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しん、と場が静まりかえる。決して意図したわけではないけれど、タイミングよく奥から出てくるのは、見慣れた彼の姿だ。
筋骨隆々の、逞しい体つきをした彼。いつも笑顔いっぱいの、あの彼だ。
「……トラゾー。」
口から漏れ出た名前に、相手は少し気まずそうに、それでも微かな笑みのままで会釈をした。それに釣られて、自分の頭も少し下を向いた。
謎の空間だった。一言で言うとするならば。
どこかフクザツな顔をしたぺいんと、混乱する自分、泣きそうなしにがみくん、大人な顔をするトラゾー。こんなにも、4人で笑えなかった空間はない。
「………意味わかんねー…。」
手で涙を拭いながらも、吐息混じりの言葉を吐き出したのはぺいんとで。疲労か、怒りか、呆れか。
自分はぺいんとじゃないから、わかるわけもない。それでいて、相手もよくわかっていないのだろう。
「何で…何で俺は泣いてんの?悲しくなんてないのに…寂しくなんてないのに…眠くもないのに…あくびだってしてないのに、笑い泣きだってこともないのに!!!!」
溢れる涙を、ぺいんとは必死に抑える。
「・・・───ハサミ。」
声から漏れたのは、自分の口から出た言葉だった。けれど、あまりの小ささに誰の耳にも届いていないだろう。
───ハサミ。
【感情】に操られているのが俺たち2人なのならば、ぺいんとと俺はマリオネットなわけで。
であれば、この【感情】とつながる糸を切れれば。切ることができれば、きっと、マリオネットなんかじゃなくなる。
「何で笑ってるかなんて、わからなくていい。笑えてるなら、何かしらは面白いんだよ。」
誰が発した言葉だっただろう。きっと、自分とぺいんとではないことはすぐにわかった。
誰なのだろう。
こんな静かな場でも話題を出せて、気まずくても何かしら話題は決めて、負けず嫌いで、頭が良くて……
そんな、メンバーなんて。どう考えても、1人しかいなくて。
「泣いてる時は、何で泣いてるか必死に考えて。そうしたら、泣いてる原因がわかるから。」
笑顔だ。彼は笑顔だ。
───何で笑ってる?
…だなんて、そんな言葉、必要のないことらしい。何で笑ってるかなんて考えなければいいのだと、今教えてもらったばかりじゃないか。
笑顔になれば、つられる。何でかわからないけど、わからないままつられて笑えばいい。
「……じゃあ、何で今、俺は……笑いながら泣いてるの?」
ふふ、と笑い声を漏らしながら目から溢れるそれを拭いながら口にしたのは、何者でもない自分自身で。
笑い声が息として漏れながら、涙は止まることを知らない。
「クロノアさんは、きっと嬉し泣きしてるんですね。」
しにがみくんも、そう言いながら笑って泣いている。不思議な光景に、笑みが漏れる。
笑みが漏れてるのは、3人分だけ。
「───意味、わかんねえ。」
いつもよりも断然低い声。いつもよりも微かに震えている声。啜り泣くように涙を流していたぺいんとは、どこか笑いにつられながらも泣いていた。
「じゃあ、結局【感情】ってなんだよ。お前らは…お前らはわかるのかよ?」
どこか怒りをあらわにしたぺいんと。一瞬にして、場が静まりかえるかと思った。自分が口を閉じてしまったから。
先ほどまでお互いに【感情】について分からなかった仲間のようなものなのに、今はこうして3対1のような構図になってしまったのだから。
けれど、今考えれば【感情】とはごく簡単なもので。
「───ぺいんとは、前からわかってるよ。」
声を投げかけたのは、自分だ。
今はもう、清々しい。
感情とは、こうも簡単なものなのだ。
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