テラーノベル
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アパートに帰った美月は、シャワーを浴びてから紅茶を入れる。
今夜はミルクティーではなくストレートで飲みたい気分だ。
カップを持ってダイニングテーブルの椅子に座ると、
美月はテーブルの端にあるノートパソコンを引き寄せる。
そして画面を開いた。
それから検索ワードに『沢田海斗』と入力してみる。
するとすぐにインターネットの百科事典がヒットした。
そこには、海斗の年齢、出身、学歴、血液型から身長までが細かく記されていた。
バンド活動も高校時代からなのでかなり長いようだ。
代表作は数えきれないほどある。
そのうちの何曲かは、音楽業界に疎い美月でも知っていた。
一つ驚いたのは、昔観た大好きな映画の主題歌が海斗のバンドの曲だった事だ。
その当時は誰が歌っているのか全く知らなかった。
亜矢子が言っていた通り、海斗が有名なアーティストであるという事は事実だった。
美月は一通り目を通すとその画面を閉じる。
次に美月は、月の写真の画像処理を始めた。
自分が撮った中で一番良い写真を選び、画像加工ソフトで修正を加える。
すると少しぼんやりしていた月の写真が、シャープでクリアに変わった。
この画像加工のやり方は、美月が参加しているSNSの天体写真のグループの人達が教えてくれた。
美月は今、人と関わる事をあえて避けているが、
SNSの趣味のグループでは、ネットを通して程よい距離感で交流が出来るので居心地が良い。
今の美月にはこんな付き合いがちょうど良かった。
メンバーとは実際に会った事はないが、色々な職業や色々な年代の人達がいる。
いつも有益な情報をいっぱい教えてくれるので、美月にとってはありがたい存在だ。
次に美月はもう一枚写真を選んだ。それは「地球照」が写った写真だ。
三日月に近い月齢で、地球照の濃淡がよく浮き出ている写真を選ぶ。
美月はその写真にも画像修正を加える。
そして、地球照部分がくっきりと浮かび上がるように加工した。
その二枚の写真を海斗に送る事にする。
美月は海斗の名刺を持って来ると、メール画面にアドレスを打ち込んだ。
(メールの件名はどうしよう?)
そこで美月はひらめく。
【『月遊び』の成果です】
そして本文には、
【こんばんは。先日はご馳走様でした。ご希望の写真を送付いたします。二枚目は『地球照』の写真です。
地球照は今の時期肉眼では見え辛いので、どうかこの写真で我慢して下さい。佐藤美月】
そう入力した。
文章がそっけないような気もしたが、あえてそのまま送る事にする。
そして写真二枚を添付すると、すぐに送信した。
(男性にメールを送るなんて何年ぶりだろう?)
送信ボタンを押す際美月は少し緊張した。
なぜなら相手は有名人だからだ。
その時亜矢子に言われた言葉が頭を過る。
『美月は普通では出逢えない人と出逢ったんだよ。相手は凄い人なんだからね!』
ファンが直接話したくても話す事が出来ない。
コンサートに行きたくてもチケットが取れない。
それくらい凄い人なんだから、この出会いは大切にしなさいと亜矢子は何度も言った。
しかし美月は海斗の事を、それほど特別な人とは思ってもいなかった。
なぜなら、海斗の美月に対する態度はとても自然な感じだったからだ。
海斗が有名人だと知った今も、彼に対するイメージは変わらない。
だからもしもう一度会う機会があっても、美月は以前と同じように接する自信があった。
メールを送った後、美月は窓辺に行き夜空を見上げた。
今夜は月が見えない夜だった。
その頃海斗はマンションへ戻ると、すぐにバスルームに向かった。
酔いを醒ますために少し熱めのシャワーを浴びる。
バスタオルで頭をゴシゴシ拭きながらリビングへ戻ると、ちょうどパソコンからメールの着信音が聞こえた。
海斗は急いでパソコンへ向かい、すぐにメールをチェックした。
すると心待ちにしていたメールが届いていた。
【『月遊び』の成果です】
その件名を見てすぐにわかった。
海斗は微笑みながらすぐにメールを開く。
美月のあまりにも簡素なメールを読んで、思わず海斗は笑顔になる。
(そっけない文章が彼女らしいな)
そして添付されている二枚の写真を開いた。
月の写真は二枚とも見事なものだった。
公園で美月から見せてもらった写真よりも迫力がある。
二枚の写真のうち海斗は特に二枚目の「地球照」の写真に心を奪われた。
(地球照ってこれか! すごいな)
しばらくその写真をじっと見つめた後、すぐに美月にお礼のメールを送る事にした。
件名には【沢田海斗です】
そして本文には次のように書いた。
【写真ありがとう。凄い写真を見て感動中しています。地球照もすごいね。この写真、携帯に転送してお守り代わりにします。
今夜も月パワーを充電できました。ありがとう。 沢田海斗】
文章を入力し終わると、すぐに送信した。
それから海斗は先日買った月の本を手に取るとソファーに座る。
本に目を通していると、次々に新曲のアイディアが浮かんできた。
それからの海斗は、慌ただしくメモを取ってはギターを弾き、しばらくはその作業を繰り返す。
作業が一段落すると、海斗は窓辺へ行き一面雲に覆われた夜空を見上げた。
(これからは天気が悪くても毎日月が見られるな)
海斗は美月から送ってもらった『地球照』の写真を携帯の待ち受け画面にしていた。
そしてその画面を見ながら、フッと穏やかに微笑んだ。
コメント
4件
「月遊び」って夢が広がって行きそう
ウンウン(*´艸`*)私も同感で〜す✨『月遊び』🌕️素敵〜✨🥹✨海斗さん創作意欲モリモリ⤴️⤴️💪💨美月チャンの自然体が、心地ええんやね🤭💕
「月遊び」....という メールのタイトルが、遊び心があり 本当に素敵です✨ 月遊びに 地球照.... メールを受け取った海斗さん、創作意欲がどんどん膨らんできちゃいますね🎸