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「いっ……いいんです……か……?」
断るだろうと思っていた彼女が、おずおずと伺ってきた。
バッグから自身のスマートフォンを取り出した恵菜に、純は、きょとんとしながら、メッセージアプリのQRコードを開く。
(え? 教えてくれるんだ……。ってか、知り合ったばかりの男と、連絡先の交換していいのかよ。本橋さんの友人とはいえ、アナタ、人妻だろ?)
遠慮がちに考えている純だが、好きな女の連絡先が分かるとなると、やはり嬉しい。
「俺なんかで良ければ。愚痴でも何でも聞きますよ」
誘いの手口が、今まで遊んできた女たちと同じだな、と思いつつ、純は恵菜に警戒心を抱かせないように、爽やかな笑みを作る。
違うのは、相手の女が部下の親友。
しかも人妻であり、初めて会ってから忘れられない、唯一の女という事。
恵菜と挨拶を交わすだけでも、緊張感がハンパない。
数多くの女を誘ってきた純にとって、こんな経験は初めてだった。
「じゃあ…………QRコード、読み込みますね」
恵菜はカメラを起動させ、純のQRコードをスキャンする。
細い指先で滑らかに画面をなぞった後、純のスマートフォンがメッセージ受信を知らせる通知音が小さく響いた。
すぐにメッセージアプリを開くと、彼女からのメッセージ。
『これが私のIDになります。よろしくお願いします。相沢恵菜』
恵菜からのメッセージに、心の中でガッツポーズをする純。
「あぁっ!」
「えっ? なっ……何です……か?」
いきなり彼が、ハッとしながら大きな声を上げ、恵菜は驚きに包まれながら後退りした。
「すみません、つい普段の癖が……」
純は後頭部に手を添えながら、照れ隠しで頭を掻く。
「そういえば、俺の名前、教えてなかったですよね。谷岡純です」
純は、上着のポケットから名刺入れを取り出し、一枚引き抜くと、恵菜に両手で差し出す。
「ありがとうございます……」
彼女も両手で受け取り、名刺に視線を落とした。