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あや 18歳

けい 17歳





冬こもり  春咲く花を  手折たをり持ち

のたびの限り  恋ひわたるかも

ー 春に咲く花を、手折り持って、

何度も何度も、貴方の事を恋し続けるのです。


万葉集 柿本人麻呂 依






















「 もう卒業だって、早かったなぁ 」


風が吹く度、桜色の花弁が舞い散る木の下でヘラりと笑うひとつ歳上の其の人に苛立ちを募らせた。


「 そっすね 」


卒業式仕様なのか何時もの緩くひとつに結われた髪では無く、柔らかな印象を与える様な下ろされた髪。


「 あ、最後だし写真撮っとく? 」


「 先輩が撮りたいなら別に 」


「 もう!ツンデレだなーっ! 」


使い古された革製の鞄から携帯を取り出し乍、呆れた様に笑う。


「 ほら、撮るよ! 」


携帯のカメラを起動させるとピースサインを作り笑顔を浮かべる隣の女。


電子音と共に其の瞬間が切り取られる。


やる気の無いピースサインと詰まらなそうな澄ました顔でレンズを見つめる男。

そんな男の隣で心底愉しそうに笑う女が居た。


「 送っとくから保存してね? 」


「 はいはい 」


一件の通知を開くと文言通り一枚の写真がトーク画面に映されていた。


既読を付けて直ぐ、彼女にバレない様に保存した。


「 あやー、先生が写真撮るってー! 」


「 今行くー! 」


人気者の其の人は肩上に切り揃えられた髪を揺らす女友達に呼ばれる也、何か言いたそうな惜しそうな表情かおで俺の瞳を見つめた。


「 あー、じゃ行くね、またね彗君! 」


「 うっす、また。 」


‘ また ’ なんて有る訳が無い。


来月には上京して大学生になるらしい彼女は田舎に住み続ける予定の俺とは住む世界が違う。


関わりも無くなるだろう。


解っていた。

解っていたのに、

どうして






こんなにも、視界が歪むんだ。






桜の下、

彼奴は笑い

俺は泣いた


ぼやけた桜色と蒼色に悔しさが滲んだ。


いっそ時計の針でも巻き戻ってしまえば良い。


クールな男気取らないで、

素直に ‘ 好きだ ’ と言ってしまえば良かった。


歳上に恋なんてしなきゃ良かった。


恋してしまった俺が悪い。


「 彗君! 」


「 は、先輩なんすか? 」


何処か遠くへ行ってしまった筈の彼女は乱れた前髪も気にせずに走って来た。


頬を伝って乾かない涙を見られない様に顔を背けた。


「 あのね!

あの …  東京で待ってるから!  」


俺の手を取って ‘ ちゃんと来てね ’ だなんて言う彼女は、何時にも増して綺麗に可愛らしく含羞んだ。






「 …… 先輩、好きです。 」






「 へ? 」


‘ 間違えました ’ なんて通用しない程にハッキリと伝えてしまった。


伝わってしまった。


一歩後ずさった彼女は、頬を紅く染めて色素の薄い瞳を潤ませる。


「 えっと、聴き間違えかな、笑 」


「 付き合って下さい。 」


何時もなら決して言わない様な言葉がスラスラと出ていき、彼女の鼓膜を揺らしてしまう。


「 東京で逢えたら私から言うつもりだったんだけどなー、笑 」


聴いてはいけない様な言葉が聴こえて眉間に皺が寄るのが分かった。


「 は? 」


照れ隠しからか乾いた笑みを態とらしく零した。


「 いいよ!

彼氏君、私のこと絶対に離さないでね? 」


首元のネクタイが引っ張られる感覚がした。

刹那、唇に貴女の体温が伝わった。


「 此れが私の気持ちなので! 」


「 … そういう所ですよね、先輩って。 」


春一番の様な風に吹かれた桜吹雪。


桜色に包まれた貴女は心底綺麗だった。


「 ねぇさっき泣いてたでしょ!笑 」


「 泣いてません 」


「 嘘が下手だねー笑 」


揶揄う様に笑う貴女には嘘も通用しないみたいだった。


「 先輩こそ、随分淋しそうでしたね 」


「 そんな事無いし、 」


拗ねているのか、照れ隠しなのか、

顔を背けた彼女の横顔を写真に収めた。


「 あ!今撮った!?消してよ! 」


「 はいはい 」


分かった振りして二度と消すつもりの無い貴女の横顔。


「 彗君、東京で待ってるからね 」


「 分かってますよ 」


「 本当はずっと離れたくなかった、 」


「 … そっすね 」


愉しそうな笑みからは想像も出来ない様な弱々しい声に色白の手を取って握った。


「 1年待ってて下さい、必ず行きます 」


「 約束ね、 」






嬉しいのか、将又逢えないのが哀しいのか、瞳に涙を浮かべる小柄な貴女をそっと強く抱き締めるのは未だ先の話。






3 6 5 日 後 、 逢 い に 来 て 。

恋 ひ わ た り な む


end.



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コメント

25

ユーザー

I love you❣️

ユーザー

わ、うわわ、何これ大好き🤦🏻‍♀️💞 始まりの万葉集、この間習ったから謎の親近感湧いた(? ツンデレとか好みドンピシャです🫠 慧くんが最初苛立ってたり冷たい感じだったのって、寂しかったからだよね!!綾ちゃんに行って欲しくなかったんだよね!!(誰 綾ちゃんも可愛い…あざとい‪🫶🏻‪ タイトルの意味に涙🥲🥲

ユーザー

いや , 最高 すぎか ?! 初めまして 新参者です どうも 🙋🏻‍♀️ 流石 に 神すぎ てて ほんと やばい です 😳 興奮 治まらない がち 大好き らぶ ちゅ です (((

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