テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
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会社を追われ、貯金を失い、罪の証拠を握られた俺は、幽霊のように街を彷徨っていた。
スマホの画面には、ただ一点を指し示すナビゲーションが表示されている。
『目的地:渋谷スクランブル交差点。18時00分までに到着しなさい』
夕暮れの街は、帰路を急ぐ人々で溢れかえっていた。
ふと、違和感を覚えた。
前の男が、急に立ち止まって舌打ちをする。
その手には、俺と同じ『ルートQ』の画面。
「……チッ、またかよ」
男は呟くと、隣を歩いていたベビーカーを押す女性をわざと激しく突き飛ばした。
「キャッ!」
「危ないじゃないか!」
女性が転倒し、周囲が騒然とする。
だが、突き飛ばした男は謝るどころか、恍惚とした表情でスマホを見つめていた。
「よっしゃ……ボーナス確定だ」
俺の背筋に冷たいものが走る。
あいつだけじゃない。
信号待ちをしているサラリーマン、カフェのテラス席で笑う女子大生、横断歩道を渡る老人。
彼らの視線は一様にスマホに吸い付けられ
時折、機械的な動きで「誰かの不幸」を誘発させている。
肩をぶつける。
足を引っ掛ける。
わざと嘘の道案内をする。
この街の「偶然」に見える不幸のすべてが
アプリによって制御された「誰かの幸福のコスト」だったのだ。
『目的地周辺です。システムを同期します』
交差点の真ん中で立ち止まると
俺のスマホの画面が、周囲にいる数百人のユーザーの画面と共鳴するように激しく明滅し始めた。
そこには、巨大な「相関図」が描かれていた。
俺が隣人を追い出したことで、別のユーザーが格安で部屋を手に入れている。
俺がシロを投げ捨てたことで、ある獣医の売上が上がっている。
俺が拓也を陥れたことで、ライバル企業のユーザーが昇進している。
「……なんだよ、これ」
幸福の総量は決まっている。
誰かが幸せになるためには、必ず誰かが不幸にならなければならない。
このアプリは、その「奪い合い」を効率化し
最も欲望に忠実な奴に報酬を与えるだけの、巨大な屠殺場だったのだ。
画面が真っ黒に染まり、一文字ずつ文字が刻まれる。
『最終ルート検索完了。あなたの「最短の救済」を提示します』
『現在、あなたの背後にいるユーザーが「高額当選」のルートを選択しました』
背後に、誰かの気配を感じた。
振り返ると、そこには見知らぬ男が
血走った目で俺の背中を見つめ、スマホを握りしめていた。
『彼の幸福の条件:あなたの物理的排除』
俺は、自分がこれまで散々やってきたことの「報い」が、今まさに実行されようとしているのを悟った。
逃げようとした足が動かない。
まるで、地面から見えない手が伸びて、俺をその場に縫い付けているかのようだった。
スマホが、これまでにないほど陽気なファンファーレを鳴らした。
『おめでとうございます!いよいよ、あなたのルートが完結します』
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えれめんたる