テラーノベル
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壁に手をついたまま、
翠は、もう一歩も動けなかった。
「……あ」
声にならない音が喉から漏れて、
そのまま、膝が折れる。
勢いはなかった。
転ぶ、というより、
座り込まされるみたいに。
冷たい地面の感触が、
じわっと太ももに伝わる。
ああ、
座っちゃった。
でも、
もうどうでもよかった。
ポケットから何かがすり抜けて、
地面と軽くぶつかる音がした。
証拠が詰まったスマホ。
それを見ただけで、
頭の奥が、きゅっと縮む。
——触らなきゃ。
——確認しなきゃ。
そう思うのに、
指先が、まったく言うことを聞かない。
呼吸が、浅い。
吸ってるのか、吐いてるのか、
よく分からない。
視界の端が、
少しずつ、白っぽくなる。
「……赫、ちゃん……」
名前を呼んだつもりだった。
でも、
ちゃんと声になってたかも怪しい。
赫が守られてるなら、
それでいい。
そのはずなのに。
胸の奥に、
小さく、でも確かに、
別の感情が浮かぶ。
——俺も、守られたかった。
その考えが出てきた瞬間、
ひどく、怖くなった。
欲しちゃいけない。
そんなこと思ったら、
全部、意味がなくなる。
翠は、
膝を抱える。
制服の袖が、
少しずり落ちて、
自分の腕が視界に入る。
「……あれ」
見慣れてるはずなのに、
自分の腕なのに、
どこか他人みたいだった。
地面に座ったまま、
時間だけが過ぎていく。
夕方の音が、
遠くで変わっていく。
子どもの声が消えて、
車の音が増えて、
空気が、夜に近づく。
でも、
翠は動かない。
動けない。
頭の中で、
同じ言葉が、
ゆっくり、何度も回る。
ここにいてもいい理由
ここにいちゃいけない理由
どっちも、
もう分からない。
ただ、
立ち上がる力だけが、
きれいに抜け落ちていた。
コメント
2件
このお話めっちゃ好きです! 続き楽しみにしています😊
なんか気づいたまともな感想1回も言ってない気がする( とりあえず言いたいことはあるけど言葉に言い表せないんだこれが語彙力の無さか( とりま続き全力待機(?