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「けど奏。私たちの結婚式で、豪さんの友人二人から声を掛けられたんだ!」
「うん……まあね……」
『結婚式でブーケを受け取った女性は、次に結婚する』なんて、それは何かの都市伝説なのでは? と思う奏だったが、どうやら都市伝説ではなさそうだ。
結婚式以降、奏が特に意識せず日々を過ごしているうちに、『伝説』は始まっていたのかもしれない。
これまで男を寄せ付けないために、長い黒髪と、眉の少し下で切り揃えた重めの前髪のお陰で、冷たい雰囲気に見えるせいか、異性が奏に近付いてくる事はなかった。
しかし、奈美の結婚式の日に、奏へ声をかけてきた、ある意味強者の男性二人。
谷岡はこのままフェードアウトしそうな感じだが、葉山怜は奏との距離をジワジワと詰めてきている。
しかも奏は、いつしか怜に対し、好意を抱いている事を自覚してしまったのだ。
「もしかして……まだ続きがあったりしちゃう?」
親友が身を乗り出して、意味深に笑いながら奏が話すのを待ち構えている。
(ああ、こうなってしまった以上、もう話さざるを得ないな……)
奏は観念したように、顔を少し引き攣らせながら笑った。
「うん。それからなんだけど……」
奏の話が再開する。
二週間ほど前、谷岡に食事に誘われ、立川のイタリアンレストランで食事をした事。
その際に、彼氏がいるのかどうか聞かれ、いないと答えると、谷岡に『俺にもチャンスはあるって事だよね?』と言われた事。
谷岡と食事をした翌日、ラウンジピアニストとして行った仕事先が、怜の勤務先の創業記念パーティで、彼と再会した事。
その時、怜と元恋人が一緒にいる所を見てしまった事。
そして今日、ここにくる時、立川駅で谷岡が女連れで歩いているのを見かけた事……。
長くなってしまったが、奏は、これまでの出来事を親友夫妻に話した。
怜の元カノが、現在、双子の兄、圭の婚約者だという事は伏せておく。
「あのバカ……」
豪が額に手を当てながら顔を顰め、ソファーの背もたれに踏ん反り返る。
「あのバカ? どっちのバカ?」
奈美が真面目な表情で、意味不明な質問を豪にする。
「谷岡だよ。相変わらずだな、アイツは……」
「相変わらず? 何が相変わらずなの?」
「奈美は知らない方がいいと思うぞ? 一応上司だし、ガッカリするぞ?」
「あ! そう言えばかなり前に、同期の女の子が噂してたよ。谷岡さんを立川駅周辺で何度か見た事あるって。毎回違う女の——」
「な、奈美? い、一応音羽さんの前だからな?」
豪が気を遣い、早口で親友の言葉を制した後、奏に向かって謝った。
「音羽さん、すみません。奈美がこんな……」
「いえ、お気になさらずに。私が二人の事を話したのは、奈美や旦那さんなら何か知っているかもって思ったからなので。大丈夫なので気にしないで下さい」
豪に向けて、奏は穏やかに笑った。
「妻がすみません……。そういえば葉山の会社って、親父さんが社長でしたよね? 確か葉山には双子のアニキがいたような……」
「お兄さんは副社長でした。先日のパーティの時、お兄さんの婚約発表もしてました」
「なるほど。アイツは会社を継がなかったんですね」
「そうみたいですね……」
その後も三人でお茶を飲みつつ、奏が持参したタルトを食べながら、おしゃべりに花を咲かせた。