コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ついに、ついに完成した!俺の研究によって生み出された、俺の夢が詰まった装置、[ドリームフォン](試作品第一号機)がついに完成した!
俺の名前は新妻聡(ニイズマサトル)。今のところ自称発明家のアパート住まいの28歳だ。今は西暦2030年。俺には小さい頃から変わらない夢がある。過去に干渉をすることができる装置を発明するという夢だ。きっかけは小学生の頃見たアニメだった。そのアニメの主人公は発明家であり、過去に事故で恋人を亡くしていた。その恋人が死ぬという運命を改変するために過去に行くことができる装置を発明して、恋人を助けに行くという物語だった。
俺はこれまでこの装置の発明に人生を注いできた。そのせいで周りから変人扱いされ、仲間はいないため一人で研究をすることにはなったのだが。まぁ、そんなことはどうでもいい。早くこの装置、[ドリームフォン]の試作品を試してみよう!
このドリームフォンは円柱型の2本の装置で、2本のうちの1本を過去に送ることができる。そして過去に送った装置を受け取った人物と通話をすることができる。また、装置が通話を行う人物の姿のスキャンを行い、装置に搭載されているホログラムによって互いに相手の姿を見ながら通話をすることが可能だ。そして現時点ではこのドリームフォンは試作品、つまり未完成なので二つの制限がある。
一つ目は過去に装置を送る場所は自由に指定できず、現在俺がいる位置の過去にしか送れないという制限。俺は一年前にこのアパートに引っ越してきて、詳しい話は知らないがその前にも誰かがここで暮らしていたらしい。なのでその人物に装置が渡ることになる。相当驚かれるだろうが、研究のためだ。堪えてもらおう。
そしてもう一つは送ることができる年数の限度が3年前、というよりは今から3年前にでしか装置を送ることができないという制限だ。この3年という年数が、現時点の俺の研究成果の限界なのだ。もちろんこれからこれらの制限を無くせるようにしていきたいのだが、まずはこの試作品が正しく動くか試さなければならない。俺はドリームフォンを起動させ、2本のうちの1本を過去に送る準備を始めた。準備が終わりしばらくすると、過去に送るドリームフォンが音も立てずに消えてしまった。もっと派手な演出を期待していたのだが仕方がない。さぁ、上手くいったのだろうか。俺は過去の人物に繋がるはずの足元に置かれたドリームフォンを見つめていた。
“ビビィッッッー!”
装置の転送が完了したことを知らせるアラームが鳴った。とりあえず何処かにドリームフォンを送ることには成功したようだ。ちゃんと3年前に送れたのか気になっていると、こちら側のドリームフォンのスピーカーから声が聞こえてきた。
「え?なにこれ?こんなのさっきまで無かったのに。」
人がいるようだ。俺はその人物にこう問いかける。
「驚かしてすまない。突然になり申し訳ないが、君がいる場所の住所と現在の西暦を教えてもらえないかな?」
返事が返ってきた。
「えっと、〇〇県〇〇市〇〇町〇〇-〇〇、ムーンハイツです。現在の西暦は…あっ!2027年です。」
相手の返事を聞き俺は歓喜した。ちゃんと成功している。喜びを噛み締めていると、ホログラムが起動し、制服を着た少女が映し出された。ロングヘアで目が大きい、可愛らしい少女。女子高生だろうか。私は彼女にこう伝えた。
「信じられないかもだが、俺は君からすると3年後にその部屋で暮らしている。その装置は時間を超えて通話ができる装置なのさ。君にも俺の姿が見えているかい?」
しばらくすると返事が返ってきた。
「はい、このホログラム?みたいなので見えてます。ちょっと…信じられないんですけど、本当に未来から来たんですか?この装置。」
まぁ、そうだわな。いきなりこんなこと言われても信じられるわけがない。俺は彼女に自分は発明家だということ、この装置はドリームフォンという名前で試作品第一号だということを伝えた。そして俺は彼女に提案した。
「まぁ、とりあえず互いに自己紹介しようよ。君がよければこれから俺の実験に付き合ってもらいたいんだ。」
俺はこう続ける。
「俺は新妻聡。職業は発明家。28歳独身だ。君の名前も聞かせてくれないかい?」
彼女はこう答えた。
「倉本燈(アカリ)、17歳、高校生です。今は受験勉強で忙しいのですが、実験の手伝いってどんなことを?」
彼女の問いに俺はこう答える。
「ただ俺とその装置を通して通話をしてくれるだけでいいよ。通話を記録して資料として残したいと考えているんだ。ドリームフォンをより完璧なものに仕上げるためにね。」
すると彼女は考えているような素振りを見せながら答えてくれた。
「受験勉強で忙しいんですけど、毎日30分ぐらいなら。勉強の休み時間にもなるしいいですよ。」
俺は「ありがとう」と返すとあまり勉強の邪魔をするのは申し訳ないと思い、明日16時にまた通話をしようと約束をしドリームフォンの電源を切った。こうして俺と倉本燈との時空を超えたコミュニケーションが始まったのであった。
~次の日~
俺がドリームフォンを起動すると、すぐにホログラムによって倉本燈の姿が映し出された。ちゃんと準備して待っていてくれていたようだ。いい子だな。そして会話は彼女から始まった。
「こんにちは。その…まだ信じれてないんですけど、聡さんは今から3年後にいるんですよね。この3年間で何か大きな出来事とかありました?」
俺は彼女の問いにこう返した。
「やっぱりそういうこと気になるよな。すまないが外の状況はほとんどわからないんだよ。なんせ大学を卒業してからずっとこもって研究ばかりしてたからね。」
俺のこの言葉に嘘はない。弟が大企業に勤めており親から送られて来る金を研究費に回しているため働いてなく、研究材料は宅配便、友達や研究仲間もいない。そのため俺はここ数年、周りの環境を遮断し一人で生活してきた。俺の答えに対し彼女はこう言った。
「そうだったんですね。聡さんも大変そう。実は私も最近はずっと部屋にこもって勉強ばかりしてるんです。志望校の〇〇医療大学のハードルがなかなか高いので。」
そうか。彼女は受験生だったな。俺もそこそこ頭の良い大学を出ているが、大学受験は苦労したものだ。俺は彼女にこう提案した。
「実は俺は〇〇大学を出ている。君の志望校と同じぐらいの難易度だろう。研究を手伝ってくれているお礼に、俺が勉強の手伝いをしてあげようか。」
俺の提案に対し彼女は笑顔で答えた。
「アリですね。それなら長く通話できるし、お互いwin winですよね。私も友達いなくて、一人で勉強するのも寂しかったから。」
それから俺は彼女ともに受験勉強をした。彼女と話しているうちになんとなく、俺と彼女は性格が似ている気がしてきた。周りとあまり馴染むことができず、一人で四苦八苦してしまうタイプ。2時間くらい経っただろうか。ドリームフォンの通信が悪くなり始めてきた。長時間の通話は負担がかかってしまうようである。今日はこれぐらいで終わるかと彼女に提案すると彼女はこう言った。
「今日はありがとうございました。誰かと一緒に勉強するのも楽しくていいですね。それと、私のこと、「君」じゃなくて「アカリ」って呼んでください。なんか距離感じるので。」
確かに「君」って呼び方は距離を感じるか。俺はこう返した。
「分かったよ。次からはアカリって呼ぶことにする。また明日ドリームフォンを繋げるからよろしくな。あまり追い込みすぎず頑張りなよ。」
アカリは「分かりました」と笑顔で返し、通話を終えた。今日は長い通話をすることができたから満足だ。だが俺には気になることがあった。通話中、彼女以外の気配は無かった。彼女は一人暮らしをしているのだろうか。たまたま一人しか家に居なかっただけか?彼女についてもっと知りたいし、聞いてみよう。
~5日後~
あれから俺たちは毎日2時間ぐらい一緒に受験勉強をしている。アカリの俺に対する態度は柔らかくなり、アカリの境遇も分かってきた。彼女の家は父子家庭で一人っ子。小さい頃に母は病死し、父と二人でこれまで暮らしてきた。父は経営職だが夜遅くまで仕事をしているらしい。そして実家から高校が近いアパートにアカリは一人暮らしをしている。彼女の夢は医者であり、そのために良い大学に入ろうと頑張っているようだ。今日も彼女と勉強を頑張っていると、鍵の開く音がして誰かが入ってきた。彼女はこう言った。
「多分、5つ上の従兄弟の京太くんがきたんだと思います。彼、うちの鍵を持っているので。」
従兄弟がいたのか。しばらくするとホログラムに青年の姿が浮かび上がった。パーマがかかった金髪の頭、耳にはハート型のピアス。そして奇抜な服装。俺がいうのもなんだが真面目に働いてなさそうな見た目である。青年はドリームフォンの存在に気付いたようで、こう言った。
「これがアカリが言ってたやつ?マジでやばそうな装置じゃん。このおじさんと話してるんだ。」
アカリは彼にドリームフォンの存在を伝えていたようだ。アカリはこう返す。
「あっ…そうだよ京太くん。えっと、これがドリームフォンで、この人が聡さん。頭が良くって受験勉強手伝ってもらってるんだ。」
なんか会話がぎこちない気がするが、あまり仲良くないのか?俺はこう言った。
「初めまして京太くん。アカリから俺の話は聞いてたみたいだね。驚いただろう?」
京太はこう返した。
「まぁ、正直アカリから聞いた時は勉強のしすぎで頭おかしくなってんじゃねって思ったけど、見た感じガチっぽいっすね。ネットにあげたらバズりそうだな。」
俺はこう返した。
「いやネットにあげるのはやめてくれ。混乱を招きそうだし、別に有名になりたくてドリームフォンを作ったわけじゃない。そもそも誰も信じんだろう。」
俺の言葉に対しアカリがこう言った。
「そ、そうだよ京太くん。私も今は勉強に集中したいし。」
アカリの発言に対し京太は「つまんな」と言い捨て、部屋を出ていった。アカリはこう言った。
「私、京太くんのことちょっと怖いんですよね。たまに暇つぶしだって家に来るんですけど、お金をせびられたりして。彼、ここら辺じゃ有名なヤンキーだったんですよ。」
まぁ、見た目通りのやつってことか。彼に勉強を教えてもらうのは無理そうだな。その後勉強をしていると、やはりノイズが出始めてきたので今日の通話は終わることにした。通話の終わり際、アカリは俺にこう言った。
「大学受験まで後二ヶ月ぐらいですけど、ずっと受かるか不安でした。聡さんと勉強し始めてからは気分も落ちついてきて、その、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。」
俺は「こちらこそ」と返し、通話を終えた。アカリを取り巻く環境は恵まれてはいない。それでも医者になるという夢を叶えるために頑張っているのだ。俺が彼女の支えにならなければ。もちろん研究第一だがな。
~一週間後~
それからも俺とアカリの通話(受験勉強)は続いていた。通話越しだけでもわかるほど、彼女の学力は伸びてきてきている気がしている。ノートに文字を書きながら彼女は俺にこう聞いてきた。
「聡さんはこのドリームフォンを完成させてなにをしたいんですか?」
俺はその問いに、すぐに返すことができなかった。考えたことがなかったことがなかったからである。俺の夢はドリームフォンを完成させること。その後のことなど何も考えてない。俺は彼女の問いにこう返した。
「そうだな。正直考えたことがなかったよ。この前京太くんにはああ言ったが、せっかくドリームフォンが完成したなら、世間に公表してドリームフォンを普及させたいかな。俺と同じように時空を超えて話をしたいやつも多いだろうからね。」
俺の答えを聞いて、アカリはこう言った。
「それはいいですね。聡さん世界で有名になれますよ。私は聡さんほどすごい人になりたいわけじゃないんですけど、優秀な医者になってたくさんの人を救いたいんです。お母さんみたいな人を一人でも減らしたいから。私やお父さんみたいに悲しくつらい思いをする人も減らしたいんです。」
アカリはこう続けた。
「実はお母さんは医療ミスで死んだんです。手術中に。すぐ死ぬほどの病気ではなかったんですけどね。お医者さん達も全力でやってくれてたんだと思います。でも彼らが優秀では無かったからお母さんは死んだ。どうしてもそう思ってしまうんです。」
壮絶なアカリの過去に俺は言葉が出なかった。しばらく沈黙が続いた後、俺はこう返した。
「そうだったんだな。心配しなくても君なら優秀な医者になれるさ。周りから信頼され、たくさんの命を救える医者にね。」
俺の言葉に対しアカリは「ありがとうございます」と笑みをこぼしながら答えた。
通話を終え、俺はこれまでの自分のやってきたことについて考えていた。俺の夢は時空を越える装置を作ること。だがその夢は、アカリの夢を聞いた後だと何とも独りよがりな夢に思える。俺はこれまでの人生を周りの恵まれた環境に甘え、働きもせず、自身の夢を叶えるためだけに使ってきた。俺はこれで良かった。夢を追う生活はそれなりに楽しかったからである。だがそこから何が生まれてきたのだろう。親や弟に迷惑をかけ、周りに良い影響も与えない。俺はこのままで良いのだろうか。アカリの話を聞き、そんなことを考え始めていた。
~4日後~
今日もドリームフォンで通話をしながら、アカリと勉強をしていた。この通話を始めてもう二週間ちょっと。俺の日課となったこの通話は、俺にとって大切なものとなっていた。もちろんアカリの存在も。
”ガチャっ”
鍵の開く音がした。京太が来たのだろうか。しばらくすると誰かが部屋に入ってくる音がした。アカリは驚いた顔で部屋の入り口を見つめながらこう言った。
「え?あ、あなただれですか?」
京太じゃないのか?するとホログラムは部屋に入ってきた人物を写し出した。その人物は覆面を被り、全身黒い服をきている。そして手には刃物。アカリが危ない。そう思い始めた頃には、アカリは覆面に腹を刺されていた。アカリは刺された場所を抱え込みながら横に倒れていった。俺は叫んだ。
「アカリ!!!」
アカリからの返事はない。一瞬の出来事ではあったが、俺にはあまりにも遅く感じた。覆面が口を開く。
「この装置を通してお前に告げる。今すぐドリームフォンの研究を辞めろ。貴様がドリームフォンをこの部屋に送ったばかりに、倉本燈は死ぬのだ。よいか?ドリームフォンの研究を辞めるのだ。」
ボイスチェンジャーがかかった言葉を言い残し、覆面は部屋を出ていった。俺は何が起きているのか分からないまま、苦しそうにしているアカリの名前を叫び続けていた。するとアカリが俺に向かってこう言った。
「聡さん、私、死ぬみたいですね。夢を叶えたかったな。私のことなんて、気にしないでいいから、どうか聡さんは夢を叶えてくださいね。」
アカリはこう続ける。
「私、聡さんに嘘をついてました。実は私のいる今のザザはザザザザです。ザザザの言うザザザザザて。私はあなたに謝らないといけない。」
ノイズのせいで何と言っているのか分からない。まだそんなに長時間通話をしてないのに。いや、そんなことどうでもいい。アカリが助かれば。だが、アカリは俺にこう言った。
「今まで、ありがとう、聡さん、さようなら。」
その言葉を最後に、アカリは目を閉じた。俺は何もできずに、ただ動かなくなったアカリを見つめていた。そしてしばらくすると、ドリームフォンは煙を上げ始め、機能が停止した。
~数年後~
俺は今、実家でバイトをしながら暮らしている。アカリの件以降、俺は研究を辞めてしまった。アカリを刺した覆面は、俺がドリームフォンをアカリに送ったからアカリは死ぬと言った。ならばアカリが死んだのは俺のせいだ。優秀な医者になりたいという立派な夢を持ったアカリを、苦しく悔しいはずなのに死ぬ間際でさえ俺の夢を応援してくれたアカリを、殺したのは俺だ。そのような自責の念に駆られながら日々を暮らしていた。
俺はあの後、アパートを追い出された。家賃を滞納したからだ。あかりが死んでしばらくは何もできない日が続いていたが、親からせめて家賃ぐらいは返せと言われ、バイトを始めた。今日はアパートの大家に直接お金を渡しに行く。
俺はアパートの近くにある公園の前で大家と待ち合わせをしていた。俺が待ち合わせ場所に着いてしばらくすると大家が現れた。俺は大家に滞納していたお金を、「今まで申し訳ありませんでした」と言いながら渡した。すると大家はこう言った。
「まぁ、君は返してくれたから良かったよ。君の前にあの部屋に住んでいたおじさんなんてまだ滞納している分を返してくれてないからね。」
前に住んでいたおじさん?倉本燈ではなくて?俺は大家にこう聞いた。
「前にあの部屋に住んでいたのは女子高生ではなかったのですか。」
すると大家はこう答えた。
「いや、違うよ。君の前にあの部屋を借りていたのは、40代の男の人一人だったよ。」
まさか。もしかして。俺は大家にこう聞いた。
「その、今あの部屋を借りている人はどんな人ですか?」
大家はこう答えた。
「あんまり個人情報だからいいたくないけど。まぁ、お父さんが契約者で住んでいるのは娘さんだよ。娘さんは高校生だね。今大学受験前で忙しいみたいだよ。」
俺がドリームフォンをアカリの部屋に送ってからもうすぐ3年。俺はずっと勘違いをしていた。”3年前”に送ることができたと思っていたドリームフォンは”3年後”に送られていたのだ。なぜアカリが2027年だと答えたのかは分からない。だがそんなことはどうだっていい。要は今からアカリを助けることができるということだ。俺はすぐさま家に帰り、どうすればアカリを死なせずに済むかを考え始めた。
~ 一日後~
俺はアカリが住んでいるアパートの前に来ていた。片方だけになってしまったドリームフォンを入れたカバンを持って。今から10日後にこのアパートにドリームフォンが届くはず。アカリが刺される前に助け出さなければ。実はドリームフォンには研究のために通話を記録する機能が備わっている。通話機能は壊れてしまって使えないが、通話記録をホログラム付きで見ることができるのだ。まずはこれをアカリに見せて信じてもらわなければ。そう思いながらアカリの部屋に向かおうとしたとき、急に頭に痛みと衝撃を感じた。そして気づいた時には地面に倒れていた。後ろから棒で叩かれたらしい。俺はそのまま気を失ってしまった。
俺は気がつくと縄で手足を縛られ、アパートの一室のような場所で拘束されていた。部屋は荒れており、周りにはゴミが散らかっている。そして目の前にはアカリを刺した覆面が刃物を持って立っている。覆面は俺に対してこう言った。
「俺は今からお前を殺す。何か言い残すことは?」
前回はボイスチェンジャーによって分からなかったが、今回は素の声だった。聞き覚えのある声だ。
「君、京太くんだろ。何でこんなことをするんだ!」
俺がこう言うと、彼は覆面を脱いだ。パーマがかかった金髪の頭に、耳にはハート型のピアス。間違いなく京太だ。京太は驚いた様子でこう言った。
「何で俺の名前を知ってんだ?もうわけわからねえよ。」
俺がもう少し周りを見渡すと、部屋の隅に俺のカバン、そしてドリームフォンが置いてある。だが、俺が持って来たドリームフォンじゃない。そこにあるドリームフォンは俺のやつよりデカく、形もしっかりしている。まるでドリームフォンの完成品のような。俺は仮説を立てた。そして頭を抱えている京太に向かってこう尋ねる。
「あそこにある装置は未来から送られて来たものだろう?おそらく未来の俺から。」
京太はこう返す。
「あんた現代の新妻聡か?あぁそうだよ!未来のあんたから送られて来たんだ。」
京太はこう続ける。
「34年後の新妻聡って名乗るおっさんからアカリのアパートの前にいる男を殺したら一千万円送ってやるって言われたんだよ。あんたの顔写真をホログラムで見せられてな!俺は借金があるから金が欲しんだ!」
おそらく次は三週間後のアカリを殺せと命令されるのだろう。なぜ未来の俺がこのようなことをしているのかは分からないが、ようするに未来の俺を止めなければこの一件は解決しないということだ。そのためにはまず京太を説得しなければ。
「京太くん!お金のために人殺しをするなんて。どうかしてるし間違っている!そのうち警察に捕まるぞ!」
俺の訴えに対して京太は座り込み、こう叫んだ。
「そんなこと分かってるよ!でもきっと、俺みたいな駄目なやつはこうでもしないと生きていけないんだ!」
彼なりに大変な人生を送って来たのだろう。だが彼がしようとしていることが許されるわけがない。俺は京太を諭す。
「未来の俺は君を騙しているんだ。お金なんてきっと送られてこないさ。それに仮に送られて来たとしても、こんなことをして得たお金で幸せになんてなれないよ。今回が初めてなのだろう?今解放してくれるなら警察に行かないと約束するから、こんな馬鹿げたことはやめるんだ。」
俺がこう言うと京太は「ごめんなさい」と言い泣き始めた。もし本気で俺を殺そうと考えていたのであれば、俺が気を失っていたときに何とでもできたはず。彼にも抵抗があったのだろう。アカリを殺す前、今の段階では。
~数時間後~
俺は解放され、再びアカリが住むアパートの前にいる。京太の部屋にあった未来から来たドリームフォンを見てみたが、すでに壊れて機能していなかった。しかし何かに使えるかもしれないので持って帰ってきた。
俺はアカリの部屋のインターフォンを鳴らした。
“ピンポーン”
俺がインターフォンを鳴らすと中からアカリの声が聞こえた。
「はい。えっと、どちら様ですか。」
インターフォンにつけられているカメラでこちらの様子が見えるらしい。当然ながら今のアカリは俺のことを知らない。俺はこう返した。
「不審がられるのは分かっている。だが、どうしても君に伝えたいことがあるんだ。だからどうか、部屋に入れてくれないか?」
しばらくしてアカリはこう返答した。
「なんか大変そうですし。分かりました。どうぞ。」
“ガチャ”
遠隔操作で玄関の鍵が開いた。アカリの部屋に入るのはこれが初めてだ。リビングに繋がるドアを開けると、勉強机の前に座っているアカリがいた。これまでドリームフォンを通じてでしか話したことがなかったので、いざアカリを目の前にすると何だか緊張する。気まずい空気が流れる中。アカリがこう言った。
「その、私に伝えたいことって。」
俺は壊れたドリームフォンをアカリに見せながらこう言った。
「俺が説明するより、これを見てもらった方が信じてもらえるはずだ。」
俺がドリームフォンを起動させ通話記録を再生させると、俺の姿とアカリの姿が浮かび上がり、二人で勉強して居る様子が映し出された。アカリは驚いた様子で俺にこう聞いた。
「これはいったい。まさか、京太くんが言ってたのって。」
俺が京太の部屋から出る際、京太はこう言っていた。
「未来のあんたが言ったんだ。アカリに変な装置が送られて来て現在の西暦を聞かれたら、2027年って答えるように伝えておけって。」
これでアカリが俺に嘘の西暦を伝えた謎は解けた。だが何故、未来の俺はここまでして俺の研究を邪魔しようとしているのだろう。大切な存在であったはずのアカリを殺してまで、何故だ?だがこのことを考えるのは先だ。まずはアカリに説明しなくては。
一通り俺のこれまでの話を聞いたアカリはひどくショックを受けていた。無理はない。回避されたであろう未来とはいえ、京太に殺されたのだから。アカリはこう言った。
「でもまだ私が殺されないって決まったわけじゃないですよね。それに、未来の聡さんは別の方法を取ってあなたを邪魔しようとするんじゃないですか?」
アカリの言う通りである。未来の俺自身を止めなければ、この一件は解決しない。そのためには未来の俺と直接話す必要があるが、現段階のドリームフォンでは34年後までは送れないし、未来から来たドリームフォンも修理して直りそうな様子ではない。手段はただ一つ。これからすぐにドリームフォンの完成品を完成させること。そして俺はアカリに提案した。
「無理なお願いなのは分かっている。だが俺は君に未来の俺を説得してほしい。力を貸してくれないか。君自身を死なさないためにも、どうかお願いだ!」
アカリはこう答えた。
「分かりました。こんなの見せられたらどうせ勉強どころじゃなくなって集中できませんし。でも、約束してくださいね。この一件が片付いたら、私の受験勉強手伝うって。」
俺は「分かった」と返し、未来の俺を、アカリと一緒に止めると決意した。
~8日後~
あれから俺はアカリの部屋を使わせてもらい、ほとんど不眠不休で研究した。幸い参考となる未来のドリームフォンがあったが、部品に見たことがないものが使われていたり、どう考えても理解できない構造があったりと、完全再現をすることは不可能だった。30年後のものなのだから当たり前だ。だが、これまでの研究で得た経験や知識の全てをこの数日間に注ぎ込んだ。入手できない部品は他の似た素質を持つ素材で代用し、理解できない構造も必死に理解しようとした。そして研究にはアカリが助手としてついてくれた。俺にはない知識をアカリが持っていたこともあった。それに、ずっと一人で研究していた俺にとって、アカリの存在はとても心強く感じた。そして出来上がったのが[ドリームフォン]完成品(仮)である。
そして今日、このドリームフォンを34年後の俺に向かって飛ばす。未来のドリームフォンを解析したので未来の俺のいる座標は分かっている。俺はアカリと共に未来へ送る方のドリームフォンのスイッチを押した。
“ビービービービー”
煙を上げながら、未来に送るドリームフォンから負荷のかかりすぎを表すブザーが鳴り始めた。時空が歪み始めているのか、部屋には風がまるで竜巻のように吹いている。心配そうにドリームフォンを眺めている俺の手をアカリは握ってくれた。そして俺にこう言った。
「きっと大丈夫です。二人で未来の聡さんにガツンと言ってあげましょう。」
俺はドリームフォンに向かって叫ぶ。
「おい!ドリームフォン!未来の俺なんかに、負けるはずがないだろう。お前は俺の夢なんだ。俺の夢を!叶えてくれ!」
“ビビィッッッー!”
風は止み、こちら側のドリームフォンから転送完了を表すブザーが鳴った。気づけば未来へ送るドリームフォンは消えていた。これだよこれ!俺が求めていた演出だ!そしてホログラムが作動し、未来の俺(62)の姿が映し出された。
未来の俺はひどくやつれていた。そしてこう言った。
「京太がしくじったみたいだな。やはり過去を変えるのは簡単じゃないようだ。」
俺はできるだけ未来の俺に対する怒りを抑えながらこう言った。
「初めましてだな。未来の俺。まるで不幸を溜め込んだような顔をしてるじゃないか。」
俺はこう続ける。
「何でこんなことをしたんだ。ドリームフォンを作ることは俺の夢だったはずだろう?!」
俺の問いに対し未来の俺はこう言った。
「あぁ、夢だったさ。ドリームフォンが世界を壊すと気付かされる前まではね。ドリームフォンの開発に成功した俺は調子に乗って大量生産を行なった。その結果様々な問題が起こり始めたのさ。」
未来の俺はこう続ける。
「歴史の改変に始まり、死人が減り人口の増加による食糧不足、食糧不足による戦争と、挙げだしたらキリがないよ。初めは大量生産をしようとする俺を止めようとしたが、俺自身を止めれたとしても他のドリームフォンの情報を持っている奴らが大量生産を始めるから上手くいかない。だからドリームフォン自体の開発を取り消そうと考えたんだ。俺自身を殺してでもな。」
ドリームフォンが世界を壊す未来を聞き呆気に取られていると、アカリが未来の俺にこう言った。
「だからって聡さんや私を殺そうとするのは絶対に間違ってる。他にも方法があるかもしれないのに、京太くんを使って、あなたは手を汚さずに安全なところで過去が変わるのを待っていればいいだけ。きっとホログラムの私が好きだったのは、そんなことをしようとする聡さんじゃない!」
アカリの叫びを聞き、未来の俺はこう返した。
「はは、アカリにそんなことを言われると流石に堪えるな。実は君と俺は結婚したんだよ。だが君はドリームフォンの開発者として日に日に病んでいく俺の姿を見て悲観し、5年前に俺の前から姿を消したんだ。今も俺の隣にアカリがいてくれたら、こんな荒いことをすることも無かったのかもな。」
未来の俺の発言に対し、俺は怒りが溢れだしこう叫んだ。
「アカリのせいにするんじゃねぇ!悪いのはお前自身だろうが!全部お前が悪いんだよ!」
怒りを吐き出した俺は冷静になり、こう続けた。
「すまない。未来の俺も大変だったよな。俺の夢が世界を壊してしまうなんて、辛かったよな。だから俺を殺して解決するんだったらそれでいいよ。その代わり、頼むからアカリだけには何もしないでくれ。彼女は俺と違って立派な夢を叶えようとしてるんだ。」
俺の言葉に対しアカリがこう言った。
「聡さんの夢だって立派ですよ!確かにそれは世界を壊してしまうものなのかもしれない。でも夢を追ってる聡さんは私には輝いて見えます。きっとホログラムで見た私だって、あなたの存在が大切だったはず。だから殺されてもいいなんて言わないで!」
俺たちのやりとりを聞き、未来の俺はこう言った。
「分かったよ。もう君たちに手は出さない。だが過去の俺よ、約束してくれ。ドリームフォンの代わりになる夢、生きる意味を見つけるのだ。未来の俺をどうか助けてほしい。俺とは違って、アカリを悲しませる男にはなるなよ。」
そして未来の俺は笑みを浮かべながら倒れてしまった。もう身体も精神も限界だったのだろう。俺は動かなくなった未来の俺に対し、こう誓った。
「あぁ、必ず未来の俺を幸せにして見せるよ。アカリのことも任せてくれ。」
しばらくするとドリームフォンは煙を上げ始め、機能が停止した。
~1年後~
あのあと俺は約束通りアカリにつきっきりで勉強を教えた。そしてアカリは無事志望大学に合格することができ、優秀な医者になろうと努力を続けている。京太も改心して、就職活動に励んでいるそうだ。きっと彼なら頑張れると俺は信じている。そして俺自身はというと、これまでの研究で培った知識を活かしてとある会社に就職した。そしてその会社で仲間たちと一緒に世界を良くするための研究を行なっている。
現在、俺とアカリは同棲している。将来、未来の俺が言っていたように結婚するかは分からないが、どのような形になってもアカリのことを支え続けると決意している。そろそろ車で、出社がてらアカリを大学に送る時間だ。
「アカリ!そろそろ出るぞ!支度は済んだか?」
俺が玄関でアカリを呼ぶと、朝食のパンを咥えたままアカリが部屋から飛び出してきた。
「早いよ聡さん!まだ頭が起きてないのに!」
アカリの夢を支えること。それが俺の新しい夢だ。玄関に置いてある2台のドリームフォンが、日に照らされ眩しく光っていた。