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「だと、うれしいな」


褐色の髪をサイドへ流すようにときつけ、伊達男振りを発揮するのは、まさしく、社交界のファッションリーダー、マーストン卿その人だった。


ナタリーは、直接的な面識はない。何かのパーティーで、遠目に見かけたことがある、はたまた、どこかで、卿の写真入りゴシップ記事を目にしたことがある程度。


正直、当人が、マーストン卿かどうかは、わからない。が、これだけの着こなしができる男はそうそういない。


ただ、カイルとは、似ても似つかぬ風貌で、そこが、すこしばかり引っ掛かった。


でも……異母兄妹と言っていた。髪の色が、異なっただけで、受ける印象は、随分と変わるもの。似てない、と、思うのも、あり、かもしれない。


たとえ、彼が、マーストン卿でなくとも、カイルと、なんの、関わりがなかろうとも、ナタリーにとっては、どうでもよかった。


依頼など、受けない。そして、この、屋敷から、さっさと、おさらばする。と、決めていたのだから。


「弟が、失礼を。気分直しに、カード遊びでも?」


「ホホホ、二人で、カード遊び?」


確かに、決着が、早く着きすぎておもしろくないかと、マーストン卿は、笑った。


「ともかく、場所を変えましょう。デザートも終わったことですからね」


言って、卿は、ナタリーの手をうやうやしく握った。


そして、腕を組合い、二人して、食後の語らい、通常、煙草をくゆらせ、カードゲームなどにいそしむ、遊戯部屋へ向かったのだった。


もちろん、案内された部屋の暖炉ではすで火が入っており、暖められていた。


「まったく、海風というやつが、こんなに手怖いとは、思ってもいなかった。以外と、部屋は、底冷えするのですよ。しょっちゅう、暖炉には薪をくべなくてはならない。それが、難点かな?」


「ですが、さすがですわ。内装まで、パーフェクト!洗礼されてますもの!」


「ええ、ここを、終の住みかにしようと思っておりましてね。今のうちに、手を加えているのですよ」


卿は、少し寂しげに微笑んだ。


と、いうことは、やはり、王座をカイルへ、譲るのか?いや、それよりも、仮に、大国に飲まれてしまい、なんとか、息をすることをゆるされ、替わりに、属国扱いされたとする。と、なると……、王宮なり、離宮なり、国、に、縛られて暮らす事になるのでは?


ここは、単なる、館。領主なり、貴族なりの、屋敷にしか見えない。


「あの?マーストン卿?」


ナタリーは、戸惑いつつも、ここが、何処であるのか、卿の引退話にかこつけて、問いただした。


「ここは、ロードルア王国の同盟国でもあり、隣国、ウィンスター公国の、港街!」


部屋の両開きのドアが勢いよく開き、カイルが、叫びながら飛び込んで来た。


「ナタリー!君のベッドで、待っていたのに、いくら、待ってもやってくる気配がない、と、思ったら、なんで、そんな、やつと、いるわけよっ!」


いやいや、あんたこそ、人のベッドで待ってるって、おかしいでしょうが?!


と、ナタリーが、口火を切るすんでで、マーストン卿が、カイルへ言った。


「カイル、君は失敗した、だから、私が、交渉にかかろうとしているんだ。それを、なんだ。本気に、なって」


「本気だから、しょうかないだろう!あんたみたいに、しょーもない、使えない女の元へ走ったりは、しない!彼女は、とことん、使える女だ!」


必死の形相というやつを浮かべ、カイルは、自己の考えを言ってくれるが、なんでしょう、何か、すごく、ひっかかるんですが、と、ナタリーは、ひとまず、心の中で叫んでいた。


紳士ぜんとしていた、卿は、苛立ち全開からか、小粋さが消え、カイルは、余裕がない必死さで、食い下がっている。


そんなところへ、口を挟もうなら、ナタリーは、兄弟喧嘩どころか、また、訳のわからない事に巻き込まれてしまうに決まっている。


とにかく、おさらばだ。


もう、立ち去るだけなのだ。


言い合い、罵りあいは、二人でやってくれ。


と、いうことで、これ以上、誰の相手もしなくてよい、と、踏んだナタリーは、例の執事の姿を探した。


奴のことだ、ご主人様兄弟が、揃っているのだから、どこかに控えているはずで……と、ぐるりと部屋を見回すと、やはり、いた。


ドアの脇に立っている。


ナタリーは、まだ、何か言い争っている男達など、ほおっておいて、つかつかと、執事の元へ歩み寄った。


「では、こちらへ」


何故か側にある、長椅子を勧められ、うっかりナタリーは、座っていた。


「お二人は、いつものことですから。そして、始まると、長い」


はっきりと言い切る、執事に、ナタリーは思わず吹き出していた。


「うん、そこまで余裕がおありでしたら、よろしいかと」


執事は膝まずき、脇にかかえていた、カタログめいた物を開いた。


地図だった。


それも、珍しい、領土別に色分けされた、つまりは、オールカラーのものだ。


「どうやら、マダムは、地理に疎いようなので、いらっしゃる所が、どこなのか、そして、大国との関係も、幾ばくか、ご説明いたします」


おお、それは、願ったり敵ったり。ありがたい話だ。


って、今さら必要なのだろうか?もう、縁もゆかりもない土地、そして、人々になるのだから。


とはいえ、確かに、ナタリーは、地理にうとかった。こんな家業を行っているにもかかわらず、なんとか王国とか、言われても、ピンと来ない。


逐一覚えるのが、面倒というのもあったが、一番は、聞かされ、派遣される国は、ナタリーによって、崩れる運命の場所。よって、いずれ、無くなる国であるから、覚える必要がない。


そんな繰り返しの中、主要国以外、覚える意味などないと、ナタリーは、思っていた。


しかし、今回、ふと、思った。


どこ?その国。で、よいのだろうかと。そんな、具合だから、こんなことに巻き込まれてしまったのではないかと。


遅まきながら、しかも、ほぼ敵にあたる者に、教わる、というのも、癪にさわるが、使える物は、使うべし。そして、せっかくの、親切でもあるのだから、などと、思い、ナタリーは、執事へ、じゃあ、お願いしようかしら、などと、言っていた。


執事は実に的確に、そして、丁寧に、ナタリーへ、説明を続けている。


地図を示しながら、ここは、こちらは、と、やっているのだが、肝心の、本来の行き先であり、カイル達の国である、ロードルア王国といい、居るのであろう、ここ、同盟国のウィンスター公国といい、地図上では、ただの点。小さすぎて話しにならない。


「こちらが、拡大図です」


と、ページがめくられ、点であった箇所が、国として、記載されている。そして、ナタリーは、やっと、位置関係を掴むことが出来た。


ロードリア王国は、地中海に面しており、北上するとフランスに行き当たる。ウィンスター公国とやは、その東側隣り、イタリア半島側に位置する訳で、こちらは、北上すると、フランスというより、スイスに近くある、といった感じだった。


ともかく、両国ともフランスに、睨まれる位置にあり、海沿いに東へ進むと、分裂しきっている、イタリア半島へ、更に進めば、常に不安定な、ギリシャ辺りへと行き当たる訳で、結局、当てになるのは、自国のみという、なかなか、地図上で点としてしか扱われていない割には、きつい立場のようだった。


まあ、そんなこんなで、ロードリア王国は、隣国と同盟を組んでいるのだろうが、相手側も、点、の、国。


なんとなく、ナタリーに声がかかったのも、頷けるような気がする。そこまで、彼らは、自国の存続に追い詰められているのだろう。


「と、いうことで、あと何年すれば、この地図も、大幅にかわるでしょうし、この連なる、点、の国々も、生き残れるのは、数ヵ国……」


さらりと、執事は言ってくれる。他人事とはいえ、そんな言いぐさはないだろうと、ナタリーは、ふと、思ってしまう。


いかん!呑まれているっ!と、すぐに気がついた。


執事は、泣き落としで、かかってきている。きっと、そうだ。


ナタリーを取り込みたいがために。


しかし。何故に。すでに、カイルが、ロザリーと、コンタクトを取っている。カイルは、身元を証してないだろうが、あの、ロザリーの上の者が、カイルの身元も、とっくに洗っていることだろう。


「……結局ね、私は、何故に巻き困れているの?と、いうより、私に何を望んでいるのかしら?まだ、使える女だなんだと、私を利用しようとしている。なんだかなぁーって、感じな訳よ。カイゼル髭まで、現れて、というよりも、カイゼル髭が、二重スパイだなんだと、ロザリー、いえ、その上層部に、思い込ませる腕があるなら、私なんか、必要ないと思うのよ。で、あなた、帰りの手配、お願いできないかしら?」


「まあ、ながながと、ご自分の主張をなさることで」


執事は、地図をパタンと閉じると、では、どちらへ、行かれます?と、問いかけて来た。


「そりゃー、もちろん、ロードリア王国!」


いつの間にか、カイルが、やって来ていた。


「あいつは、アメリカへ亡命する」


と、兄である、マーストン卿を、いまいましげに見る。


「アメリカへ?!」


また、なんと、大胆な。自由の国だか、なんだか、知らないけれど、貴族社会も、爵位制度もない国で、どうやって、王族が、暮らして行くのか。


ナタリーの疑問を、読み取ったのか、もともと、そこ、で、揉めていたのか、カイルが言った。


「なんでも、あいつは、資本主義に、生きるそうで、つまり、自分の取り分を、勝手に、投資して、あちらの上流社会と、繋がっているのさ。それでも、持ち分が、心もとないと、俺のものまで、いや、国のものまで、手を付けようとしているんだから、やってられないだろ?!」


「ふーん、別に投資ならいいじゃない。それに、自分の持ち分なんだし、国のものったって、増やしてくれるなら、いいんじゃないの?」


「ナタリー、そうやって、他人事にしてるだろ?」


「だって、他人事ですもの」


「もう!俺は、俺はね、こう見えて、全てに本気なんだ、君とのことだって!」


「いや、だからっ!なんで私から離れないのよっ!」


「だって!あんなに体の相性がいいなんて、思ってもなかった、ロザリーとは、大違いさっ!」


(……は?! ロザリーとは?!)


パシンと、小気味良い音が、再び鳴り響いていた。


肩を怒らせたナタリーは、帰るっと、言い切って、部屋を出た。


「なんなの!結局、ロザリーとも、やることやってんじゃない!っていうか、色仕掛けしか頭にないのかっ!!」


馬鹿にすんなっっーーー!!!


ナタリーの、怒りが、ワンワンと廊下に、いや、屋敷に響き渡った。


「……カイル、追わなくて良いのかね?とはいえ、追ったら追ったで、なかなか、厄介そうだが?」


マーストン卿が、肩をすくめている。


「うるせぇ!と、言いたい、ところだが、あんたの言う通りだよ」


カイルは、ナタリーに食らった二度目のビンタに、顔を歪めていた。


「まあ、余計なことだが、飽きっぽいお前が、あんなに執拗になるのも、なかなか、ない。やはり、追った方が良いと思うのだが?それに、あの鼻っぱしらの強さなら、色々上手く落としてくれそうだ。我々の計画のためにも、必要と私は見た」


ええ、と、執事も、頷いている。


「……くそっ、なんで、俺、本気になっちまったんだろう!」


ぼやきながら、カイルは、走り出す。


「ハニー!待ってよー!ハニー!」


いつもの軽薄な台詞を発っしながら──。

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