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――魔術とは、魔法をより高みへと昇華させたものであり、そして世界に干渉するための技術でもある。
『魔術入門の書』序章第1節記載
著者名、フェルディリーア・クロノス
小国の平民だった俺が、初めて手に入れた1冊の本。ごく普通の魔術教本だった。魔術学園で使う内容としては、基礎中の基礎。誰かが必要をなくして、捨てていったのだろう。雨風に晒されたか、ハードカバーに守られながらも、だいぶ紙が傷んでいた。
それでも中身は十分に読むことができて、パラパラとページをめくるうちに、俺はすっかり魔術に魅せられていた。
魔素。それを体内に取り込み、力として変換した魔力。そして魔力を使って発動する魔法。さらに効率的、かつ魔法よりも高い性能を有しているのが魔術。
魔術の原理は素人の目から見ても、とても面白く、興味深いものばかりだった。
なぜ無から火や水を生成できる?
この術式にはどんな意味が込められているのだろう?
同じ本を穴が開くほど眺めては、自由に魔術を使えるようになることを夢見ていた。
しかし、俺が手に入れたのはあくまでこの1冊のみ。魔法も習得せずに、いきなり魔術をものにするのは無理があった。しかも俺はただの平民。魔力量も少なく、半生を費やしてやっと習得したのは、ほんの僅かな掠り傷をつける程度の風球だけだった。
平民らしく働いて、税を納め、仲間たちと酒場で愚痴を言い合う。毎日が同じような暮らし。楽しみといったら、「魔術入門の書」を開いて、ひたすらに思いを馳せることだけだった。
しかし、そんな日常も終わりを迎える。
俺の住んでいる辺境の、伯爵家の魔術書が盗まれた。その一族にとっては、とても大事なものだったらしい。すぐに領民に白羽の矢が立てられ、候補として俺が挙げられた。
異常なほど魔術に熱心で、しかも平民。疑いが持たれるのも仕方のないことなのだろう。たちまち取り押さえられ、家を捜索された。もちろん、あのたった1冊の教本も奪われてしまった。
伯爵は自分の息子と俺を決闘させた。おおかた見せしめのようなものなのだろう。その息子は、小国のなかで名を上げるほどの優秀な魔術師だった。
もちろん、決闘からは逃げ出そうと思った。戦いなんてしたこともなかったから。しかし、その考えは壇上に立ち、指先で火球を操る彼を見た瞬間に吹き飛んでしまった。
あの教本に載っていた絵の通りの、綺麗な色、形。幻想では無く、しっかりと周りに陽炎が起こり、酸素が燃えている。
――あぁ、俺にもあんな魔術が扱えたらよかったのに!
その焦がれる思いを胸に抱きながら、俺は彼の魔術を見つめ続けた。火球が俺の方を向き、炎の竜巻を作り上げても、意識がだんだんと遠のいていくなかでも、俺はその魔術を目に焼き付けた。
――お前は1点に集中すると、周りが見えなくなってっから、気をつけろよ?
酒場で言われたことを思い出す。
別にいいさ。周りなんか、どうでもいい。俺が今見たいのは、魔術だけだ!
本当に残念だ。もっと生きていれば、扱えずとも、もっとたくさんの魔術を知れただろうに。
そんなことを考えながら、俺は炎の中で瞼を閉じた。
ふと目を開ける。痛みは全くない。ぼやけた視界を凝らして、周りを見てみる。白い天井。見慣れない空間。
――うわっ、びっくりした。⋯⋯なんだ、「いないいないばぁ」か。
いや、おかしいだろう。俺の周りを取り囲むのは、白黒のメイド服を纏った女性たち。何か喋りながら、こちらを上から覗いてくる。
何かとんでもなく不味いことでも起こっているのではなかろうか。
身の危険を感じた俺は、まだ感覚の薄い口を懸命に動かして、もごもごと呪文を唱える。
俺が唯一使える魔法、『風球』。制御が効いていないが、運よく頬にかすり傷でもつけば、多少の脅しにはなるだろう⋯⋯そう思い、腕を精一杯伸ばしながら、狙いを定めるのだが。
⋯⋯何だか妙な感じがする。
咄嗟の判断で狙いを外して、腕を真上へと向ける。
バガァァァン⋯⋯!という轟音が鳴り響き、天井を竜巻が突き抜けた。ぽっかりと開いた穴からは青空が見えて、竜巻はそのまま天へと昇っていく。やがて、何事もなかったかのように風は散ってしまった。後からパラパラと木片が降ってくる。
メイドたちは唖然としていたが、それは俺も同じだ。俺の『風球』は、こんな威力をもっていないはず。
慌てて状況を把握しようと、動かしにくい身体をよじる。ふと顔を横に向けると、大きな鏡が目にとまった。
俺と目が合っているのは、小さい身体、短い手足。極めつけはベビーベッドの中にいるという事実⋯⋯。
これ、俺か?俺なのか!?
慌てて叫ぶも、口から出たのは意味の無い小さな声。
どうやら俺は、生まれ変わり――いわゆる転生を果たしたようだった。
コメント
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おお、これ第1話から熱いな……! 魔術に憧れる平民が冤罪で処刑されかけて、死ぬ間際まで魔術に見惚れる執念がすごいわ。最後の「風球」が天井ぶち抜くシーン、転生してパワーアップしたのが一発で伝わってきて痺れた🔥 これはこの先の成長がめちゃくちゃ楽しみだわ、蒼依ジンさん!