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「豪さんに、さよならのメッセージを送った後、メッセージを送ってくれましたよね? あれ……私、読まなくて。あの時の私は、豪さんの隣にいる意味はもうないと思って、そのまま、メッセージアプリの豪さんのIDを消去したんです。本当にごめんなさい……。帰宅してからも、あのSNSの退会手続きもして、豪さんの事を忘れよう、諦めようって……思ってました」
奈美の心が、そこまで追い詰められていたとは知らず、豪の心は焼け爛れたように苦しくなり、堪らず彼女の身体を掻き抱く。
啜り泣く声が聞こえ、奈美が身体を微かに離しながら、彼に眼差しを送った。
「でも……でも…………私よりも豪さんの方が…………もっと……もっと大変だったんですよね……?」
奈美は、恐らく優子が逮捕された事を言っているのだろう。
「この前の日曜日、テレビで向陽商会のニュースを見て……逮捕されたのが、あの日、交差点で豪さんと一緒にいた女の人だったし……」
彼女はニュースを知った時、俺と一緒にいた元カノが何で逮捕されたのか、ワケがわからなかったかもしれない。
それに、連休明けには、純から豪の連絡先が書かれたメモを受け取り、連絡を入れて欲しい、と言われていたかもしれない。
電話はしたのはいいけど、何故出なかったのか、そこのところも彼女にしっかり説明しないといけない。
豪は、二人の間に残る不安要素を、全て消し去りたかった。
「奈美が俺に電話してくれた夏季連休明けの出勤初日、うちのホームページの問い合わせ欄に、俺を名指しで誹謗中傷する書き込みがあったんだ。でも、この事を話す前に、俺と元カノの間に、何が起こったのかを話しておかないとならない。長くなるが、聞いてくれるか?」
「もちろんです」
彼女が、涙を拭いながら頷く。
俺は奈美を泣かせてばかりだな、と思いつつ、豪は、訥々と話し始めた。
「奈美と交差点で会った時、あれは元カノと完全に縁を切るために会った、という事は言ったよな?」
「はい」
彼は、奈美の前で元カノの優子の話をするのは心苦しかったが、この先、いい関係を築いていくためだ。
「……奈美と交差点で会った直後、俺は元カノがトイレに行っている隙に君へメッセージを送った。さっき奈美が言ってた俺のIDを削除する直前に送ったメッセージだ。そのメッセージを送っている途中、元カノに見られて、俺のスマホを奪われ、奈美のIDを削除されたんだ」
「そうだったんですか……」
奈美が微かに瞠目しながら、後悔を滲ませた面差しを見せた。