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【ラノベ版】記憶のかけらが降る星でEP1「編集長との出会い」
***
これは――今思えば、何度も繰り返し見ていた夢だ。
暗闇の中、声だけが響く。
「あなた だけは……あなた だけは、どうか幸せに」
「強く……生きていくんだぞ」
「本当にごめんなさい。人生で一番幸せな時をありがとう。さようなら」
姿は見えない。けれど、その声は胸の奥をきゅっと締めつけるほど懐かしい。
***
「……また、この夢か。最近やけに多いな」
ルシアスは目を開け、枕元の時計に視線を落とした。針は、仕事に向かうにはまだ余裕のある時刻を指していた。
今日は面接がある。たしか――カメラマン志望だったはずだ。
今、この魔法局にはカメラマンがいない。
正確には存在していたが、亡くなった。
ほんの一瞬、ルシアスの瞳に陰が差した。
カメラの魔法を扱える人間は、この世界でも極めて希少だ。だからこそ、今日の面接は局にとっても重要だった。
ルシアスは淡々と身支度を整える。ローブの襟を軽く直し、長い髪を背中に流す。
無意識に伸ばしている髪。――いつの記憶がそうさせているのか、自分でもわからない無駄のない、訓練された動き。
「…行くか」
***
魔法局の廊下は、朝の空気でまだ少しひんやりしている。壁には各国からの依頼書や報告書が魔法で固定され、職員たちが行き交っていた。
「おはようございます。編集長。」
受付付近で、明るい声が飛んだ。
「あぁ。おはよう」
眼鏡をかけた女性――アヤセが小走りで近づいてくる。
「今日は待ちに待った面接ですね。」
「やっとカメラマン志望が来たな。」
「そろそろ時間です。向かいましょう。」
ルシアスは黙って頷き、二人で面接室へ向かう。
***
この世界には四つの国家がある。
理と秩序で世界を統べる国――《シンカー/THE THINKER》
情熱と衝動を正義とする国――《ブレイズ/THE BLAZE》
信仰と絆で未来を紡ぐ国――《ビリーバー/THE BELIEVER》
守りと犠牲を誇りとする国――《ガーディアン/THE GUARDIAN》
本来なら交わるはずのない四つの思想。
そのぶつかり合いは、今もこの星の各地で燻っている。
その対立を少しでも緩和するために設立されたのが――NNC魔法局。
ここは四系統すべての人間が出入りできる、数少ない中立の場。ルシアスが働く場所でもある。
***
面接室。ルシアスは先に入り、机の上の書類に目を通していた。
(俺はTHINKER出身。ここには様々な系統の人間が集まっているが――今日来るのはBLAZEの若者か)
――コン、コン。
軽快なノックが響く。続いて、扉が開いた瞬間、部屋の空気がふっと明るくなった。
***
扉から顔を出したのは、ふわっとした金髪の青年だった。
はにかむ笑顔。きらっと光る透き通るような瞳。背丈はやや小柄――だが、足取りには迷いがない。
「初めまして! 魔法学校出身、カイです! よろしくお願いします!」
元気な声が面接室に弾む。
「よろしく。座ってくれ。」
「はい!」
勢いよく腰を下ろしたカイは、すぐに心の中でつぶやく。
(うわ…顔かっこいいのに、目が死んでる…怖そうな人だ…)
まるで操り人形みたいだ。
ルシアスの顔が“厳しい上司そのもの”だったからだ。声は低く穏やかなのに、目だけが鋭い。
***
「今日は来てくれてありがとう。俺はルシアス。……アカギ・フレア・カイ、二十二歳か。」
「はい! 今年で二十二になりました!」
「早速だが、なぜ魔法局に?」
カイは一瞬だけ視線を落とし、すぐに顔を上げる。迷いのない目だった。
「……俺、今まで“やりたい”って思えることがなくて。でも募集要項を見て、“これだ”って……!」
(見た目は軽そうだが、言葉には迷いがない……悪くない)
ルシアスは心の中でそう評価をつける。
***
「カメラマン志望だったな。理由は?」
口調は穏やかだが――目は本気だ。採用か不採用か、ここでほぼ決まる。
「俺にとってカメラって、記憶が消えない“証”なんです。」
「証……?」
「……両親の記憶、ほとんどなくて。でも写真や映像は残るじゃないですか。そんなふうに、俺も誰かの記憶を残す存在になりたいって」
部屋の空気が一瞬だけ静かになる。
軽口で来たわけじゃない。ちゃんと理由がある。ルシアスはそれを見極めるのが上手かった。
(……なるほど)
⸻
「魔法フレームはどの程度使えますか?」
いつの間にかアヤセがメモを取りながら口を挟む。
「一応、中級までは……」
「中級ですか…!」
彼女の目がぱっと明るくなった。
***
この世界で“記憶を映す”手段は三つある。誰もが忘れることを恐れながら、それでも残そうとする。
【魔法フレーム】
両手で枠を作り、魔力を通すと光が集まって――その中に映像が浮かぶ。魔力量の消耗が激しく、初級からプロまで試験があるが合格は難しい。
【道具型魔法カメラ】
希少な魔性石と職人の技術が必要な高価なカメラ。王族や大富豪でも数台しか持たない。
【メモリアビースト】
景色をそのまま記録する特殊種の魔物。再生もできるらしいが、実物を見た者は少ない。
――そのうちのひとつを、若いBLAZEの青年が中級まで扱える。
「初めてBLAZE以外の魔法で使ったのが魔法フレームで……鳥肌立ちました」
カイは目を輝かせて語る。好きなものを話すときの顔だ。
***
と、そのとき。
突然、小さな影が面接室に飛び込んできた。
「うわ?! ちっさ……!」
思わず口に出るカイ。初対面相手に言うセリフではないが、もう遅い。
「採用だ。いいな? ルシアス。明日から連れてこい」
ちびなち――手のひらサイズの妖精であり、この局の創設者――が当然のように言い放つ。
「社長……! 承知いたしました。」
ルシアスが立ち上がるより早く、ちびなちはぴゅっと飛び去っていく。説明も理由もない。だが、あの小さな存在こそこの会社のトップだ。
***
「というわけで採用だ。明日十時、ここに来い。持ち物は特にない。」
「えっ……マジすか?! 採用?!」
「あぁ。よろしくな。」
「明日からよろしくお願いします。お気をつけて。」
「よろしくお願いします!」
あまりにもあっさりと決まってしまった採用に、カイはぽかんとする。
***
廊下に出て、ようやく大きく息を吐いた。
「……受かった。あっさり過ぎじゃね?」
そこへ、背後から足音が近づき、名刺が差し出される。
「名刺、渡してなかったな。俺は編集長のルシアスだ。これからよろしく。」
「よ、よろしくっす!」
「気をつけて帰れ。」
「ありがとうございます……」
近くで見ると、やっぱりでかい。物静かなのに、存在感が桁違いだった。
足音が遠ざかるたび、部屋の静けさが戻ってくる。
だが、どこか寂しさを感じたのはなぜだろう。
カイが去った後、ルシアスは静かに部屋に戻った
「カメラで記憶を残したい…か。」
そっと何かを考えるように空を眺める彼の口角は少し上がっていた。
***
その夜。
「明日十時か……もう魔法フレーム使うのかな? テレビ局ってどんな雰囲気だろ……」
ベッドに寝転びながら、カイはわくわくと不安を半分ずつ抱える。
(物静かで……でかかったな。ちょっとカッコよかったかも。……何食ったらあんなにデカくなるんだろ)
そんなことを考えているうちに、まぶたがゆっくりと閉じていった。
***
ぴぴぴ……(9時半のアラーム)
「やべっ!! 寝坊だ!!」
こうして、カイの“魔法局での初日”は、始まる前から波乱が確定したのだった。
そしてそれが、二人の“記憶が交わる物語”の、最初の一頁だった。
***
萩原なちち
#ハッピーエンド