テラーノベル
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デビューライブを3日後に控え、私たちは都内某所の大型スタジオで最終調整に入っていた。
「美裕、ちょっと休憩入れよ! 水分補給して!」
康弘が差し出してくれたスポーツドリンクを受け取り、深く息を吐き出す。
全身汗だくだ。坂谷さんの情熱的すぎるレッスンと、冴子さんの容赦ない楽曲修正によって、私の体は悲鳴を上げていた。けれど、充実感で胸がいっぱいだった。
「灯ちゃんも沙也加も、一旦休も……って、沙也加?」
振り返ると、沙也加がスタジオの自販機コーナーの影で、あり得ない角度で固まっていた。
まるで野生の猛獣に遭遇した小動物のように、ガタガタと膝を震わせている。
「な、なん……なんで……どうしてここに……っ!?」
「沙也加? どうしたの?」
私が近づこうとした瞬間、スタジオの重い防音ドアがスッと開いた。
コンコン、と軽いノックの音。
入ってきたのは——
「あ、すみません。そちらのスタジオ、次の枠の機材搬入で少し早めに入らせてもらってもいいですか?」
すっと通る、透明感のある声。
黄金色の髪を揺らし、どこか大人びた、けれど圧倒的なオーラを纏った少女。
——**星野ルビー**。
「…………ッ!?」
息が止まった。
前世の私が、擦り切れるほど画面越しに見つめ、その生き様に救われ、そして最後の展開に胸を締め付けられた……本物の『B小町』の絶対的センター。
言葉が出てこない。心臓が早鐘のように鳴り響く。
ここが『推しの子』の世界だと頭では理解していた。けれど、本物を目の前にした時の圧迫感は、前世の記憶も、今の自分という存在すら吹き飛ばしそうなほど強力だった。
「あ、ごめんなさい! 練習中でしたよね! 私、邪魔しちゃいました……!?」
ルビーはこちらの硬直ぶりに気づき、慌てて両手を振る。
その背後から、怠惰そうな雰囲気を纏った黒髪の青年が顔を出した。
「ルビー、勝手に入るなって言ったろ。……あ、どうも。次の枠で借りてる者です」
——**アクア**だ。
冷徹で、けれどどこか寂しげな影を宿したその瞳。
前世で漫画のコマの中にいた存在が、今、目と鼻の先で息をして、私たちを見ている。
(本物だ……本当に、この世界に生きてるんだ……!)
「あ、あの……! いえ! 私たち、ちょうど休憩に入るところでしたので……っ!」
声が裏返りそうになるのを必死で抑え、私は一歩前に出た。
前世のオタクとしての感情が爆発しそうになるのを、必死で「女優・榊美裕」の仮面で押さえつける。
沙也加はすでに壁に背中を預けて「尊い……生きてる……ルビー様が喋った……」と涙目になりながら崩れ落ちていた。灯だけが「……あの子がB小町の」とクールに呟き、対抗心をチラつかせている。
ルビーの視線が、スタジオのスピーカーから流れていた私たちのデビュー曲のデモ音源と、汗だくの私に留まった。
「あ! もしかして……いま話題の『C小町』さんですか!? YouTubeの配信、私見ましたよ! 『性別を超えてアイドルになる』って言ってた子……美裕ちゃん、ですよね!?」
ルビーがキラキラとした大きな瞳を輝かせ、私の手をぎゅっと握りしめてきた。
「えっ……見、見てくださってたんですか……!?」
「うん! すごくかっこよかった! 性別とか過去とか色々言われてるみたいだけど、そんなの吹き飛ばすくらいの熱量があって……私、ゾクゾクしちゃった! 私たちB小町も、絶対に負けられないなって!」
まっすぐで、毒気のない、純粋な太陽のような言葉。
それが、あまりにも眩しくて——胸の奥がキュッと締め付けられた。
前世の私が納得いかなかった物語。
彼らが背負ってきた絶望と、その果てにあった結末。
でも今、目の前にいるルビーは、本気で私という「異端のアイドル」に刺激を受け、目を輝かせている。
「……ありがとうございます」
私はルビーの手を握り返し、まっすぐにその目を見つめた。
「B小町のお名前をお借りして『C小町』を名乗ること、怒られるかと思っていました。でも……私たちは二番煎じになるつもりはありません。あなたたちの輝きに並び立ち、いつか超えるつもりでステージに立ちます」
ルビーが一瞬驚いたように目を丸くし——それから、悪戯っぽくニカッと笑った。
「言ったね〜! いいよ、勝負だね! 私たちも絶対に負けないんだから!」
そのやり取りを横で静かに見ていたアクアが、ふっと僅かに口元を緩めた。
彼の目が、私という存在の「異質さ」と「覚悟」を品定めするように見つめてくる。
「……面白い新人だ。今の芸能界、大人しくまとまってる奴ばかりで退屈だったからな。せいぜい、炎上とアンチに潰されないように気をつけることだな」
「アクア! 言い方!」とルビーが怒るが、私には分かった。
それがアクアなりの、この狂った芸能界で生き残るための「警告」であり「エール」なのだと。
二人が機材の準備のために奥へ進んでいくのを見送りながら、私は深く息を吐き出した。
手が、小さく震えている。
恐怖じゃない。武者震いだ。
前世で届かなかった想い。読者として指をくわえて見ていただけの運命。
でも今の私には、この足があり、この声があり、一緒に走る仲間がいる。
「……見ててよ、星野ルビー。星野アクア」
私は鏡に映る自分に向かって、強く誓った。
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#【推しの子】
#SAKAMOTODAYS
おとうふ 紹介文読んで🙇
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りな
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「あなたたちの生きるこの世界で、私が一番の輝きになって見せるから」
コメント
1件
あ、第4話読んだわ! 星野ルビーとアクアが本物として登場するシーン、めっちゃ滾った🔥 美裕が前世のオタク心を必死に抑えながら「超えるつもりで立ちます」って啖呵切るところ、鳥肌たったわ。アクアの「警告でありエール」の解釈もグッときた。 沙也加の「ルビー様が喋った…」って崩れ落ち方、完全に同類すぎて笑った😂 続きめっちゃ気になる!デビューライブ、どうなるんだろ!