいよラウル……流石だな」

少し切なそうな顔でトラビスが瞼を閉じて俯いた。『お前の為に』と言われたのが嬉しくて、ちょっと涙が出そうになり、それを必死に堪えている。だけどヴァールスの事を思うと、そんな台詞を友人相手にほざくラウルの神経を少し疑いたくもなった。


トラビスの複雑な心境を汲み取る事無く彼の前に跪いてトラビスの左手を取り、ラウルが優しく手の甲へ口付けをした。

何が起きたかわからず、トラビスが無言のまま目を見開く。『今お前、何をした?』と頭の中は完全にパニック状態だ。


「トラビス、俺と結婚してくれないか?」


言うが同時に、ラウルがスッとトラビスの左指を撫でると、虹色に輝くリングが姿を現した。

「……は?」

間の抜けたトラビスの声は、突然のイベント発生に驚いた周囲の人々の声で掻き消されたのだった。




——誰かを好きになるなんて、些細なきっかけで簡単におきるもんだ。

『お前の魔法、綺麗だな』

水で作ったイルカを見たトラビスが、そう言って俺の魔法を褒めてくれたのはもう随分前のことだ。

『俺のウチはみんな狩人だからさ、海の生き物ってあんまり知らないんだよ。——こんなに海が近いのにな』

目を輝かせて、トラビスが水のイルカに魅入ってくれる。でも俺は、彼の柔らかそうな髪、ぴくぴくと動く丸い耳、美味しそうに揺れる細長い尻尾の方に魅入っていた。

正直どこにでも居そうな雰囲気の少年なのに、性格の良さが滲み出ているのか、俺には彼がとてもキラキラと輝いて見えた。旅芸人の一団で手品師の真似事をしながら村々を回っているから美男美女など腐る程見慣れている。そのせいか、余計に彼の素朴さはとても癒された。


お互いにレーヌ村の出身だというのに、俺は両親と共に巡業に出ている事が多かったからトラビスの存在にこの日まで気が付いていなかった。その事を悔いたく成る程、俺はトラビスにあっさり簡単に堕ちてしまった。


仕事が終わり、村へ戻る事が毎年毎年とても楽しみになった。また逢える、トラビスとまた話せるんだ。そう思うだけで、帰りの道中はいつも心踊る思いだったんだ——




「トラビス、俺と結婚してくれないか?」


思い思いに話していた周囲の人達が一瞬静まり、次の瞬間どっと驚きに声をあげた。揶揄するような発言は一つもなく、まだトラビスは何も答えていないのに祝福する言葉を口にする者までいる。


「……は?」


間の抜けた声をあげたトラビスを見て、広場の中央へ向かって行った二人に追いついた柊也は、その様子にちょっと違和感を感じた。正直……喜んでいる感じが、無い。どう見たってトラビスは『コイツは何を言っているんだ?』と顔で語っている。でも周囲の目があって何も言えずに困っていると柊也の目には写った。


全くもってその通りだった。彼等は交際などもしておらず、逢うのは年に数週間という間柄だ。しかも今はヴァールスとの事もあるのに、お前はバカか?としかトラビスは思えなかった。


「俺と結婚してくれ!……嫌われてはいないと思うんだけど、違うのか?」

「まさか!友達を嫌う訳がないだろう?」


握られた手を軽く握り返し、トラビスが苦笑いを浮かべる。

「だよな!じゃあ、けっこ——」

再度言おうとしたラウルの言葉を、トラビスが口を塞いで遮った。

「まさか、ラウル……本気なのか?」

耳元に顔を近づけ、周囲に聞こえない声でトラビスが訊く。すると、これ幸いと言わんばかりにラウルがトラビスの頰にチュッとキスをした。


「おぉぉぉぉっ!」


温かい目で見守っていた人達から歓喜の声があがる。

咄嗟にトラビスは顔を真っ赤にしながら離れようとしたのだが、ラウルの方が早かった。トラビスの首に抱き着き、「本気じゃなきゃ、こんな風にプロポーズなんてしないさ」と満面の笑みで言った。ラウルの方がトラビスよりも身長が高い為、縋り付いているみたいな姿勢になっている。


「で、でもお前!だからって、何でだ?だってお前は、ヴァールスと付き合ってるんだろう?言ってたじゃないか『最高のパートナーだ』って」


素肌に頬ずりをされながらもトラビスは小声を維持したまま強い口調でラウルに言った。二股なんか絶対に嫌だ。恋人がいると知りながらの結婚なんぞ受け入れられる訳がない。


「あぁ言ったな、同業者だって。彼女は仕事上のパートナーだぞ?」


一切悪びれることなくラウルが言った言葉に、トラビスが言葉を失う。『俺の早とちり……だったのか?』と思うと同時に、『紛らわしい言い方しやがって!』と怒りも込み上げてきた。


「し……仕事の?私的な、パートナーじゃなくてか?」


「当然だろう?ヴァールスは既婚者で既に二十人以上の子供もいる子沢山ママだから、俺の眼中には全く入らないよ。俺は孕ませたいんじゃなくって、孕みたい側だしな!」

彼女のボンッキュッボンのテンプレ的ナイスバディを思い出し、トラビスが絶句する。でもまぁ、自分と同じくネズミタイプの獣人は子沢山の者が多い傾向があるので納得も出来た。

それよりもトラビスが驚いたのは、人前で『孕みたい』だなんだとほざいたラウルの言葉の方だった。流石に恥ずかしいのか、小声で言ってくれたので周囲の人達が冷やかす事は無かったが、なかなか返事をしないトラビスの様子には首を傾げる者達が出始め、空気を読みがちな傾向のあるトラビスの心が焦っていく。


(『うん』……と言うべきなのか?言わないとみんなの目がある。でも俺達は付き合ってもいないのに、色々すっ飛ばして結婚、だと⁈ラウルは今も旅芸人みたいなもんだし、俺は村で仕事があるし、ほとんど一緒に生活出来ないじゃないか。それは結婚していると果たして言えるんだろうか。都合のいい男として扱われ、他の村々にも複数の旦那や妻が居るような家庭になるのでは?)


考えが頭の中でグルグルと回り言葉が出ない。喉を詰まらせているトラビスとは違い、呪いのせいでラウルの方は尻尾が無いのに、喜びに尻尾をブンブン振っていそうなくらい嬉しそうに縋りついたままだ。


「ねぇルナール。これって、助け舟とか出すべき……かな」

「放っておいていいと思いますが」


少し離れた位置でそわそわする柊也の肩にルナールが後ろから手を置いて耳の側に顔を寄せる。人間タイプ特有の耳に頰を寄せたい衝動に堪えながら、彼は言葉を続けた。

「人の恋路に関わるとろくな事が起きませんからね、放置が一番です」

「そうかもしれないけど……」

いいの?いいの?と柊也が変わる事なくそわそわしていると、トラビスが空を見上げ、瞼を閉じた。


「……う、受けるよ」


降参した表情でトラビスが呟くと、周囲の人達が一斉に祝福の拍手をして、口々にお祝いの言葉を二人へ浴びせた。すぐ側で見守っていたカオルおばあちゃんもニコニコ顔で手を叩いている。


「ありがとぉぉぉ!愛してるよ!トラビス、これからはずっと傍に居るからな!」


ラウルの抱き着く腕に力が入り、トラビスが「うぐっ」と声をあげた。 空気を読み、取り敢えず了承したが、まさか『愛してる』と人前で言ってもらえるとは思っておらず両手で顔を覆う。『人前で!言うな!』と叫びたいが、空気を読むと叫べない。


「……拍手、するべき?していいの?これ」


柊也にはやっぱりトラビスが複雑な心境のままであるようにしか見えず、つい横を向いてルナールにお伺いを立ててしまい——近過ぎた距離のせいで、互いの唇が少し触れてしまった。

軽くかすった程度のもので到底キスとは言えないレベルのものだったが、目を見開いたまま柊也の体が固る。何が起きたのか頭で判断が出来ず、まだ触れていると言えなくも無い距離で。


トラビスとラウル、そしてルナールと柊也のラブシーン(仮)に会場が沸き立ち、祝いの席が更に盛り上がった。その様子を見てラウルが満足そうに頷き、トラビスは柊也達の仲良さげな姿に、自分の事は二の次にしたまま兄の様な眼差しを向けている。

ルナールと柊也は、「ごめ……ルナール。ちょっと近かったね」「人前ですみません」と言い合うながらそっと体を離した。

異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまで

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