コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それから数日が経った。
伯爵家は、フィアディル家の公女を虐待し、殺害しようとした罪で、夫妻は処刑、ダリアは修道院に行き、使用人は全員解雇になったそうだ。ヴァムトゥル王国においての最大貴族であるフィアディル家だったからこんなに刑が重くなったのだろう。私がフィアディル家じゃなければ、多分夫妻は処刑にならなかった。兄は妥当だと言ってたけれど。
そして、彼が訪ねてきた。
「ルウィルク様、助けてくださり本当にありがとうございました」
彼は私をあの地獄から助け出してくれたのだ。本当に頭が上がらない。
けれど彼は、なんてことないような顔をして言う。
「いや、昔の借りを返しただけだが」
「昔の借り?」
はて、何のことだろう。
私と彼がどこかで会ったことがあったか?
「……覚えてないのか」
「はい」
即答した私に、彼は丁寧に話してくれた。
曰く、五年前、彼が路地裏で怪我をして困っていたところ、私が治癒魔法を使って彼の怪我を治したらしいのだ。
聞いていると、確かにそんなこともあったな、と思い出してきた。
昔の借りと言っても、そんな大したことはしていないのだが。
「まあそういうことだから、俺が勝手にやっただけだと思ってくれ」
……そう言うなら、ありがたく受け取っておこう。
すると彼は、何かを思い出したような顔をした。
「ああ、それともう一つ話したいことがあるんだが、お前、伯爵家に来てから治癒魔法が使えなかっただろ?」
「は、はい。何故それを……」
「まあ最後まで聞け。その使えなかった理由なんだが、お前自身に封じ魔法が掛けられていたからみたいだ」
「封じ魔法?」
伯爵邸の離れに掛けられていたあの?
「ああ。恐らく、伯爵がお前にもあの離れにも掛けていたんだろうな」
なるほど。
「それで、俺がお前に掛けられていたその封じ魔法を勝手に解いてしまったんだが、大丈夫だったか?解いた後から聞いても遅いとは承知しているんだが」
「はい、大丈夫ですよ。むしろありがとうございました」
「それは良かった。ここで質問なんだが、お前はまた治癒魔法を使いたいと思うか?」
彼の綺麗な瞳が私を覗き込んでいた。
私はそれをまっすぐ見つめ返し、頷く。
それはもちろん。
「はい、使いたいです」
誰かを救えるような力が私にあるなら、私はそれを使いたい。
「お前ならそう言うと思った。分かった。じゃあお前の身体が完全に回復したら練習を始める」
そう、言い忘れていたのだが、私の身体は栄養失調や過労で倒れる寸前だったらしく、医師からは二週間は安静にするように言われているのだ。だから、練習が始まるのは早くても一週間後。本当は今すぐにでも教わりたいのだが、残念である。
「ありがとうございます。では、これからよろしくお願い致しますね。ルウィルク様」
「ああ、よろしく」
そうして私は彼に微笑んだのだった。