扉を開けると、重く冷たい空気が流れ出た。 奥の壁には大きな暖炉――けれど、火はない。
天井から吊るされたシャンデリアが薄く灯り、部屋の縁に落ちる影が波のように揺れていた。
俺は自然と暖炉へ歩み寄る。
指先からこぼれた火花が床に散り、すぐに消える。
熱が足りない。もっと、もっと……。
「ほら」
少年が指先を弾いた。ぱち、と乾いた音。
そこに小さな火が現れ、ふわりと浮かんで俺の前へ。
「これ、君の炎に似てるよ」
彼の声は笑っていたが、その目の奥は何も映していないように見えた。
少女がその火を両手で包み込む。
黒い袖のレースが火を透かし、柔らかな光の輪が広がる。
「でも、これはあなたの炎じゃないわ。ここで新しく生まれた炎」
俺は息を呑む。
何だ、この感覚は――自分の奥底で渦巻く炎が、この小さな火に惹き寄せられていく。
「受け取って」
ふたりの声が重なる。
次の瞬間、炎は俺の胸へと吸い込まれた。
熱が、焼きつくような赤が、全身を駆け抜ける。
そして――
視界の端で、窓の外が色づいた。
白夜の景色に、赤い夕焼けのような光が差し込む。
俺はそれを見ながら、ただ炎の脈動に身を委ねた。