テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「こ、ここが……わ、私の家です」
すひまるちゃんが不安げに扉を開ける。
俺たちはさっきの施設から離脱し、ここまで逃げてきた。
すひまるちゃんの身体をチェックして、怪しいものが何もないことを確認した俺とルカは、とりあえず、あそこに長く留まるのは危険だと判断。
そして――
「こっちのルートなら、見つからないと思う……」
すひまるちゃんの言葉通り、彼女は自分でも盗みに通っていたという裏ルートを案内してくれた。
そのおかげで、吸血鬼たちの目を避けながら、なんとかここまでたどり着くことができた。
「お邪魔しまーす」
「ひとまず、他の吸血鬼に助けを求めなかったぶん、少しだけ信じてやるのじゃ」
そう言って、ルカはすひまるちゃんを警戒しつつ家の中へと足を踏み入れる。
すひまるちゃんの家は、七畳ほどの1DK、壁は剥がれかけていて、窓にはカーテン代わりの布。
まるで俺たちの世界にあるボロアパートみたいな雰囲気だったけど……なんか、こっちのほうが落ち着くな。
でも、それよりずっと気になってることがあった。
「ねえ、あの……明かりって、どこ?」
ここまでの道もそうだった。街灯はなく、月明かりもない。
部屋に入っても、魔法で光を灯す様子すらない。
「ご、ごめんなさい……わ、私たち吸血鬼は、明かりをつけないんです。暗闇でも目が利くので……」
「……そうなんだ。えっと、先に言っておくけど、僕、ほとんど見えてないから、何か踏んだり蹴ったりしても怒らないでね?」
目が少しずつ慣れてきたけど、家具の輪郭がぼんやりわかる程度だった。
「それと……さすがに状況が展開しすぎて、僕の脳がパンク寸前なんだけど」
「うむ……ワシも、聞きたいことが山ほどあるのじゃ」
「は、はい……その前に、少しだけ……いいですか?」
「ん?」
すひまるちゃんは押し入れのふすまをスッ……と開けると——
「おねーちゃん、おねーちゃん!」
中から飛び出してきたのは、バスケットボールくらいの大きさの、もふもふした丸っこい生き物。
ふわふわの体を全力でぶつけながら、すひまるちゃんに抱きついて、そのままぎゅっとぬいぐるみにされていた。
「ただいま、セミマル」
「そ、その子は……?」
「わ、私の……弟です……」
「えっ!?……弟!?」
あれ?え?今、弟って言った?この毛玉が?
「そ、その、驚くと思いますが……私も子供の頃は、こんな感じでした……」
「ぅー!この吸血鬼たち、だれーっ!」
……なんか警戒されてるけど、ちょっと待って、動きも鳴き声も、ぬいぐるみの域超えててめちゃくちゃ可愛いんだが。
「おーよしよし、僕は吸血鬼じゃないよー? 怖くないよ〜?」
「!? 吸血鬼じゃないの?」
「セ、セミマル……ほら、これ」
すひまるちゃんが懐から取り出したのは、例の輸血パック。
そのままストローをプスッと刺すと——
「わー!ごはんだー!」
ぴょこぴょこと揺れながら、セミマルはストローに吸い付き、むしゃむしゃ……というか、ちゅーちゅーと血を飲み始めた。
「あ、あの……アオイさん、ルカさん……この子がごはんを食べ終わるまで、少しだけ待ってもらえませんか……?」
「ふむ、構わぬのじゃ」
「うん、全然いいよ……」
そう言って俺とルカが見ていると、セミマルは飲みながらチラチラこちらを見て、恥ずかしそうにすひまるちゃんの影に身を寄せていく。
小さな体でぴとっと寄り添いながらちゅーちゅー吸ってる姿は、もう可愛すぎて罪。
——かわえぇのぅ。
数分したら「ケプッ」と飲み干したのですひまるちゃんは「ちょっといい子に寝ててね」とまた押し入れに戻してしまった。
「じゃぁ、状況整理、いいかな?二人とも」
「のじゃ」
「は、はい……」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!