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──向陽プリントテクニカル 東京事業所 所長 谷岡 純
「谷岡さん……向陽商会の関連会社の方だったんですね。改めまして、相沢恵菜です。名刺は、すみません、私、フリーターなので名刺がなくて……」
手元を見ていた恵菜に、ゆっくりと上目遣いをされる純。
「いえ、気にしないで下さい。本橋のご友人ですよね」
「はい。高校時代の友人なんです」
ようやく落ち着きを取り戻したのか、純は恵菜に微笑まれた。
(ヤバッ…………相沢さんの笑顔……すっげぇ可愛いじゃん……。恐るべし人妻パワー……)
彼も彼女が笑顔を取り戻し、安堵のため息をついた。
この公園に、どれくらいいたのだろうか。
純はスマートウォッチで時間を確認すると、十九時を回っている。
「すみません。すっかり遅くなってしまいましたね」
「いえ、私の都合で谷岡さんの時間を取らせてしまって、本当にすみませんでした……」
恵菜は立ち上がると、純に一礼した。
「そんなに謝らなくてもいいですよ。何より、相沢さんが無事で、本当に良かったです。相沢さん、帰ったら晩ご飯の準備とか、しないとならないんですよね」
「え……あ…………ああ……まぁ……」
恵菜は、瞠目しながら唇を微かに開かせると、言葉を飲み込むように口角を引き結ぶ。
微苦笑を浮かべる恵菜を横目に、そろそろ帰りましょう、と、純が彼女を促す。
「こんな事を疑いたくないですが……さっきの男が、まだこの近くにいるかもしれません。相沢さん、自宅はどこですか?」
「西国分寺です」
「本橋と一緒なんですね。俺は吉祥寺なので、中央線で一緒に帰りましょう」
純は、彼女が人妻だと躊躇していた事も忘れ、さりげなく恵菜を誘う。
二人は立川駅に向かい、中央線に乗り込むと、これといった会話はせず、恵菜が西国分寺で下車する際に挨拶を交わしただけだった。