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悠聖さんの言葉で、私は改めて自分の行動の大胆さを自覚した。
「……ごめんなさい」
耳まで熱くなった顔を伏せ、消え入りそうな声で謝る。
「ははっ! 冗談だって。そんなに落ち込まないでよ」
悠聖さんは眉を上げ、にっこりと笑った。
「この部屋は、誰がどこから覗こうが、プレイに参加しようが自由なんだ。彩音ちゃんが見ていたって誰も咎めないよ」
そう言うと、カーテンの向こうへ視線を向ける。
「ここでの禁止事項は、この会場で見聞きしたことを決して外部に漏らさないこと。それだけ」
穏やかな口調とは裏腹に、その言葉には妙な重みがあった。
「部屋に鍵が掛かっていないし、このカーテンを見れば分かるだろ?」
悠聖さんはカーテンの端を摘まみ、ひらひらと揺らす。
「わざと中の様子が見えるようにしてるのさ」
「ちょっ、ちょっと! そんなことしたら見つかっちゃうよ」
慌てて声を潜める。
「見つかったっていいんだよ」
悠聖さんは肩をすくめた。
「ここの連中は、他人に自分の恥ずかしい姿を見られることで興奮するんだから。じゃなきゃ複数プレイなんてしないだろ?」
「ええっ……!?」
他人に見られることで興奮する――?
私は言葉を失い、口を半開きにしたまま固まった。
「世の中には、普通の恋愛や性行為だけじゃ満たされない人もいるってことさ」
悠聖さんはオレンジ色の灯りが漏れる部屋へ視線を向け、くくっと喉を鳴らした。
「刺激を求めるための、一種のパフォーマンスだよ」
カーテンの向こうでは、今も熱を帯びた声が絶え間なく響いている。
私は無言のまま、その光景から目を離せなかった。
パフォーマンス……。
そういえば、麗香も同じ言葉を口にしていた。
「悠聖さん、大御所様って何?」
顔を上げ、彼の背中へ問い掛ける。
「倫子も言ってた。大御所様の面白いパフォーマンスが見られるかもって……」
私の言葉に、悠聖さんは振り返った。
そして少し驚いたように目を見開く。
「……彩音ちゃん、本当に倫子から何も聞いてないんだね」
呆れたように苦笑する。
「パーティーのことも、ただの食事会だと思ってたみたいだし」
「え……?」
私は首を傾げた。
「……まあ、いいや」
悠聖さんは小さく笑う。
「俺が教えてあげるよ。そのバッジを付けてる彩音ちゃんには、知る権利がある」
そう言って私の胸元を指差し、大きく頷いた。
「こっちに来てごらん。ほら、この角度から見える爺さん」
悠聖さんは手招きし、私をカーテンの端へと呼び寄せた。
「え? ……爺さん?」
身を屈め、彼が指差す方向へ視線を向ける。
その先――部屋の正面には、一人掛けの重厚なソファーが置かれていた。
そしてそこには、ブランデーグラスを手にした七十代後半ほどの男性が悠然と腰掛けている。
「あんな所にお爺さんがいたんだ……気づかなかった」
老人は、まるで退屈な芝居でも眺めているかのような穏やかな表情で、目の前で繰り広げられる光景を静かに見つめていた。
あのお爺さん……。
どうしてあんな平然とした顔で酒なんて飲んでいられるの?
私はその異様な姿に目を細めた。
「――あれが大御所様の正体。各地で開かれている、この悪趣味な集まりを最初に生み出した男だよ。
――楠木宗次朗。このホテルもあの爺さんの持ち物だ。本人にとっては別荘みたいな感覚さ」
悠聖さんは私の耳元へ顔を寄せ、小声で囁いた。
「……楠木宗次郎?」
聞き覚えがあるような、ないような名前に首を傾げる。
「え? 楠木宗次郎を知らない? ……ってことは、彩音ちゃんは消化器系のドクターじゃないな」
私の顔を見つめた後、悠聖さんはくすりと笑った。
「消化器系? ……どういうこと?」
首を傾げる私の眉間に、さらに皺が寄る。
「あの御方は、今は現場を退いているけど、元は超一流の消化器外科医だよ。
腹腔鏡下胆嚢摘出術はもちろん、甲状腺、膵臓、腸、卵巣、子宮――今じゃ胃の全摘にまで腹腔鏡技術が使われているだろ?」
「ええ、そうね」
「楠木宗次郎教授。
厚生省認定の権威であり、現在の腹腔鏡下手術を世に広めた第一人者の一人さ」
腹腔鏡下手術――。
楠木教授……。
…………。
「待って!」
思わず悠聖さんへ目を向ける。
「日本医師連盟の幹部だと言われている、あの楠木教授!?」
「そう。日本医師会の中枢組織に深く関わり、日本の医療制度改革を巡って歴代政権と議論を重ねてきた人物」
悠聖さんは驚愕する私を横目に見ながら、口元をわずかに歪めた。
コメント
1件
ああ、ここまで来て大御所様の正体が消化器外科医だったのか…! 悠聖さんの「パフォーマンス」って言葉、ただの軽口じゃなくて、この世界観を象徴してるんだなって思った。カーテンすら演出の一部っていう感覚、背筋がゾワゾワしたよ。しかもその権威が医療業界の人間ってのがもう…闇の深さを感じる。柏木さくらさんの描く空気感、すごく好きです。続きが気になるけど、静かに待ちます🌙