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「奈美……」
肩よりも下に伸びた髪を撫でながら、彼女の更に細くなった腰に腕を回した。
豪の腕の中に、愛おしい女がいる。
それだけで心が癒やされていく。
強く抱きしめたら、身体が本当に折れてしまうのではないか、と思うほど奈美は一回り小さくなってしまったように感じた。
ここに来る前に入浴してきたのだろう。
濃茶の艶髪から、仄かなフローラル系の香りが、豪の鼻腔を撫でていく。
ひとしきり奈美を抱きしめたままでいると、彼女が身体をモゾモゾと動かし始めた。
「その前に豪さん。私……あなたに謝らなければならない事があります……」
細くなった腕を伸ばし、彼から少し身体を離しながら見上げる。
「謝らなければならない事?」
「……はい」
「ひとまず、座ろう」
彼は、奈美の肩を抱き、二人でソファーに腰掛けた。
「あの日……豪さんと交差点で会った日……突然さよならのメッセージを送ってしまって……ごめんなさい。本当なら私…………ここにいられる立場じゃないのに……」
奈美が言いながら、徐々に顔を伏せていくのを見て、豪は抱き寄せた。
「いや、謝らなければならないのは俺の方だ。奈美と想いを通わせた日に、きちんと言えば良かったんだ。以前から元カノが、俺と寄りを戻したいってしつこく連絡してきて、俺には奈美という大切な存在がいたから、交差点で会ったあの日は、奈美の存在を打ち明け、完全に縁を切るために元カノと会っていたんだ」
奈美の息を呑む音が、微かに聞こえたような気がした。
「奈美に言わなかったのは、俺の問題は、俺自身で解決したかったという事と、奈美に言ったら、余計な心配を掛けさせてしまうのではないかって思った。だから俺は敢えて口にしなかった。だが、それが却って奈美を傷つける結果になってしまった。本当に……すまなかった……」
彼は更に彼女を抱きしめながら、奈美を見やると、俯いたまま雫がポタリ、ポタリと落ちていくのが見える。
ワインレッドのスカート部分に染みを作り、涙の痕跡が増えていった。