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<9:00>
土曜日の朝、仕事が休みの向井は平日よりも遅い時間に起床した。
あくびをしながらベッドの中でもぞもぞとスマホを探す。
今日は昼過ぎからカメラ購入の相談をうけている学生時代の先輩と一緒にショップへ行く約束をしている。
スマホ画面を開くとLINEの通知が来ていた。
♡「13時くらいに〇〇集合ね〜」
今から準備するには十分すぎる時間だ。
余裕があるので寝起きのシャワーを浴びようと起き上がる。
その前に、乾いた喉を潤すために冷蔵庫にある飲みかけのペットボトルの水を飲み干す。
そしてそそくさと風呂場へ向かう。
鼻歌を歌いながらスウェットのズボンを脱いだ時、自身の脚に違和感を感じた。
🧡「ん……? なんこれ……?」
それは右の足首あたりにあった。
昨日までは確かになかった、模様のようなものが脚に少し浮き上がっていた。気になってそこを指で触ってみるとザラザラと硬い感触がした。
🧡「え…?なんやこれ…ホンマになんなん……!?」
そう広い範囲ではないが、見るからにそれは
魚の鱗 のようだった。
🧡「え? 病気なんこれ?……でも痛ないな…」
当たり前だが前代未聞の出来事に独り言が止まらない。自身の体を風呂場の鏡で確認するが模様が見えるのは足首のそこにしかない。
🧡「これ皮膚科? になるんか?いやでも今日土曜やからそもそもやってへんかもしらん…」
昼過ぎから予定もある向井にとっては今日病院に行くという考えはなかった。
シャワーを手早く済ませ、外出の準備を始めるのだった。
13:20
向井は待ち合わせをした学生時代の先輩と共にカメラショップにいた。
友人の使用用途にあわせてぴったりのカメラを選ぶ為だった。
🧡「風景とか撮るんやったらこれやな、何撮るん?」
♡「えっとね、何種類か欲しくてさ。夜に撮ること多いからそれ用と遠いとこでも高画質で取れるやつと〜あと超小型のやつ」
🧡「ちょ待って、小型は何撮るつもりなんそれ」
♡「まぁ色々とね〜職業柄ってもんよ」
🧡「…犯罪はアカンで!?」
♡「ちゃちゃ、そんなんじゃないよ笑」
🧡「ほんまに仕事なにしてるんか教えてくれんでな。いい加減教えてぇな」
♡「まぁそれはいいじゃん!教えるべき時が来たらね」
結局いつもこうはぐらかされる。小型のカメラは向井も使ったことがなかったので自分の知識の範囲内で助言をするのみとした。
結局カメラ3種類購入、当たり前だが相当の額になるが、先輩は何でもないような涼しい顔でクレジットカードで済ます。
🧡「そんだけ買ってカード止まらんの?」
♡「今はまだ耐えだね。先々月1回止まってさ」
とカードが止まるのが日常茶飯事のように話す先輩だが、現状どうやらお金には困ってないようだ。
16:30
♡「ほんとありがとね、今日」
🧡「ええよええよ。またなんかあったら相談してや 」
♡「もちろんもちろん」
🧡「ほなまた次は飯でも〜!」
♡「ごめんね俺の事情で、じゃね〜」
カメラ購入後も会話が弾み、2人が解散した頃には夕方になっていた。先輩が人の波にまぎれ見えなくなるまで、向井はそっと見送り自信も帰路に着いた。
17:00
自宅に戻るとすぐにリビングのソファに身を投げた。低反発のソファの中に体が沈んでいく感覚が心地良い。今日の楽しさの余韻もあり、ついついボーッとしてしまう。
そしてハッと思い出す。朝に見た右足首に浮かび上がった鱗のような模様の存在を。
先程のまで浸っていた余韻も一気に消え、身を起こし恐る恐るズボンの裾を捲り、靴下を脱ぐ。
🧡「うわぁぁぁ!!」
部屋中に向井の声が響き渡った。
鱗が脚のすねにまで広がってきていたからだ。
それだけじゃない。鱗に色まで着いてきているのだ。
🧡「なっ……なんなん……ほんまに…。」
触るとその感触は間違いなく、本来は魚に着いているはずの鱗その物であった。そして向井は嫌な予感がした。
🧡「もしかして……」
と、反対側の左脚のズボンも勢いよく捲りあげた。
直後、もはや言葉も出なかった。
左脚も鱗を浮き上がらせていたのだ。
🧡(どうしよ……コレもしかしたらもっと広がるんやないの……?)
前代未聞、正体不明、原因不明の症状に向井の頭は混乱状態。込み上げてくる不安の波に呑まれそうだった。
その時、ふと昨日の事を思い出す。
居酒屋でラウールが見せてきたYouTuberの動画。
人魚の女性が映っていた、あの動画。
あれがもしAIやCGではなく、本物だったとしたら。
自分もあの女性のようになるのではないか。
不安のせいか、喉がカラカラしている。
向井は声も出さず冷蔵庫にあった水の入ったペットボトルを掴み一気飲みする。
足りない。
グラスに持ち替え普段は飲まない水道水をこれでもかと言うほど胃に流し込んでいく。
少しずつ、満たされていくような感覚を感じる。
向井はその場にへたり込んだ。
自分は今、何になろうとしている?
考えたくもなく、すぐさま立ち上がりベッドに潜り込む。人間というのは何もしていない時ほど余計なことを考えてしまうものだ。
皮肉にも、向井はただの人間ではない何かになろうとしているかもしれないのに。
🧡(誰かに……言うた方がええん……?誰に? 言うたら引かれん……?…病院は?治るもんなん?…原因は?)
答えの出ない問いかけだけが頭の中を渦巻く。
布団にくるまり、暗闇の中で胎児のように身を丸め、ただジッとすることしか出来なかった。
そしてそのまま、海で溺れ意識を手放すように、気づけば眠りについていた。
21:45
🧡(ハッ……寝とった……)
眠りにつく前までと全く同じ体制のまま、向井は静かに目を覚ました。
このまま、今までが夢であってくれと願いながら体を起こそうとした。しかし、その時点で脚に強烈な違和感を感じた。
脚が上手く動かない。
夢ではない上に更なる嫌な予感がするのだ、これ程に現状を見るのが怖い瞬間があっただろうか。
部屋の電気すら付けず真っ暗な中、ベッド横のサイドテーブルに置いてあるスタンドライトに手を伸ばす。
カチッと灯りの着く音が鳴った。
その瞬間、部屋中に向井のこれまでに無いほどの悲鳴が響き渡った。
怪物でも見たような、恐怖に怯える悲鳴だった。
🧡「なんなん……ほんま……やめてや……」
左右の足首から膝下にかけてが繋がり1本脚になり、足首から下はもはや人の足の造形を失っていた。
そして憎たらしい程、美しい鱗と尾鰭が照明の明かりに照らされキラキラと光っていた。
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【PROFILE │ FILE.01】
🧡向井康二 : 一般人
カメラが趣味の社会人
大学生時代に目黒への片想いを自覚
人魚になる奇病を患う