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【恋心に鱗】
とあるなんでもない日常の最中、向井康二と目黒蓮は知る人ぞ知ると言ったような居酒屋の個室にいた。
🧡「めめのドラマ最終回見たで! 俺もう最後の方ずっと泣きっぱなしで目ぇパッキパキになってん」
🖤「ハハッどういうこと? いやでもありがと」
向井は一般企業に務める社会人、目黒は学生時代から芸能活動をしており、今や誰しもが知るような国民的な俳優となっていた。
活動初期から、というより家が近かった幼少期の頃から傍で目黒を見てきた向井にとっては本人以上に誇らしい気持ちを持っていた。
大人になってからも時間が合えばこうしてご飯や遊びに行くような仲である。
🧡「撮影終わったんやったら仕事ちょっと落ち着くん?」
🖤「今ちょっと違う映画のオーディションの話来たからそれ受けてるんだよね」
🧡「なんそれ! めめなら絶対うかるやろな〜公開初日に見に行くわ!」
🖤「まだわかんないよ笑」
向井は前のめりになり、目を煌めかせた。オーディションを受けてばかりで結果も出ていないがもう映画公開の話をし出す。
🧡「めめがちっちゃい頃から見とる俺が言うんやから間違いない! また楽しみが増えたわ」
🖤「まぁ、決まったらまた言うよ」
🧡「にしても、ラウ遅ない? 撮影長引いとんのかな?」
🖤「もうすぐ着くみたいなこと言ってたからそろそろなんじゃない?」
今日の個室は実は3人予約。2人には待っている相手が居た。腕時計を見ながら酒を口にしていると小さく足音が聞こえ、個室ドアを開ける音が聞こえた。
🤍「やっほ〜〜! ごめんね遅くなっちゃった」
🧡「ラウ〜ル〜!お疲れさんやで、撮影大丈夫やったん?」
🤍「機材トラブルがちょっとね、全然大丈夫。もう2人とも飲んでる?」
🖤「まだ1杯目だから平気、なに飲む?」
2m弱もある身長の青年が入ってきた。
彼は目黒と業界仲間であり、モデルのラウール。
モデルとしてはまだ駆け出しだが、圧倒的なスタイルと美しい顔立ちで既に多くのファンが存在している。
空いている椅子に座るラウールに向井がメニュー表を渡す。
メニューを見るや否や手短に「レモンサワーください」と従業員に伝える。従業員は軽くお辞儀をして個室ドアを閉めていった。
🤍「あっ康二くん、この前撮ってくれた宣材写真HPに更新したよ!もうね、めちゃくちゃ好評!ほんとありがとね」
🧡「当たり前やんか〜俺が本気で撮ったんやから!好評なんやったらよかったわ」
🖤「俺の今の公式のやつも康二が撮ったやつだよね」
🧡「せやで、あれも結構前のになるよな。また撮ったるわ!」
向井は趣味の範囲でカメラマンの仕事もしている。腕前はプロ級で目黒やラウールなど、知り合いから依頼があれば撮影を担う。
2人の紹介で数人の芸能人の宣材写真も撮影したことがあった。
そして、ラウールが何かを思い出したように2人に話しかける。
🤍「ねぇ聞いて、最近なんかちょっと変わった動画見つけたんだけどね!見てこれ!」
ラウールはいかにも聞いてほしそうな顔でスマホを開き画面操作する。
🧡「またなんかおもろい動画でも見つけたん?」
🤍「面白いと言うよりなんか、不思議というか…なんだよね。ほらこれ!」
ラウールが差し出してきたスマホを向井と目黒が顔を寄せて覗き込む。
そこに映っていたのは2人の男女だった。縦画面動画で、YouTubeshortのようだった。
ただの男女ではない。あまりに目を引くものがあった。
🧡「えっ……これ……ホンモン?」
🖤「……なにこれ?」
🤍「超リアルじゃない? 人魚!!」
動画には人魚の女性が映っていたのだ。
おそらくカップルYouTuberの類だろう。女性がソファに横たわり、尾鰭をなびかせていた。
緊張しているのか、一言も喋らず口を閉ざしたまま、表情は少し固いように見えた。
対照的に男性の方はずっと笑いながら「やべぇ」だの「すげぇ」だのと喋っていた。
動画タイトルには
【彼女が人魚になりました】
と至ってシンプルなものであったがインパクトは相当なものだった。
こういった動画であればコメント欄の人々は決まって
「CGだ」
「合成だ」
「AIだ」
「コスプレだ」
などと言うだろう。
案の定、コメント欄は憶測が飛び交う、賛否両論の嵐だった。
しかし、動画の女性の人魚部分は合成、AI、コスプレという言葉には収まらない程リアルで生々しいものであった。
これは確かにラウールの言う通り、面白いというより不思議だ。
🖤「普通にCGとかじゃない?」
目黒は冷静に一言放った。しかしラウールの熱は収まらない。
🤍「でもね、気になってこの人達の他の動画みたんだけど普通の一般人っぽいんだよね。そんな人達がここまでリアルに作れる技術あるのも凄くない?」
🧡「確かにそんな腕あるんやったら最初からやっとるやろうし……」
🤍「でしょ!?もしかしたら本物の人魚さんかもよ!」
🧡「ホンマやったら大発見とちゃう!?」
向井とラウールは目をキラキラ輝かせて1分もない短い動画を何回も繰り返しまじまじと見ていた。
🖤「2人とも……なんか可愛いね笑」
🧡🤍「なんで!?」
🖤「いやだって……なんかピュアで……笑」
目黒はあくまで作り物だと信じて疑わないようだった。2人の様子を見て微笑ましかったのか、フッと笑みがこぼれる。
🧡「めめも昔はピュアで可愛かってんで?それが今やこんなイケメンになってもうて……背もいつの間にか追い越されてもうて……モテモテになってもうて……!!」
🤍「康二くんもう酔ってる?」
🧡「酔ってへん! もう1杯飲む!!」
🖤「程々にしときなよ ?」
そうして3人は世間話や最近の仕事話に花を咲かせ、時間はあっという間に過ぎ去る。
🤍「康二途中からずっと水じゃない?脱水症状か何かなの? 」
🧡「いやそんなんやないんやけど、最近なんか、妙に喉渇くというか……酒より水飲みたくなるねん」
🤍「…………老い?」
🧡「ちゃうわ失礼な!! 」
🖤「ハハハッ康二もいい歳だもんね」
🧡「めめもあんま変わらんやろ!!」
気づけばもう22時を回っていた。ラウールと目黒は明日も仕事があるため3人はここで解散となった。
帰り道、途中まで方向が同じだった目黒と向井は2人で静まり返った夜道を歩いていた。
長年の付き合いで無理に会話を続けようとせずとも、沈黙ですらも心地よいと思えるこの空気感が向井は好きだった。
🖤「さっき康二さ、昔はピュアで可愛かったって言ってたけど、今はピュアじゃないってこと?」
🧡「えっもしかして気にしとったん?」
🖤「いや別に…」
🧡「そういうとこがほんま可愛ええんよ!今でもピュアっピュアで可愛ええに決まっとるやんけ!」
🖤「いやそこまで言わなくても…笑」
🧡「でもやっぱ今はかっこええんよな……周りのみんながほっとかんやろ? そのうちめめは結婚して俺のもとから離れていくんやろな…」
🖤「そんなことないって笑 また康二とご飯 行きたいよ。写真だって撮ってもらいたいし。康二の撮る写真好きだからさ」
🧡「ホンマ!? めめ大好きやぁぁ〜〜!!」
🖤「ちょ、抱きつかなくていいからマジでちゃんと歩いて笑」
🧡「ええやんか、ちょっとくらい」
向井はこうやって明るく、あくまで幼なじみの距離感で目黒に縋ることで、自分の内なる想いを誤魔化していた。
🧡「明日も仕事やろ、頑張りや!」
🖤「ありがと、じゃあね」
🧡「おやすみやで〜」
分かれ道で目黒へ手を振り、向井は1人で道を歩き始める。
2人だったのが1人になり更に静かになった向井は道中、お酒も多少入っているせいか、自身の中の想いにふけはじめた。
目黒に友人、幼なじみ以上の感情を持つようになったのはいつ頃だろう、と振り返るとおそらく自身が大学生だった時代にまで遡る。
18歳にして恋愛ドラマの主要人物役に抜擢された目黒の芝居の練習の為に、台本の読み込みに付き合ったことがきっかけだった。
セリフを読む時の熱量や視線、頬を撫でられた時の手つき。本気で口説かれているような気がした。目黒が恋愛ものの作品に出演する度にそのような事があった。
それにときめいて今も尚恋心を拗らせている自分は目黒の言う通りピュアで、相当なロマンチストなのかもしれないと思う。
自宅に着き、カバンを部屋の隅に起きベッドに倒れ込む。そして1つ深呼吸をした。
この想いを明かすつもりは無い。隠しておく、心の奥深くに。深海の底に沈めるように。
きっと目黒の邪魔になってしまうからと。
🧡「……水…喉渇いたな」
ベッドから起き上がり冷蔵庫から水を出し、数口飲む。その後、風呂場へと向かって行った。
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