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萩原なちち
なんだよ。思ったよりも仲良くなってるじゃん。……え、ちょっと待って。
「……また?」
「昨日、お持ち帰りされちゃいましたぁ♡」
「いや、この人が勝手についてきたんです。シャワー浴びてたら入ってこようとするし、パンツ履かんと部屋中ウロウロするし、ほんま迷惑でした」
「……へぇ~、そうなんだ」
「あ、だいきさん、羨ましいとか思ってるでしょ? ほんま大変やったんやから」
「だいきくん、俺の産まれたままの姿、もう見てるからね。しゅうとより先輩だから」
「……不可抗力だからな」
「あんなに喜んでたのにぃ~」
しゅうとがびっくりして黙り込んでいる。俺の意識が半分「カレンちゃん」のままだから焦って誤魔化したけれど、別にそんなことしなくても良かったか。
「あ、入館料は自分持ちね。何か買う時も自分でお金を出す。わかった? いっちゃん」
「え~? だいきくんの奢りだと思って来たのに」
「だいきさんのこと、お父さんや思てません?」
しゅうとの方を見たら、めちゃくちゃ嬉しそうに笑っていた。
ちゃんと「次」があるように、カレンちゃんに言われたことを守ったからな。
「……行こうか」
「はーい!」
先に歩き出して後ろを振り返ると、いっちゃんとしゅうとが小競り合いをしながらついてくる。なんだかなぁ。三人ってバランスが悪いんだよ。いっちゃんがいつきくんなら、気も使わずに腕を組みに行けたんだけど。
「うわ、カワウソいるじゃん……」
「ほんまや! 可愛い! 僕、カワウソ大好きなんですぅ」
「あっ」
入り口を入ってすぐの大きなガラス越しに、カワウソが遊んでいる。
「可愛い」と思うより先に、急に走ってきたしゅうとに手を繋がれ、俺の全神経が右手に集中した。
「しゅうと、似てるもんね。カワウソ」
「それ、褒めてんの?」
「いや、ディスってる」
「いっちゃん性格悪すぎやろ。はよ帰れ」
「絶対帰んない。今日もお持ち帰りされるつもりなんだけどぉ~」
「うわ、ワニいるじゃん!」と走っていったいっちゃんの背中を見送る。あいつ、わざとなのか? それとも天然なのか?
「……だいきさんも好きですか? カワウソ」
「……うん。好きだよ。可愛いし」
「え? それって、僕のこともですか?」
「なんでだよ! カワウソの話をしてるんだろ!」
「うわ、悲しみー」
「悲しみ?」
笑ってしゅうとの顔を見ようとするけれど、見れない。なんだこれ、めちゃくちゃ意識しちゃうんだけど。
急に手を離され、しゅうとがいっちゃんのいるワニの方へ走っていった。
……あざとい。あいつ、わざとだな。俺を翻弄して楽しんでる。かなりの策士だぞ、これは。
なんて思ったのも束の間。
あっちではあっちで、また二人でイチャイチャし始めてるし……!
俺といる時より自然に笑い合って、身体をぶつけ合って。……やっぱり昨日、何かあったのかな?
こんなところで「小悪魔」な一面を出されても困るんだけどな。
「うわ、カフェある! だいきさん、お茶しません?」
「まだ来て十分も経ってないんだけど」
「『カワウソコーヒー』だって。カワウソの何が入ってるんだろ」
「いっちゃん、怖いこと言わないで」
三人で並んで、一つずつ注文する。いっちゃん、ちゃんと自分でお金払ってるじゃん。お買い物、一人でできて偉いね。
「あったまるぅ……」
「本当、今日はめちゃくちゃ寒いもんね」
「だいきさん、これどうぞ」
「え、何これ、可愛い」
カワウソのシールが貼られた小さなクッキーを、しゅうとが分けてくれた。プレーンにココア、チョコチップ。俺の手のひらに置かれたそれから、チョコチップを一つ摘まみ上げる。
「だいきさん、チョコ好きなんですか?」
「うん。甘すぎるのはダメなんだけど、たまに食べられるのはある。この間りんご飴食べたでしょ? あそこについてたカラースプレーとか、こういうクッキーに入ってるのは好き」
「へぇ、そうなんや……」
「何? もう『リサーチ』始まってんじゃん」
リサーチ? なにそれ。しゅうと、買い物の次は、そういう調査員みたいな仕事でも任されてるの?
「いっちゃんも食べる? 残り物やけど」
「ぐっちゃぐちゃに割れてんじゃん! こんなの売ったらダメだろ!」
「いや、僕が食べやすいように割っときました。プレーンとココアのミックスです」
「しゅうと絶妙に性格悪いよね……?」
「好きな人には、優しくしますよ?」
「……認めてんじゃん!」
なんだかなぁ。どうにも調子が出ない。
いつもなら、ふざけてイジられるのは俺の役割なのに。これじゃあ、俺がただの邪魔者みたいじゃない。いつきくんか、りゅうせい、早く来てくれないかな……。
「あ、そういえばりゅうせいくんといつきさん、来るって言ってましたよ」
「えっ、なんで?」
「りゅうせい、大人になってから水族館に行ったことがないのに気づいて、急に行きたくなったらしいっす。昨日、グループLINEで話してて」
「ねえ、いい加減俺もそのグループに入れてくれない? いつまで弾くんだよ」
「ダメっすね。メンバー全員の許可がないと」
「もうそれイジメだよ……?」
やった! いつきくんが来るんだ。
やっと、この「やんわり地獄」な時間から解放される。嬉しすぎる。お礼にお昼ご飯でも奢ってあげようかな。
「だいきさん、嬉しそう」
「え? そんなこと全然、全っ然ないよ!」
「わかりやす。本当にいつきさんのこと大好きなんやから」
「りゅうせいがいるの忘れません?」
「だって、りゅうせいとしゅうとは仲良しだし……」
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