「えー、まもなくスキー場に到着します」
「貴重品は各自で管理しろよな〜!」
「あとリフト券失くすなよ〜!」
バス内に少しエコーのかかった担任の声が響き渡る。
最初は真面目に喋ってたのに急に普段通りの先生へと変わる。
「古佐くん、行こ!」
そう行って僕の手を引く。
畑葉さんは僕らが周りに見られてるのを知っているのだろうか。
いや、知りもしないだろうな。
「そういえば畑葉さんと僕って結局同じグループになれたの?」
「うん!!全然OKって言われた!」
あの先生案外チョロいな…
ていうか女子全員に優しいし…
あんなん差別じゃんか。
「畑葉さん…大丈夫そ?」
少し笑いを含んだ声を畑葉さんに掛ける。
「今集中してるから話しかけてこないで!!」
少し怒り気味で返されてしまった。
そんな僕たちが今いる場所はリフト乗り場。
確かに初めてのリフト乗りは少し不安かもしれない。
そんな事を考えているうちにもうリフトは目の先…
いや、尻の先にあった。
膝の裏にリフトが当たったと同時に僕は腰掛ける。
が、畑葉さんは座れていない。
「古佐くん!助け──」
乗れないで僕に助けを求めてくる畑葉さん。
それにいち早く気づけた僕は畑葉さんの腕を引っ張る。
と、
畑葉さんは無事、
僕の隣に座ることが出来た。
「怖かったぁ〜!!」
わんわんと泣きじゃくる畑葉さん。
「降りる時どうする?」
「…助けて」
「分かった」
可愛いけど面白いが勝ってしまう。
僕は悪魔なのだろうか。
いや、そんなことはきっと無いだろう。
多分…
「古佐くん!!ねぇ、どうすればいいの?」
「何が?」
「降りる時だって!!」
降り場が近づいてくるとそんなことを言い始める畑葉さん。
「普通に降りればいいんだよ?」
「普通って何!?」
逆ギレしないで欲しい…
「じゃあこうするもん!」
そう行ってほぼ降りる直前に僕の腕にしがみついてくる。
しょうがない…
やりたくはなかったけどあの方法を使うしかない。
そう思った僕は自分のストックを畑葉さんに渡し、
リフトの上で畑葉さんをお姫様抱っこする。
そして無事、
リフトから降りることに成功する。
「え、?ぇ…?」
畑葉さんはそんな声を零しながら慌てふためいていた。
まぁそりゃあそうか。
急にストック渡されたと思ったらまさか自分がお姫様抱っこされるなんて思ってなかったと思うし。
でもあそこで事故るのは流石に嫌だった。
前に父さんから教わった技。
『いつ使うんだよ…』って思ってたけどまさかここで使うとは…
そんなことを考えながら抱えていた畑葉さんの足を地につける。
「ストック…」
そう小さな声を出しながら僕に僕のストックを渡してくる。
なんだか様子が変だ。
「どうかした?」
「まさか降りる時に怪我とか───」
「してない!!大丈夫!!」
そう言って畑葉さんは遠くで待っている先生と同じグループの人の方へ行ってしまった。
ペンギンのような足取りで。
それを僕は追いかける。
「危ないって思ったら八の字にしろよー」
「あと後ろに転ぶんじゃなくて斜面と平行に倒れろよ?じゃないと止まれなくなるぞ」
先生がそう話している間に他のグループの人達が横を滑り降りていく。
多分上手い人たちのグループ。
「かっこいい…」
畑葉さんは先生の話を聞かず、
その人たちに釘付けだった。
1番畑葉さんが聞いた方がいい気がするけど…
「じゃあ俺に着いてこいよ〜」
「適度な間開けてこいよ〜」
「車間距離だ車間距離」
先生は少し笑いながら斜面を滑っていく。
また、それに続くように他の生徒たちも滑り降りていく。
ちなみに僕は畑葉さんが何かあったとき用で列の1番後ろに居る。
お世話係みたいな感じで…
畑葉さんは僕の前に居る。
「畑葉さん、そろそろ行っていいよ」
そう僕が言うも、中々動かない。
「畑葉さん?八の字にしたらゆっくり行けるから大丈夫だよ」
そう後ろから声をかける。
と、徐々に滑っていく。
だが、とてつもなく遅い。
滑れているのか疑うほどに遅かった。
「畑葉さん、もう少し真っ直ぐに出来る?」
『少しだけ』そのつもりで言ったのにも関わらず、畑葉さんは真っ直ぐにした。
その瞬間、畑葉さんは直滑降で進んでいく。
「畑葉さん!!転んで!!」
そう叫ぶが、畑葉さんが転んだのは真後ろ。
案の定、先生の話を聞いていない。
そんな畑葉さんは段々とフェンス外へと近づいていく。
『やばい』そう本能的に察し、
畑葉さんが落ちるギリギリで腕を引っ張る。
「危なかった…」
そう声を漏らすと
「もう嫌〜…!!帰りたい!!」
と泣き叫ぶ畑葉さん。
とりあえず安全な場所へ…
そう思った僕は畑葉さんを連れてフェンスから離れた場所へと移動した。
「痛っ…」
「どっか怪我した?」
連れている最中にそんな声を漏らされ、驚く。
「足…捻ったかも……」
「…ちょっと待ってね」
そう言い、
僕は下で待機してる先生へ電話をかける。
さっきみたいに抱っこして行けなくも無いが、
安全面から考えてこっちの方がいい。
「もう少しで先生来るから一緒に待とっか」
そう言い、斜面に2人して座る。
「先行けば良かったのに…」
そんな呟き声が隣から聞こえる。
「一人は寂しいじゃん」
「そうだけど…」
「なんか今日、迷惑ばっかかけてごめんね…」
「全然迷惑じゃないよ」
そんな話をしているとレスキュー隊の車に乗った先生が近づいてくる。
「畑葉〜!!古佐〜!!大丈夫かー?」
と。
「僕は大丈夫です。少し畑葉さんが足捻っちゃったみたいで…」
そう僕が先生に伝えると畑葉さんはレスキュー隊の車へ乗せられた。
「あ、僕は滑って下まで行くんで大丈夫です」
そうレスキュー隊の人に言い、
畑葉さんを乗せた車は一気に山を降りて行った。
「畑葉、バスで待機になるけど古佐はどうする?」
「あ〜…」
「僕もバスで他の人たち待ちますよ」
「疲れたし1人で滑るの嫌なんで」
そう正直に答えたのに、
先生はただニヤニヤとした顔を向けるのみだった。
コメント
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生徒に理解のある先生すぎて草