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「初めて、人を愛しいと思ったから」


側に置いておきたかった。それだけのこと。嘘偽りはない。一緒にいたいと思った。


それの何がいけない!


――あの日、ミヒの澄んだ瞳から、自身の生きる道を教えられた。


奇襲をかけて、他国を奪う。それが、本当の王なのかと。


目の前の幼子から、ジオンは教えられたのだ。その清らかな瞳によって──。


「あなたは、私の仇」


「そうだ」


それも真実。


「ミヒの好きにすればいい。私は、逃げたりはしない」


「でも……」


ミヒの小さな声が、ジオンを捕まえた。


「ミヒ?私は、お前からすべて取り上げてしまったんだよ。国も、家族も。だから、恨んでいいんだ。恨むべきなんだ」


恨め。憎め。


そうだ。


すべてが、吐き出されれば……。


それで、断ち折れた絆が、生きてくる。


再び、昔にもどれる!


ミヒは混乱しているだけで、なに、不機嫌さが出ているだけのこと。


鬱鬱とした溜まりごとを吐き出せば、また笑顔が戻ってくる――。


ジオンは、口ごもるミヒに希望を託した。


黙りこんでいるのは、そう、戸惑いを感じているだけなのだと、信じたいばかりに――。


「できないの!憎めない。私は……子を……ジオンの子を!!」


子?!


思いもよらない言葉だった。


ミヒの口から流れたそれに、ジオンはさらなる希望の光を感じた。


「ミヒ?」


「でも、流れてしまった……」


まばゆい輝きが、だんだんと細くなり、静かに立ち消えていく――。


ミヒの口ごもる姿は、希望ではなかった。


ジオンは、打ちのめされる。


自分は、ミヒの仇だ。憎むべき対象なのだ。希望などあるはずない。どうして、それがわからない。


逃げないと言ったにもかかわらず……。往生際悪く、足掻くとは。


自分勝手な思いに走る、己を嫌悪した。


「そうか……そうだったのか……すまない。やっぱり、私は、お前から取り上げてばかり……」


だから。


ミヒの体は成熟していたのだ。


ジオンは何を臨むわけでもなく、うつろに空を見上げた。


子……。


子が欲しいと、子が必要だと、皆、言っていた。


そうだ。


それを、残せなかった。


ミヒにも……。


「ミヒ……。お前は、美しい。いつまでも、美しく咲いていればいい。そう……思っていた」


ジオンは、ミヒを引き寄せ、その温もりを自分のものにしようと試みた。


あさましいのは、十分承知している。


だが、それほどまでにミヒは、ジオンにとって、生きるすべてだった。


「散るからこそ美しい。美しく、舞い落ちるから胸に残るの……」


ジオンの胸の中でミヒの声が埋もれる。


「……そう……したいのか?」


ジオンは、ミヒの本意を知る。


よかれと思ったことは、自分勝手な思い。


ミヒにとって、幸せだったのかと問われれば、そうだと言い切れない。


自分と生きたことが、余計に苦しめ、何もかも奪ってしまった。


せめて散り時ぐらいは、自分で選ばせてやろう。


いや、これも、自分の身勝手な考えだ。


ミヒ……。


逆立つ心をどうか、おさめて欲しい。


嫌われたくないのだ。


……離れたくないのだ。


――花は散れども、時がくれば、再び美しく咲き誇る。


共にいれば、その花開く姿を見ることができる。


たとえ……仇とよばれようと、


側にさえいれば――。

朱(あけ)の花びら

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