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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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風が梅枝を吹き渡る。


後宮の庭には、ちらほらと春の芽吹きが漂っていた。


「今日は、ご気分がよろしいようで」


寝台に身を起こすドンレに、リンは声をかけた。


「さあ、薬湯をお持ちしました」


大振りの白磁の茶碗を差し出す美しい指。輝く瞳に、血色のいい頬。


ドンレは、思わず目をそらした。


「どうされました?」


「年には勝てぬ。私のことなど、もうかまわなくてよい」


「また、そのようなことを。私は、ドンレ様に命を救われたのです。ですから、私はお役に立ちたいのです」


グソンが王に斬られ、リンも捕らえられた。


謀反を企てた者と関わっていた――。それだけで、十分、死罪になりえる。


しかし、ドンレが救った。


美しいリンの命をみすみす取るのは偲びないと、側に仕えさせるために――。


近頃、ドンレは臥せりきりで、床《とこ》から起き上がるのもままならない。


リンにとっては好都合。夜伽《よとぎ》の相手をしなくていいからだ。


グソンを失い、しかも、女を相手にしなければならないと思うだけで、虫ずが走った。


それも、愛しいグソンを陥れた女であれば、なおさらのこと……。


「そうか……」


リンの胸のうちなど知りもせず、ドンレは弱々しく微笑むと、受けた薬湯を口にした。


──冷えきった後宮の廊下を抜けて、リンは足ばやに自分の屋敷へと向かっている。


後宮は静まりかえっていた。


王妃が亡くなり、ドンレまで病に臥せっていては、勤める女達も自然萎縮した。


王妃は乱心した王に切りつけられた――。


いや、かの国と戦を起こす口実の犠牲になった――。


さまざまな噂、憶測が飛び交って、宮殿自体とてつもなく深い闇に閉ざされている。


リンは、脇へそれた。グソンと暮らした屋敷は、リンのものになっていた。


彼がドンレにねだって、守り抜いた思い出の館《やかた》……。


従者達が深々と頭を下げて出迎える中を、黙って通り抜け、自分の寝室へ向かっていく。


「ああ、待たせたね」


「お呼びでしょうか?」


若い男が控えていた。


纏う白い作務衣から、ほのかに薬草の香りが漂ってくる。


男を気にすることなく、リンは従者を呼びつけ、宦官の黒衣を脱ぎ始めた。


従者の用意した部屋着に着替えると、リンは人払いを言いつける。


「それで、効き目はいつ現れるんだい?」


「そう早くは……」


「そうだね。あまりに早いと、宦官の仕業と、陰口を叩かれる」


リンの物わかりいい返事を受けて、男は表情を緩めた。


「でも、私は、はやくあの女を消し去りたいんだよ。さっさと毒がまわればいいのに」


「しっ、お声が」


いさめる男を押しやるように、リンがいきり立つ。


「はん!誰しも、ドンレは鼻につくだろう?私が皆の変わりに殺《あや》めてやるだけのことじゃないか」


男は、リンの有り様におどおどと周囲を気にかける。


「……わかりました。もう少し、量を増やしてみましょう」


男は、宮殿の薬師。リンがまだ見習いとして働いていた時、出入りしていた薬房で知り合った。


まさか、こんな形で役立つとは思ってもいなかった。


リンは、控える男に吐息のような声をかける。


「いいかい?頼れるのは、お前だけだからね」


男はリンの言葉に頬を染めた。

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