テラーノベル
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その日の夜。
諏訪部家の広い居間には、大勢の村人が集まり、盛大な宴会が開かれていた。
豪華な料理や酒が所狭しと並び、あちこちから笑い声が響く。
村人の一人が、嬉しそうに杯を掲げた。
「いやぁ〜♬めでたいなぁ♬」
隣の村人も大きく頷く。
「なぁ? 勇さん?」
その声に、勇は豪快に笑った。
「わっはっはっは!まったくだなぁ!」
そう言うと、グラスを手に取り、喉を鳴らしながらビールを一気に飲み干す。
その様子を見たさくらが呆れ顔を浮かべた。
「もう、お爺ちゃん?お酒もほどほどにね?」
しかし勇は笑って手を振る。
「なぁに!こんな日に飲まずにいられるか!なぁ?」
すると村人たちも一斉に声を上げた。
「ああ!そうだ!そうだ!
なんてったって兄弟仲直りの記念だ!」
勇も満足そうに頷く。
「その通りら!な〜はっはっは!」
さくらは苦笑いを浮かべた。
「はぁ〜・・呂律回ってないし」
焔垂が笑いながら口を挟む。
「まぁ今日くらい許してやれよ」
朝陽も同意するように頷いた。
「そうですよ」
その時、信愛の目が寿司桶に釘付けになる。
「私たちはホラ!お寿司!お寿司!」
テーブルには、高級寿司がずらりと並べられていた。
焔垂は目を輝かせる。
「そうだ!そうだ!こんな高級寿司!
滅多に食えねーからな」
朝陽は迷わず手を伸ばした。
「じゃあ僕は大トロ──」
それを見た焔垂が慌てて叫ぶ。
「だぁー! おい朝陽!それは俺が
食べようと思ってたヤツだろー」
だが朝陽は口いっぱいに頬張りながら平然と言う。
「もう食べちゃいました♬」
焔垂は思わず頭を抱えた。
「ちょ、おまっ、後輩だろ!」
朝陽は悪びれる様子もなく肩をすくめる。
「今は関係ありませーん」
焔垂は悔しそうに指をさす。
「んだと!キャラ弁好きは玉子でも食っとけ!」
朝陽はニヤリと笑った。
「あー!今バカにしましたよね?明らかに!」
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
茜は大きくため息をつく。
「はぁ〜・・・もっと優雅に食べれないかなぁ?」
その隙に、さくらがそっと手を伸ばした。
「なら私はうにを──」
「あー! それ私が食べようとしてたヤツぅ!」
さくらは勝ち誇ったように笑った。
「優雅にちまちま食べてなさいよ
その間に食い尽くしてやるから」
茜は頬を膨らませる。
「だーもう!」
「優雅はどこいったの?」
賑やかなやり取りを眺めていた信愛は、ふと部屋の隅へ目を向けた。
その先には、小さな机が一つ置かれている。
机の上には、一人分の寿司と湯呑みに入ったお茶。
さらに羊羹とキャラメルが丁寧に並べられていた。
信愛は不思議そうに尋ねる。
「ん?これは何です?」
秋穂が穏やかに微笑んだ。
「ああ、それはね、これはおじろくおばさの分」
信愛は少し目を見開く。
「おじろくおばさの?」
美羽は優しい表情で頷いた。
「お義父さんの兄弟は、私たちにとっても家族だからね
私たちだけ美味しい物食べるのは申し訳ないでしょ?」
信愛は静かにその供え物を見つめ、小さく頷いた。
「なるほど・・確かにそうですね」
秋穂は供えられた寿司へ優しく視線を向け、穏やかな笑みを浮かべた。
「私たちだけこんな美味しいの
食べてちゃバチが当たっちゃうわ」
信愛は小さく微笑んだ。
「ふふふ、ですね」
その時、朝陽の目が供えられたキャラメルに留まる。
「あっ♬キャラメル♬」
興味津々のまま手を伸ばしかけた。
「これって食べても──」
しかし、その瞬間。
「ちょっと!ダメに決まってるでしょ!」
鋭い声が部屋に響いた。
信愛が鬼気迫る勢いで朝陽を一括する。
朝陽は肩を震わせ、慌てて手を引っ込めた。
「あ、す、す・・すいません・・・」
その様子を見て、茜が吹き出す。
「うぇ〜い♬怒られてやんの〜♬」
さくらも苦笑を浮かべた。
「食い意地張りすぎ(笑)」
焔垂はニヤニヤしながら朝陽を肘でつつく。
「やっぱキャラ弁好きはキャラメル好きなんだな」
焔垂の言葉に茜が手を叩きながら笑う。
「きゃはは♬キャラ繋がりじゃん♬」
朝陽は顔を赤くしてため息をついた。
「あーもう良いです」
そう言った次の瞬間だった。
朝陽は焔垂の取り皿へ素早く手を伸ばし、そこに乗っていたウニをひょいと口へ放り込む。
「あっ」
焔垂が目を見開く。
「あー! 俺のウニィ!」
信愛は呆れたように額へ手を当てた。
「全くもう!」
笑い声が部屋いっぱいに広がる。
賑やかな宴は最後まで和やかな空気に包まれたまま続いた。
こうして、おじろくおばさの弔いは、無事に全工程を終えたのだった。
◇ ◇ ◇
おじろくおばさは大昔の話。
我々には関係の無い話だ
誰もがそう言って目を背けてしまうかもしれない。
しかしおじろくおばさが産まれた背景にある思想は、現代にも広く根付いていると言えるだろう。
子供を自分のアクセサリーのように考えている親や、子供を自分の思い通りにコントロールしたいと思う、いわゆる毒親が居る限り、第二、第三のおじろくおばさが産まれるかもしれない。
どんな酷い親でも子供の事を愛しているという、皆が想い描く常識は理想論と言わざるを得ないからだ。
しかし逆を言えばそれらを意識し、親と子という枠に囚われず、人として互いを尊重し、求め合っていればおじろくおばさは産まれない。
天虎村の悲劇を繰り返さずに済む。
負の連鎖を断ち切る事ができる。
信愛たちはその事を胸に秘めて帰路に着くのだった。
コメント
1件
×××さん、ついに弔いが終わりましたね…宴の賑やかさと、おじろくおばさへの供え物の静かな対比が沁みました。信愛が朝陽のキャラメルへの手を鬼気迫る勢いで止める場面、あれで「忘れない」という意志がグッと伝わってきました。ラストの作者さんのメッセージも重くて、毒親の連鎖を断つというテーマが現代にも通じるからこそ、この物語を読めてよかったです。お疲れさまでした。