テラーノベル
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ベランダの柵を越え、隣室へ飛び移る。
煙が目に染み、肺を焼く。
視界の端で、ポメラニアンのシロが怯えたように吠えていた。
「ごめんな、シロ……。ナズナを助けるには、これしかないんだ」
俺の手は、震えながらも迷いなくその小さな体をつかんでいた。
窓を開け、暗闇の底へと突き出す。
放り出した瞬間の軽さと、直後に聞こえた鈍い音が、俺の鼓動を一時的に止めた。
その直後、けたたましく鳴っていた非常ベルがピタリと止まり、スプリンクラーが作動した。
精巧に仕組まれたプログラムの実行。
「……健二くん?」
水浸しのベッドで、ナズナが目を覚ます。
彼女の視線の先には、窓を開けて立ち尽くす俺の姿。
「シロは? シロ、どこ?」
彼女の声は震えていた。
俺は、自分でも驚くほど冷徹な声で嘘を吐いた。
「火事に驚いて、窓から飛び出しちゃったんだ。追いかけたけど……間に合わなかった」
ナズナはその場に崩れ落ちた。
唯一の心の支えを失った彼女を抱きしめる。
その肩越しに、俺は手元のスマホを見た。
『ルート再検索完了。障害物の排除を確認』
『代償の徴収を開始します』
徴収? 嫌な予感が背筋を走る。
翌朝
出勤した俺を待っていたのは、デスクを片付ける人事部の人間だった。
「佐藤くん、君のPCから社外秘の顧客リストが流出している。昨夜の22時だ」
「……え?」
昨夜の22時。
俺が拓也を陥れるために、美咲の部屋から工作を行っていた時間だ。
「待ってください、俺はそんなこと──」
「証拠は上がっている。君の個人スマホから送信されているんだよ」
頭を殴られたような衝撃。
ルートQが、俺を守るために用意したはずの工作の痕跡を
そのまま俺を破滅させるための証拠に作り替えたのだ。
会社を追い出され、呆然と街を歩く俺のスマホが震える。
銀行口座の凍結通知
家賃未払いの催促
そして、ナズナからの着信。
『健二くん……助けて。知らない男たちが部屋に来て、借金の返済を迫られてるの。拓也くんの連帯保証人になってたなんて、私、知らなくて……』
「……クソッ、どうなってるんだ!」
俺はスマホを地面に叩きつけようとした。
だが、画面に映し出されたのは、俺がこれまでに犯したすべての罪──
公園でのチケット窃盗、隣人への嫌がらせ、拓也への冤罪工作、そしてシロの殺害。
そのすべてが、いつでもネット上に公開できる状態でスタンバイされていた。
『ルートQ:あなたの「最も大切なもの」を差し出しなさい。さもなければ、すべての記録をナズナと警察へ送信します』
画面が真っ赤に染まる。
俺は気づいた。
このアプリは、俺を幸せにするためのナビじゃない。
俺という人間を追い詰め、極限状態での「選択」を楽しんでいる、何者かの悪意そのものなのだと。
俺は、震える足で歩き出した。
もう、ナズナの元へ帰る資格も、逃げる場所もどこにもない。
【次の目的地:システムの心臓部──「交差点」へ向かいなさい】
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ruruha
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#和風ファンタジー
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