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翌日、真紀は資料室にある時計をじっと見つめていた
そろそろ麗華のミルクを作って飲ませてやる時間だ・・・そして麗華はミルクを飲んだら午前中のお昼寝をする、赤ん坊との生活にはリズムある。ここ数日はこの静かな会社の資料室で日中を麗華と二人っきりで過ごし、就業時間には麗華を起こし、連れて帰って食事をして、寝かせると言う日課に、真紀は心落ち着くものを感じていた
しかし、それも今日でおしまいだ、もしかしたら午後からは新しい職探しの旅に出ないといけないかもしれない。昨日氷の財務部長にいつものように出勤するようにと命令されて、今朝も麗華を連れて出勤してきたが、財務部長は一向に現れない
なので真紀は少しでも仕事が進むように作業を続けた。どんなに昨日ジェニさんに電話しようかと思ったが、財務部長は真紀に口止めした、その意図もわからない
「おはよう」
しばらくしてファイルを掲げた宗一郎が入って来た、今日はグレーのダークスーツに身を包み、真っ黒のネクタイをしているし、真っ黒の革靴も大きい、意志の強そうな短髪に銀色に光っている眼鏡からは、やはり温かい人間味が感じられない
メビウスのセクシー3トリオと言われている藤子情報で、彼らは本当に背が高くて低身長の真紀は圧倒されるし、なんだか恐ろしい
宗一郎が麗華を見てあからさまに顔をしかめた、思わず体がビクつく、麗華を見て顔をほころばさない人間はいない、つまり彼は噂通り、冷酷社長と同様、財務部長も人間ではないということだ
ああ・・・きっとあのファイルには退職合意書が入っているのだろう・・・真紀はため息を一つついた
青ざめている真紀を見て宗一郎は昨日の竜馬とのやりとりを思い出していた
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「なんだって?赤ん坊を資料室に隠しているだぁ~?」
竜馬が今にも爆発しそうなぐらい怒りを露にしている
「言わせてもらうが、お前の忍耐力はゴリラ並みだな」
そう言うと、くるりと後ろを向いて、擦りガラス越しに見えるメインの執務エリアを眺めた、オフィスには相変わらず大勢の人が働いているが、宇宙船のように薄暗く、均等に並べられたデスクに座ってみんな屈みこんでパソコンをいじっている
スーツ姿も、背格好も同じのブラック集団で、葬式の様だ、そしてみんな個性が無く、誰が誰か見分けがつかない
「お前がどうして神崎広告代理店を買収したかは、もう敢えて聞かない事にしよう」
宗一郎は冷ややかな視線を竜馬に向けた
「今では後悔してるよ、どいつもこいつも人員削減対象だ、おまけに赤ん坊を連れてきているヤツがいるのか??いつからここは託児所に変わったんだっっ!」
今や怒りを露にしている竜馬はデスクをバンッと叩いた
「まったくアイツらは何を考えているんだ、早急に対処をする!」
宗一郎はガラス越しに竜馬が怒り狂うのを見ていたが、くるりと振り返った
「学生時代からお前の悪友のよしみで一つ頼みたいんだが」
二人はデスクを挟んで睨み合う形になった、そして宗一郎は竜馬に言った
「この件は俺に任せてくれないか」
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宗一郎は目の前の女性を見つめ、彼女の膝の上に座るフワフワの髪の毛の赤ん坊には目を向けないようにした、なぜならその赤ん坊がとんでもなく大きな目で自分をじーっと見ているからだ
とにかく見ている、ずっと見られて居心地が悪いぐらいだ、オフィスに赤ん坊がいる光景にはなんとも言えない気持ちになる
「このままずっとバレないとでも思っていたのか?」
宗一郎は言った
「いいえ・・・この会社の買収計画が出た時、私はすぐに麗華を保育園に入れました・・・でも今保育所は大変な事になっているんです。コロナウィルスに侵された保育士さんが皆体調不良で、ベビーシッターもどこも保育士不足なんです。麗華の保育園も来週まで再園されないんです」
「それでここに連れて来たのか?他に見てくれる家族は?」
「そんな人がいたらとっくに預けています!私だって娘の生活リズムを崩したくありません。しかし私はたった一人で娘を育てていますし、働かないことには家賃を払えません。私しか出来ない案件をかかえています、この会社は在宅ワークを禁止しています」
宗一郎は答えなかった・・・険しく細めた目で見つめられ・・・いたたまれなかったが真紀は必死に踏ん張った
「連れて来るしかなかったんです・・・会社の規則を破ったことは認めます、今日中には退職届を出します」
とりあえず言うべきことは言った、あとは向こうがどう返してくるかだ
麗華は相変わらず真紀の膝の上でクピクピと小さな声を漏らし、おしゃぶりを吸っている。よく泣くタイプだとこうはいかない、けれど麗華はとても育てやすい赤ん坊だ。真紀は麗華の頭をそっと撫でてやった
宗一郎は彼女の膝の上でうとうとしている赤ん坊に目を落とした・・・その拍子に真紀の濃いまつ毛が揺れるのを見て思わず彼女から目が離せなくなった
彼女のまなざしは愛しい我が子を見つめる母親そのものだった・・・何かが自分の中からこみ上げてくる、彼女が立ち上がり、寝てしまった赤ん坊を手際よくファイルボックスに寝かした、赤ん坊の名前を聞こうとしないのは冷たいだろうか?・・・と宗一郎は思った
「オフィスは託児所ではない」
「ハイ・・・自覚しています」
真紀が下を向いて目を閉じた
「しかし、俺自身、働き者のシングルマザーの息子として生きてきた、そして俺は個人的に君を支援したいと思っている」
「え?」
真紀が言葉に詰まっているうちに、宗一郎が何やらガタガタと大きな荷物を扉から資料室に運びこんできた
真紀の背丈ほどある大きな段ボールを開封すると、そこには真っ白なベビーベッドのパーツが沢山入っていた
「しばらくここで作業するんだろう?ファイルボックスはその子にはあまりにも可哀そうだし、ファイルボックスはファイルを入れて置くものだ」
―え?・・・今笑った?―
途端に真紀の心臓がはねた・・・そして信じられない事に彼が無言でベビーベッドを組み立て出した、状況がまったく飲み込めない、沢山の種類のネジがビニール袋に入れられてるのを真紀は途方に暮れて見つめる
「神崎のアイツらが、君をかくまう理由を知ってるぞ、君はなかなかの経歴だな」
今度はハッキリ彼がニヤリと笑って言った
「君こそが、神崎広告代理店の秘密兵器なんだろう?ヒットした神崎のデザインは君が全部手掛けている、(天才WEBデザイナー)の山田真紀さん」
コメント
1件
ああ、もう、心臓がドキドキしてます……! 第23話、めちゃくちゃ良かったです。厳格な財務部長・宗一郎が、まさかのベビーベッドを組み立て始める展開、想像できませんでした。真紀の事情を理解した上で「支援したい」と言う台詞に胸が熱くなりました。「天才WEBデザイナー」の正体が明かされるラストも痺れますね。続きが気になって仕方ないです!