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「渡したいものがあるんです」
そう言って私は鞄から紙袋を取り出した。中には手編みの靴下が入っている。毎晩少しづつ縫っていた。不器用だから形もいびつだし何度も怪我をした。
「すいません。買ったものを渡そうとしたんですが今お金があまり無くて…。何を買っていいかも分からず。迷惑ですか?」
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます。」
颯太さんは目を見開いていた。心なしか少し笑って見えた。
「今日はここまでしてもらってありがとうございました。」
「いえいえ。あの、また会ったりとかできますか?」
「もちろんです。」
「ではまた連絡しますね!さようなら!」
そう言って私は帰った。また会ってもいいんだ!嬉しくてたまらなかった。靴下も頑張って作ってよかった。
その日の夜。私は電話で紗枝に今日の報告をしていた。
「えーなにそれ!すごい進展じゃん!!」
紗枝は自分のことのように喜んでくれた。その日は日付けが変わるまで颯太さんのことや紗枝の子供の話をしていた。
翌朝。私は少し寝坊した。急いで身支度をして、仕事に行く。仕事場に行くまでには電車で20分ほどかかる。しかもその日は人身事故で電車が遅れていた。
「はぁ、絶対怒られる」
着いたら案の定怒られ、仕事を倍渡された。ブラックだなと思いながらも遅れた分を頑張った。でももっと嫌なことが起こる予感がしていた。
その日の帰り道。家の周辺で私は颯太さんを見つけた。声をかけようとすると、女の人が颯太さんの所に走っていくのが見えた。腕を組んでとても仲が良さそうだ。彼女かな。ボーッとしていて私は後ろから近づいてくるトラックに気づかなかった。ドンッと背中に大きな衝撃が走った。あれ、私ひかれた?
「瞳さん!瞳さん!」
薄れゆく意識の中で颯太さんの声が遠くの方で聞こえた。