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「あの、これありがとうございます!」
立ちあがって紙袋を示すと、彼は小さく笑った。
「さぁ? ホテルの厚意かも」
「かもしれませんね。誰かさんが伝えたから、気を利かせてくれたのかもしれませんね」
ご機嫌になった私は、そう言って尊さんと腕を組む。
「ねぇ、せっかくだからツリーの前で記念撮影したいです。思い出、作りませんか?」
彼にとって、クリスマスが楽しいものでないのは分かっている。
お母さんと過ごすはずだったのに……と、数え切れないぐらい涙を流したかもしれない。
でもそれなら、私が新しく楽しい思い出を作ってあげたい。
家族になるなら、そうしていきたい。
そう思いながら見つめると、尊さんはフハッと笑って私の頭をクシャクシャ撫でた。
「そんな思い詰めた顔すんなよ。嫌なんて言ってねぇだろ」
「やった!」
快諾され、私は彼と一緒に大きなクリスマスツリーの側に寄った。
「すみません、写真お願いできますか?」
尊さんが近くにいたホテルスタッフに声を掛け、「勿論です」と返事をもらう。
「それでは写しますよ。三、二、一……」
私たちはクリスマスツリーの前で寄り添い、笑顔を作る。
――彼の人生が彩りに溢れていきますように。
悲しい思いはすぐには消えないだろうけど、私が少しでも尊さんに幸せと笑顔をあげられますように。
願いながら、私は尊さんに肩を抱かれ、笑顔でピースをした。
駅に向かって歩いていると、尊さんが尋ねてきた。
「年末年始の予定は?」
「え? ……一応、毎年実家に戻ってますが……」
尋ねられて、「もしかして……」と期待する自分がいた。
「うち来て一緒に過ごすか? そっちの家族の了承があったならだけど」
「行きます! 親に聞く年齢じゃないので大丈夫です! |三田《みた》ですよね?」
「え?」
尊さんのマンションがある場所を言うと、彼は目を丸くした。
「俺……、どこに住んでるか教えたっけ」
――まずい。浮かれて口を滑らせてしまった。
私は立ち止まり、顔を強張らせる。
「お前……、もしかして……」
尊さんが私を見て、何かを言いかける。
しばらく私たちは雑踏の中で立ち止まったまま、お互いを見つめていた。
やがて尊さんが息を吐き、私に手を差し伸べてくる。
「行こう。俺、多分どっかでお前に言ってたんだと思う」
「…………はい……」
私は少し震える手を伸ばす。
いつもと違って遠慮がちだったからか、尊さんがギュッと私の手を握ってきた。
「手袋ないのかよ。買わないとな」
「も、持ってます!」
尊さんが何事もなかったように歩き始めたので、私は慌ててついていく。
「そうか? でも俺があげた手袋を嵌めて出社するってのも、なかなかいいよな。アクセサリーなら目ざとい奴に気づかれそうだけど、手袋ならあんまりバレないだろ」
「そうですね……」
尊さんの言葉を聞き、私は気が抜けた返事をする。
(本当に、なかった事にしてくれるんだ。自分の家を知ってるヤバイ奴とか思わないんだ)
……この人はどこまで優しいんだろう。
――どこまでも、あなたについていくからね。
私は誰にも打ち明けられない思いを抱いたまま、ギュッと彼の手を握った。
**
仕事納めをしたあと、私は二十九日の午前中に|吉祥寺《きちじょうじ》にある実家に顔を出した。
都内で一人暮らしをしている二十八歳の継兄、|亮平《りょうへい》は、年末になって実家に帰省している。
二十四歳の継妹、|美奈歩《みなほ》は実家暮らしで、私が帰ったのを見ると素っ気なく「お帰り」と言ってスイッと自室に向かった。
「朱里、お帰り。あら? 荷物少なくない?」
私を迎えた母は、ショルダーバッグだけなのを見て目を瞬かせる。
「今年は別のところで過ごすから、挨拶だけしに来たの」
「そう。彼氏でもできた?」
「そんなとこ」
答えた時、リビングのソファでテレビを見ていた亮平が、チラッと私を見た。
コメント
3件
二人のラブラブツーショット写👩❤️👨🎄✨️✨️ これから増えていくと良いね…💕💕
ホント、ミコティ カッコよすぎ❣️(笑)欠点無いんかい。(笑)ꉂ🤣𐤔
尊さんの対応が大人だなぁ✨ 🎄ツリーの前で写真も撮れて、これから増えていくんだね〜💕 実家…すんなり嫌な思いをする事なく帰れるといいね。