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#普通
野々さくら
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ありあ
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それから信愛たちはVHSに収録されている「未解決事件調査隊」を食い入るように見つめていた。
すると突然画面が切り替わり、当時放送されていたであろうテレビCMが流れ出した。
車のCMにお菓子のCM、それからお酒のCM。
どれもごくごく普通で、90年代らしい少し騒がしい時代を感じる映像ばかりだった。
しかし、その中にひときは異彩を放つCMがあった。
「なんだ・・この変なCM」
焔垂は突然流れた、雰囲気の違うCMに首を傾げた。
そのCMは、白装束に身を包んだ優しげな表情の男性が、教会のような場所を背景に、ひとりでカメラ目線で語っている映像が流れているだけという変なCMだった。
「なんか不気味」
茜は不安な眼差しをブラウン管テレビに向ける。
BGMもSEも無く、男の声だけが妙にクリアに響いていた。
◇ ◇ ◇
暖かな眼差しの男性はカメラ目線で、優しい口調で語っていた。
「我々は・・天からのお導きこそが
人の縁を育んでくれる──
そう考えております」
慈愛に満ちた微笑みを浮かべたまま、言葉を続ける。
「あなたも一人で悩まず
誰かを頼っていいんです。
いつでもあなたの側に──」
その言葉だけを聞けば、苦しむ者に寄り添う聖人のようだった。
そして画面が暗転し青一色の背景に文字だけが浮かび上がる。
天縁──。
文字がほんのわずかに揺れ、映像は何事も無かったかのように、次のCMへ切り替わった。
◇ ◇ ◇
そのCMはどうやら、天縁教団のCMらしかった。
「これってまさか・・天縁教団のCM?」
信愛が驚きの声を上げる。
「宗教団体のCMが普通に流れてたの?」
茜も信じられないといった様子で画面を見る。
「すごい時代ですね」
朝陽が感心とも困惑ともつかない声を漏らした。
すると、さくらが映像の中の人物に目を留める。
「てことは、このCMに
出てる人が天縁教団の教祖?」
「その通り・・・彼が
天縁教団の教祖・坪野康仙だよ」
忍の言葉に、信愛はその名前を小さく繰り返した。
「坪野・・・康仙」
焔垂は、どうにも腑に落ちない様子で首を傾げる。
「でも教団の教祖が普通に顔出しで
CMに出れるもんなんですか?」
「これは94年に放送されてたCMなんだけど
この時代はね、まだ過激派の
宗教というのが問題視される前でね
普通にテレビ出演してたりしたんだよ」
「本当ですか!?」
驚く信愛に、忍は頷いた。
「君らはオーブ真理教団って知ってるかな?」
焔垂が記憶を辿る。
「オーブって確か、地下鉄テロ事件の?」
「そう!95年にテロを起こした
教団の教祖。彼なんか普通にテレビに出て
芸人と対談したりしてたんだよ」
「うっそ!やっば!」
茜が思わず声を上げた。
「今じゃまずありえないよね」
「そうですよね・・・」
忍の言葉にさくらも戸惑いながら頷く。
忍は、当時を思い返すように目を細めた。
「後に大事件を起こす事になる教団の教祖が、当時は面白い変わり者みたいな扱いで番組に出演してたんだよ」
「なるほど・・・」
焔垂は腕を組み、その言葉を噛み締める。
「今でこそ宗教団体って聞いたら『なんか怖い』
って身構えちゃうだろうけど、当時は
宗教=危険なんて考えを国民が──というか
この日本っていう国自体が持ってなかったんだよ」
さくらはそこで、あることに気づいた。
「だから天縁教団がメディアに圧力を
かけたとしても、疑わなかったって事か」
「うー・・・ん」
焔垂は考え込んだ。
その様子に気づいたさくらが顔を覗き込む。
「ん?どうかした?」
「千里眼騒動は96年なんだろ?」
焔垂は頭の中で年代を整理しながら続ける。
「でも96年って言えば、編集長が言ったように
オーブ心理教団がテロ起こした翌年なんだろ?」
全員の視線が焔垂へ集まった。
「そんな時期に宗教団体がメディアに圧力かけて
印象操作なんて・・・かなり無理ないかな?」
「あ、確かにそう言われればそうかも」
さくらも、その矛盾に気づいて表情を変える。
「メディアも宗教の扱いには
シビアになってたはずだよね」
焔垂はゆっくりと頷いた。
「第二のオーブなんて言われてても
おかしくなかったんじゃないか?」
その指摘を聞いた忍は、感心したように笑みを浮かべる。
「そこに気づくとは、さすがだね八乙女くん」
そして、その表情からわずかに笑みが消えた。
「それは、天縁教団が只の宗教団体じゃなくて
宗教団体としての顔も持ってる
コングロマリットって扱いだったからさ」
「ガ、ガングロ?」
茜の聞き間違いに、忍は思わず笑い声を上げた。
「あはは、ガングロじゃないよ。コングロマリット」
「コングロマリットって何ですか?」
今度は焔垂が尋ねる。
「巨大複合企業体とか言ったりするんだけど
異業種の会社を沢山傘下に持つ企業グループのことだよ
日本だと・・うー・・ん、そうだな
S◯NYグループなんかがイメージに近いかな」
「ああ、なるほど・・・」
焔垂は納得したように頷いた。
「S◯NYはゲームとか音楽とか金融とか
色々やってますからね」
そして、あることに気づく。
「ホテルに学校、病院を運営している企業が、宗教団体
としての顔も持ってるって認識だったって事ですか?」
「その通り」
忍は頷いた。
「まあ、仮に叩こうと考える輩が居ても
大っぴらには叩けなかっただろうね」
「何でですか?」
茜が首を傾げる。
「天縁教団が運営していたのは、学校とか病院とか
日本に住んでいたら絶対に使うものだよね?」
「あ!叩いたらインフラに影響しちゃうんだ!」
「そう!」
忍は茜の答えに満足そうに頷いた。
「天縁教団を叩いた事による
デメリットがあまりにも大きいんだ」
その言葉を聞き、朝陽が静かに口を開いた。
「なら天縁教団は、そんな自分たちの
立場をうまく利用したって事ですね」
「そう!だから天縁教団は──
『メディアは自分たちを叩けない』
そう高を括っていたと思うよ」
「なるほど・・・」
信愛は小さく呟いた。
宗教団体でありながら、その影響力は宗教という枠だけに収まらない。
人々の生活に必要不可欠な場所へ根を張り、社会そのものに深く食い込んでいく。
だからこそ、誰も容易には手を出せない。
信愛は改めて、天縁教団という存在の異質さを感じていた。
コメント
1件
読み終えたよ…14話かな? 今回も重くてじわっとくる展開だった。 天縁教団のCMが当時普通に流れてたっていう設定、オーブ真理教団の実例と重ねて説明されるとすごくリアルで怖かった。94年と96年の認識の差を焔垂が突いたところ、頭いいなって思った。そして「コングロマリット」ってワードで、学校や病院まで運営してるから叩けないっていう構造…社会に根を張った闇の描き方が丁寧で、読んでてゾッとした。 続き、どうなるんだろう…また読ませてもらうね。