「さぁどうぞ」と、ワクワク顔をしたリアンが焔の両脚を軽く開いた。
「いや……あのな?『どうぞ』って言われても、な?」
リアンがあまりに近過ぎて、しかも青い瞳をキラキラさせながらガン見されているせいか焔の陰茎は自然体なままで全く勃つ気配が無い。彼は見られて興奮するタイプでも無いし、色めかしい雰囲気も何も無いこの状況では尚更だ。
「…………(参ったな)」
だがしかし、何もせぬままでは先へは進めない。仕方なく無言のままのそのそと下腹部に手を伸ばし、そっと自分の陰茎に触れてみる。慣れぬ行為——というか、そもそも自慰自体をした事の無い焔の手付きはぎこちなく、このままでは何をしても勃たせる事など出来そうには無かった。
「……いつもの様に、されればいいだけですよ?」
辿々しい手付きでただモノに触っているだけに近い焔の自慰を見守っていたリアンが不思議そうな顔をして声を掛けた。そのせいで気まずそうは空気を纏う焔と目が合ったっぽい状況に。だが焔は目元が隠れているのでリアンは“目が合った”という確信を持てなかった。
(あー……流石に見過ぎた、か?陰毛も無く、子供みたいにつるんっとした局部が珍しくってつい気になって見てしまったが、やっぱり同性だろうが恥ずかしいのか。……まぁ、逆で考えればかなり照れ臭い状況である事は間違いないが。いや、むしろ興奮するんじゃないか?……どうだろうか、その立場に置かれてみないとわからんな)
どうだろう?と不思議がりながら、すっと下がったリアンの視線の先には萎えたままの陰茎がドンッとあり、気恥ずかしい焔が咳払いをした。
「なぁ……せめて、目を瞑っていてくれないか?」
「わかりました」と頷き、素直にリアンが目蓋を閉じる。
伏せられた長い睫毛のラインは美しく、褐色の肌につつっと水滴が伝い落ち、小さい口から溢れ出る八重歯がちょっと可愛い。そんなリアンの中性的な美をしばらく見詰め、彼の小綺麗な顔をオカズとやらに出来ないかと焔は思ったが、どんなに想像を膨らませつつ自分で刺激してみても無反応なままだ。
(……世の人間共は、何であんなにいとも簡単にヤレてんだ?あ?)
人間達の営みを思い出し、焔は少しキレ気味になってきた。 そんな不穏な空気感をリアンが感じ、彼の太腿にずっと張り付いたままになっていた手をすっとあげて「あの……」と声を掛ける。
「まさか主人は……インポだったり、とか?」
「——は⁉︎」
明らかにキレた事がわかる声を焔がこぼす。
「えっと、勃起不全、性不全、陰萎、性的ふ——」と類語を並べるリアンの頭をガシリと掴み、ギシッと骨の音が鳴るまで焔が掴んだ。
「言葉の意味がわからん訳じゃない。流石にそのくらい知っとるわ」
「す、すみません……。カタカナ言葉には不慣れな雰囲気でしたので、通じなかったのではないかと思いまして」
「……陰萎じゃない。ただ、不慣れで緊張しているだけだ」
(——はずだ、多分)
そんな言葉は胸の奥に呑み込んで、焔がリアンの頭から手を離して顔を逸らした。
年配者意識が強いせいで『そもそもこういった類全般の経験が無い』とも言えず、困惑気味に口元を震わせている。
母胎より産まれ落ち、かなりの早い段階で性に潔癖気味なオウガノミコトに使役するに近い状態になってしまった焔は肉欲的な快楽に溺れる機会が無かった事を軽く無念に思った。
(お、俺だって……こんな眼で産まれなければ酒呑童子達の様に——いや、今はそんな事をぼやいても仕方無いよな)
「……不慣れ、ですか。では主人、やはり私にお手伝いさせて下さい」
約束通り目蓋をしっかりと閉じたまま、リアンが優しい笑みを浮かべながら焔を見上げる。そして彼の返事を待つ事無く焔の両脚を大きく開かせると、その間に入り込み、あーんと大きく口を開けつつ陰茎に近づけていった。
「まっ——」
『待て』という言葉が出る前に、ふにゃりとしたままの陰茎をリアンに舐められて焔の背中が反射的に仰け反った。風呂場の縁に腰掛けているだけなので当然後ろに支えや壁などは無く、慌ててリアンが口を離し、腕を回して主人の背中を支える。
「大丈夫ですか?」
「だ、だ、大丈夫じゃ無い……んなワケあるかっ」
声が震え、焔がリアンの肩に掴まって体勢を立て直す。
「急に……変な事を、するな」
「変な事……?フェラ……えっと、口淫の事ですか?」
「ソレ以外に何がある?」
必死に焦りを隠し、淡々と話す焔だが声は震えたままだ。
「でも、少し勃ってますよ。あの程度の刺激でも、どうやら気持ちよかったみたいですね」
「お前、まさか……薄目でも開けてるのか?」
そっと指先で亀頭を撫でながら「まさか!お疑いになられるのですか?何なら私も主人を習い、目隠しでもいたしましょうか」とリアンが言う。指の動きだけで、『こんなになっているのに気が付かないワケがないじゃないか』と指摘されているみたいでかなり気恥ずかしい。
「しかし……私も他人のモノをこうして弄るのは初めてなのですが、かなり興奮を誘うものがありますね」
ぺろりと長い舌で自身の唇を舐め、彼の部下であるキーラが聴けば卒倒し、ケイトは歓喜しながら監禁部屋の用意を始め、ナーガが喜びながら乱行の準備をしだしそうな台詞をリアンが呟く。もうすっかり気分が高揚し、焔にご奉仕したい気持ちで一杯の様だ。
「私の舌がお気に召したみたいですし、このまま続けますね」
ニコッと笑い、焔の陰茎の根本を右手で掴むと再びリアンがソレを迷う事なく口に含んだ。先走りはまだ出ておらず、ちょっとだけ勃ち始めてはいるものの、まだかなり柔らかさが残っている。
「んっ……くっ」
必死に声を堪え、焔が口元を手で覆った。腰が勝手に揺れそうになってしまい、声と共に必死に動かぬよう耐える。ねっとりとした口内はとても柔らかく、窄められた口元のせいでかなり狭い。熱い舌の全体でじっくりと弄られ、数分もせぬうちに焔の陰茎は立派にそそり勃った。
ぷはっとなりながら慌ててリアンが口を離す。口内で丁寧に育てた焔の陰茎があまりにも大きく、顎が辛くなってきたからだ。
(……ん?ちょ、え?き、気のせいじゃないよな。見ていないから確信は無いけど、コレ、かなりデカくないか?)
唾液で濡れる陰茎はもう腹につきそうなくらいにまで勃ち上がり、完勃ちと言うに相応しいサイズにまでなっている気がする。ソレをそっと片手で包み込み、上下にゆっくり擦りながらリアンが焔の亀頭を舌で舐めると、先走りの汁が赤黒い先端からぷっくりと滲み出てきた。 その大きさに動揺はしつつも、「気持ちいいですか?主人」と熱っぽい声でリアンが問う。
「う、煩い……ちょっと黙れ」
恥ずかし過ぎて態度が冷たくなる。そんな態度を叱るみたいに強く陰茎を刺激され、両方の太腿を震わせながら、「あ……あぁっ!」と焔が嬌声をこぼした。
「勃ってみると、主人のモノはかなり大きいですね。見なくてもわかりますよ」
「……ははっ。腐っても、俺だって鬼だからな……」
色々と堪え切れず、腰がゆっくりと動き、より深い快楽を求めてしまう。
聞き知っていただけの知識では分かり得なかった享楽があまりに気持ち良過ぎてしまい、焔の理性が今にも飛びそうだ。
「悔しいが……も、保ちそうに、ないな」
「ですよね、私にも伝わってきますよ」
クスクスと笑われ、焔が悔しそうに顔を顰める。
「でもね……主人」
キュッと根本を急に強めに掴まれ、「んぐっ」と焔が苦しそうな声をあげて背中を逸らした。
「このままイクのは、賛成しかねます」
「……は?」
精液を寄越せと言っていた者の台詞とは思えぬ言葉を言われ、焔の熱がスンッと少し下がった。
「だって主人、私は貴方様の名前も知らないのですよ?」
拗ね気味に言われ、一層焔の熱が下がる。
「教えていないからな」
「名前も知らない方のモノは流石に飲めませんよね?」
「俺なら咥える事すらも無理だけどな」
サラッとハッキリ言われ、「うぐっ」とリアンが唸った。
「その辺は……好感度の成せる技と言いましょうか……。仕方ないじゃないですか、主人を可愛いと想う気持ちが先走ってしまうのですから」
焔に対して『コイツの実態は何者だ?』という多少の不信感や疑念を抱きつつも、リアンの中で好感度が爆上がりしてしまっているせいで、感情が無理矢理引っ張られる。
顔を見れば、表情が読めずとも可愛いと思うし、淡々と喋る落ち着いた雰囲気は安心感を得てしまう。肌に触れればキスしたくなり、太腿や背中に腕を回せば言葉巧みに懐柔し、彼の柔肌に所有痕を残したくだってなってしまうのだ。
「か、可愛い?ははっ……随分と腐った目玉をしているんだな、そんなに綺麗な色をしているクセに」
この異世界へ来る直前に見た、美しく透き通った青空を思い出させる瞳を見詰め、焔がくくっと笑う。刹那の一瞬だけ青空の下で笑うオウガノミコトの顔が頭の隅に浮かび『奴は何だってこんな世界を創ったんだ?何が目的だ……』と思ったが、陰茎の根本をしっかり握ったままリアンに再び口淫をされ、すぐに焔の頭の中が真っ白になってしまった。
グチュグチュと激しい水音をわざと鳴らしながら、出たり入れたりとされてしまう。が、強く掴まれてもいるせいで絶頂に達する事を阻まれてかなり辛い。
「うぐっ……あ、も、手を離せ!」
リアンの髪を無造作に掴み、焔が全身を震わせる。 寸前まできている欲求を発散出来ないせいで苦しくて仕方がない。はぁはぁと何度も何度も肩で息をし、涙が目元を隠す布に滲み、鋭い八重歯のある口の端からは唾液が流れ落ちた。
「苦しぃ……出したぃっ」
駄目だとでも言うみたいに、リアンが焔の亀頭部を甘噛みする。八重歯が緩く刺さり、鈍い痛みが全身に走った。
「……イキたいですか?」
「当たり前だろうっ」
余裕の無い声が聴こえ、リアンの背中がゾクッと震えた。湯船の中に隠れる彼の陰茎も激しくそそり立ち、刺激を欲してひくついている。
「あはは……主人の、声を聴いているだけで私の方が先にイッてしまいそうですよ」
「巫山戯んな……お前だけとか、踏むぞ?」
体格差のせいもあって焔の足はどうやっても届かないが、リアンの怒張した陰茎を踏みつけたそうに軽く動かした。
「んー……今の状況では、ご褒美になってしまいますね」
「くそっ……精液さえ手に入れば、ソレでいいんだろうが。早く、も……離せっ」
全身が苦しくって切なくて仕方なく、焔がリアンの頭に抱きついた。大きな黒い角を掴み、はあはあと荒れる呼吸が無遠慮に当たる。湿気に濡れた髪が胸の先にも当たってしまい、変な感覚のせいでまた体が震えた。
「名前を教えて頂ければ、すぐにでも」
「名前なんか……言えるか」
「何をそんなに拘っているのですか?」
「……んなところで、グダグダ喋る、な」
リアンが言葉を発するたびに、動く唇や吐息が陰茎に当たる。そんな些細な刺激さえも、寸止めされている状況では拷問に近い苦しさだ。
「主人の名前も知らぬとは……召喚魔として仕える身として悲しいです」
しゅんっとした雰囲気を纏われても、名を告げる事で、リアンに自分の魂の一端を掴まれるのだと思うと言いたくない気持ちが優ってしまう。だが、ソフィアが『この世界は元の世界とは理が違う』と言っていた言葉を思い出し、焔の心がぐらりと揺れた。しかも、“焔”は本名ではない。ただ、限りなく本名に近い呼び名ではある為多少は呪術的な効力を持ってしまうかもしれない。その事を考えると、迷いはなかなか消えなかった。
「強情ですねぇ……でも好きですよ、そういった性格」
ベロンッと下から上に向かって陰茎の裏筋を舌が這っていく。それと同時に睾丸や会陰部をぬるつく左手で撫でられ、そのせいで焔の中で葛藤していた考えが一気に砕けた。
「ほ……ほむら、だっ」
声が掠れ、呼吸が乱れるせいで上手く言えない。だけどリアンの耳にはしっかりとその名前が届き、彼は自らの思い通りになった事でニタリと仄暗い笑みを浮かべた。
「……ほむら、様」
主人の名を知り、より一層胸の奥が締め付けられる。勇者とは対立し、召喚士は愛してしまうという『設定』や『シナリオ』に押し付けられただけの感情だとは思えぬくらいに気分が高まり、発揚した感情のままリアンは焔の陰茎を喉の奥深くにまで一気に咥え込んだ。
(いっそこの流れで、もうコイツのナカに挿れたい!さっさと抱いてしまいたい!)
激しく感じる衝動を無理矢理抑え込み、耐えに耐えながら容赦なく頭を動かす。 大きな角の生える頭部に抱きつかれ、耳元に聴こえる甘い叫びが心地いい。焔の名前を頭の中だけで連呼してしまうこの衝動はどこからくるんだと思っても、そんな疑問はすぐに彼の嬌声がかき消していく。
もっともっともっと、この人を感じていたい。
そんな想いだけが体を駆け巡った時、やっとリアンは焔の陰茎の根本をがっしりと掴んでいた手を離してやった。
「———っ!」
声にならぬ叫びを焔があげ、背を激しく仰け反らせる。そしてリアンの口内の奥深くで、全ての欲望を弾けさせてしまった。
はしたなく開脚させた両脚を震わせ、ドクンドクンッとねっとりとした白濁液を大量に吐精する。ビュルビュルと音でも鳴ってしまいそうな勢いで口内に出されてしまい、リアンはあまりの苦しさから眦に涙を浮かべている。
「あ……あぁ……んっ」
頭の中ではもう何も考えられず、堰き止められていた欲求を発散出来た事に対しての喜びが焔の全身を包む。
ゴクンッと喉を鳴らし、リアンが焔の吐き出した精液の全てを腹の中に飲み込んでいく。じわりとそれは体に染み渡っていき、恍惚とした表情をしながら陰茎を口内から解放して、リアンは頰を真っ赤にしながら感嘆の息を吐いた。
「……本当に、飲んだのか?」
スッと一気に頭の冷めた焔が、リアンから体を離しながら訊く。
「当然です。その為にしたフェラですよ?」
「そ、そうだよな。わかってはいるんだが……よくそんなモノを飲めるよな」
申し訳なさそうに焔がリアンの口の端を手で拭う。そんな行為すらも彼には可愛く思えてしまい、今度はリアン側が笑いながら焔の腰にギュッと抱きついた。
「どうしてくれるんですか。今の一押しで、好感度が最高値にまで上がったじゃないですか」
呆れ声で「何故じゃ」と焔が言う。 リアンのツボが全くわからず、『こんな事で上がるなら、逆にどうやったら好感度は下がるんだ?』と不思議に思い、焔は軽く頭を傾げてしまった。
「……『挿れたい』って言ったら、早急過ぎますか?」
「殺すな、確実に」
「ですよねぇ…… 」
現状でも色々すっ飛ばしている自覚はあるので、強制する気にはリアンもなれない。だが下腹部がとんでもない事になっている事実からは目を背ける事も出来ず、さてどうしたものかと彼は低い声で唸り出した。
「あー……足でも、ご褒美なんだったよな?」
お湯の中でギンギンと勃っているリアンの陰茎をチラ見して、焔がポツリとこぼす。 同性としてこのままでは辛いとわかっているので、どうにかしてやりたい。だが、同じ様に口淫をし返す気には流石になれず、妥協案を提示したのだが……『流石にコレは酷すぎたか?』と少し申し訳ない気分になってきた。 なのに、だ——
「お願いします!」
予想外に明るい返答をされ、焔は自分で言った提案だったのに、リアンに対してドン引きしてしまったのだった。