この作品はいかがでしたか?
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💚side
時は明治
静かな和室の部屋で鉛筆を走らせる音だけが鳴り響いている
そろそろ休憩しようかと悩んでいた時、襖が開く音が聞こえて後ろを振り返るとそこには寝巻きを着た弟がいた
🤍兄さんっ
💚おお…ラウールか
💚まだ起きていたんだね
🤍はい、
🤍兄さんはまだ勉強なさるのですか?
💚もう少しやろうかな
🤍そうなんですね…
🤍無理なさらないでくださいね
💚ありがとう
💚今日はもう遅いだろう、ラウールは寝な
🤍はいっ失礼します…
去ったラウールの姿を確認してから俺はもう一度机に向き直った
〜数分後〜
💚(もうみんな寝静まったかな…)
💚(外に出るか)
由緒正しき名家の長男として生まれた俺は
昼間は中々外に出る機会がない
外へ出るとなれば使用人がつくのでそもそも出ようとすら思わない
邸宅の中で自分の素を出せるのは弟のラウールの前だけだ
ラウールはいわゆる※混血児というやつで俺とは母親が違う
※明治時代でいうハーフのこと
家の跡を継ぐことが決まっている俺は父さんから苦しくなるほどの期待を寄せられているけれど、その期待に応えたいと思いながら勉学に励む日々を過ごしていた
そんな俺にとって一番安らげる時間が夜の散歩だった
家の者が皆寝静まってから二十分ほど外に出て邸宅から少し離れた所まで歩く
人通りの少ない道と夜風の少し冷たい風が俺の頭を空っぽにしてくれる
💚(やっぱりこの時間が一番落ち着くなぁ)
そんなことを思いながら夜道を歩く
その日もいつもと同じように少し歩いて帰るだけの予定だった
しかし
シャラン…
どこかから鈴のような物がなる音が聞こえてきた
シャラン… シャラン…
💚(鈴の音?)
💚(どこから鳴っているんだ?)
俺は音の行方が気になりいつもとは違う道を行くことにした
シャラン シャラン
次第に音が大きくなっていく
近づくにつれて好奇心からか胸が高鳴るのを感じた
💚あそこから聞こえる…
どうやら音は川の近くで鳴っているらしい
俺は近くにあった木に隠れて音の出どころを覗き込んだ
シャラン!シャラン!
そこには狐の面を被って舞を舞っている人の姿があった
お面で顔を隠しているので性別は分からない
自身の体より大きめの白い服を着て両手には鈴を持ち身軽に体を動かしている姿が月夜に照らされている
💚…美しい
思わずそう口に出してしまった
シャラン!シャラン!
あまりの美しさに俺はその人が舞をやめるまでずっと見ていた
二十分ほど経っただろうか
その人は突然舞をやめその場から去っていった
あまりの美しさに声をかけることが出来なかった俺はその人が去ったのを確認してから邸宅に戻ることにした
💚また…会えるだろうか…
そんなことを思っていたこの時には既にあの人の虜になっていた
〜後日〜
あれから俺は必ず川の近くを散歩して、あの人の舞を隠れて眺めるのが日課になっていた
あの人はいつも同じ時間に20分ほど舞っているようで俺もその時間に合わせて散歩へ出かけることが多くなった
💚(やはり…あの人の舞は美しいな…)
💚(永遠に見ていられそうだ…)
月夜に照らされた川の水面が反射して舞の美しさや儚さをより一層際立たせている
💚(そろそろ終わる頃かな…?)
そう思った時、ちょうど舞をとめてその場から去ろうとした
その時、自分の中で少しあの人に近づいてみたいという気持ちが湧き出た
鈴を持ってその場から去ろうとする姿を確認する
💚(ついていってみようかな…)
突発的にそう思った俺はその人が歩いた方向へ向かった
俺よりも少し小さい体はどんどん街へ向かっていく
真夜中だから人通りも全くない中、その人が道を曲がったので俺も曲がった
しかし…
💚あれ…いない?
小さい小屋を右に曲がった姿を確かに見たはずなのに俺が曲がるとそこに人の姿はなく、ただ人のいない暗い道がのびているだけだった
💚おかしい…
💚確かにここを曲がったはずなのに…
そう思っていた時
?)ここだよー
💚えっ?
突然響いた少し高めの声
俺は辺りを見回すが誰もいない
💚なんだ?今の声
?)だーかーら!ここだよっ!
?)うーえ!
💚うえ?
上を見上げると狐の面を被った人が小屋の屋根の上に立って俺を見下ろしていた
💚へっ!?いつの間に!
?)ふっふーん!すごいでしょ!
💚あ…危ないですよ!すぐに降りてください
?)えー…
?)じゃあ受け止めてっ!
💚は?
「受け止めて」
そう言うとその人は屋根から俺に向かって飛び降りてきた
俺は咄嗟のことで驚いたが反射的に手を広げてその人を待った
降りてきた小さい体はすっぽりと俺の腕に収まったのはいいものの、勢いのあまり2人とも地面に倒れてしまった
?)いったー!笑
?)ほんとに受け止めてくれたっ!笑
?)ありがとねっ!
少し興奮しながら話す様子に俺は戸惑った
💚えー…えーと…
この出会いが俺の人生を大きく変えることになるとは思っていなかった
コメント
5件
何この可愛い生物たち…… さっくんかわよ… あべべ尊…
阿部ちゃんが見とれるだと....Σ( ˙꒳˙ ) 阿部ちゃんは明治時代の時でも勉強してるだと...勉強大好きすぎるだろ!!!
今までの会話中心で進んでくお話も大好きでしたが今回のお話は本格的な小説を読んでいるようで素晴らしかったです。時代背景に合わせた表現方法も流石です(^^)頭の中であべちゃん達の情景が鮮明に浮かび上がってくるのが楽しいです♪