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ウォルは駆け出す。
天幕に戻るが、二人の姿はなかった。
やはり!
蘇る時……。
……二人の行き先が見えた。
ミヒは、あの日へと、ジオンを導いているのだ。
ウォルの足は、あの日を追った。
駆けた。息が乱れるほど駆けた。
見えない。
いない!
どこに!
――水の音。
見える二人の姿。高台にたたずむジオンとミヒは、憂いをおびた笑顔を眼下に手向けている。
「ミヒ!!待つんだ!ミヒ!ジオン!」
生える下草に足をとられて、どうしたことか、ウォルは思うように進めない。
いけない!行くな!
「ミヒ!!」
目に飛び込んできたミヒの紅い裳裾《もすそ》。
風に煽られて大きく広がり、はらはらとなびいている。
漆黒の長い髪をたなびかせるミヒは、女仙のように美しく、導かれるジオンは、至福の笑みを浮かべている。
あの日。
追いつめられた女達が落ちる姿を、綺麗だと指差し、幼子は笑った。
それが、業に染まった花びらだと、知りもせずに……。
そして、今。花びらは、散り急いでいた――。
あの日と同じ、浪々と流れる川面へ向けて――。
「ミヒ!やめろ!!お願いだから!」
――深紅、薄紅、萌黄。色とりどりの花びらが、濁る大河に落ちていく。彼方に突き出る崖から、ひらひらと風に舞って――。
「ジオン!」
ウォルの動きを下草が、邪魔をする。足にからみつき、ウォルを二人から引き離す。
放せ!放せ!
なぜ、二人の元へ行かせてくれない。
「お行きなさい!」
固まりきるウォルをも飲み込むような、男の声が、怒濤のように響く。
かっと目を見開くチホがいる。全身全霊をかけ、その喉をしぼっている。
「き、貴様っ!」
なぜ、この場に及んでミヒを煽る。ウォルはとっさにチホの胸へ組み付くと、拳を振り上げる。
チホは、それを振り払う勢いで叫んだ。
「リト様!どうか!」
ウォルの動きは、止まった。チホが発した聞き慣れない名のせいであった。
――リト……。
それが、ミヒの――。
あの国での――、名、なのか――。