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──問う口からは、煙が吐き出され、ジオンの瞳は、相変わらずうつろだった――。
「どこへ行っていた?」
「申し訳ありません。屋敷へ。ユイの様子を伺いに」
「ユイの?」
「ええ。少しばかり具合が悪いようで……」
「そうか」
ウォルは眉をしかめた。しかし、ジオンは手にする煙管を放そうとしない。
「……ジオン」
ウォルのため息のような声を聞き、ジオンは手に目をやった。
「仕方ないだろう。疲れが取れないのだ」
少し悪びれた様子を見せて、そのまま煙管を置く。
あれから、ジオンは宮殿にとどまって、ひたすら、これから起こるであろう戦の準備に集中していた。
王の威厳は保っているが、阿片に蝕まれた体では、困窮する議事にもついていけるはずがなく、中座を重ねてばかりいた。
政《まつりごと》に興味を持ち始めたはいいが、中座ばかりの王では、まとまる審議もまとまらない。
ウォルは困り果てている。
「どうだ、東の様子は?」
横たわる長椅子から身を起こし、ジオンは王の責務を果たそうとした。
「はい。睨み合いといったところかと」
ウォルの言葉に、ジオンは考えあぐねる。次に何かにひらめいたようで、すっくとウォルを見る。
「東は、何事かあれば、北へ行く。健州国出身の歩兵は、粘り強くて、使い勝手がいいからな。どうだ、北への道をふさいでみるか?」
「北を?」
「私も行こう。宮にこもっていても体が、なまるだけだ」
おおらかに笑うジオンがいる。
「ですが」
「王が出れば、こちらの士気も上がる」
受けるウォルは複雑だった。
ジオンはもう昔と違う。
今ですら体がもたないというのに、それが戦場《いくさば》となれば……。
「もう、昔とは違うのです。ジオン。あなたも、いくばくか、力が落ちているのだから」
「これのせいか」
眺める先には、細やかな細工が施された煙管がある。
「ええ」
言うことで、ジオンが阿片をやめてくれればと願った。
戦のために。それでいい。それでいいから、阿片を断ち切ってほしかった。
このままでは、戦う前に命を落とすのが目に見えていた。
「私には、何も残らなかった……どうなろうと、自業自得だ」
ウォルに、返す言葉はない。
「だから……もういい。戦もこれが最後になるだろう」
やせ細り、小刻みに震える自分の指先を見るジオン――。
「私の亡骸を葬ってくれ……」
ウォルは、せつなさにさいなまれた。
これが、幾多もの民族を奪って、国を統治した王の成れの果てとは……。
王の行くところ、どこまでも付き従うのが、美郎兵としての自分の定め。
だが、それとは別に、狂おしいほどの愛しさが、ウォルの中に沸き起こっていた。
どんなことがあろうとも、この男を守りぬこうとウォルは心に誓う。