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「それで……奏はどうしたいの?」
奈美が奏を見つめながら聞いてきた。
アーモンドアイの目尻が少し上がっている。
それは彼女なりの真剣な眼差しだ。
「どうしたいっていうか……正直、どうしていいのか分からないんだよね。私も過去に付き合った事のある人は一人だけで、恋愛経験なんて、ないようなものだし……」
「奏は、谷岡さんと食事に行った。葉山さんとは、私たちの結婚式の後、お茶したんだよね? 一緒にいて楽しかったのは?」
「う〜ん……」
奏は斜め上に視線を向けながら、思考を張り巡らせる。
一緒にいて楽しかったのは、同じ曲が好きで高校時代に吹奏楽部だった、という共通点のある怜だ。
結婚式の後、ラウンジで時間を忘れ、自然体で怜と話せた時の事を奏は思い出す。
でも、この気持ちを親友夫妻に言っていいものか。
なかなか答えを出さない彼女に、奈美が更に問いかけてきた。
「じゃあ、谷岡さんと一緒にいた時と、葉山さんと一緒にいた時、ホッとするというか、この人といると何だか安心するなぁ、って思ったのは?」
「どっち…………かなぁ……」
安心する、とかホッとする、となると、奏はまだ怜に対して安心感は抱けないと思った。
怜に突っ込んだ事を言われると距離を取り、身構えてしまう自分がいる。
先ほどから黙ったまま話を聞き、どちらか迷っているような奏の表情を見た豪が、突然口を挟んだ。
「俺が女だったら、迷わず葉山を選ぶな……」
「ちょっと! 豪さん、私は奏に聞いてるんだからね?」
奈美が嗜めるように豪に言い返すと、彼女の夫は、真剣な表情を向けて奏に答えた。
「さっき、妻が言いかけてたけど、谷岡は確かに女癖が悪い。だけどいいヤツ。矛盾してるけどね。まだ奈美と付き合ってた頃だけど、一時期別れた状態だった事があって、互いの連絡手段が全くなかった時期があったんだ。再び俺と奈美を結びつけてくれたのが谷岡」
(この二人にも、そんな険悪な時期があったなんて知らなかったな……)
意外な話をしてきた豪に、奏も言葉の続きに耳を傾ける。
「葉山は、とにかく好きな女性には一途。高校時代、アイツは吹部に入って彼女ができて、その間、他の女子に告白されたけど、バッサリ振ったんだよな。俺が冗談混じりに『お前、女子にモテたくねぇの?』って聞いたら、アイツ、真顔で『好きな女の子だけにモテなければ意味がない』とか言って。コイツカッコいいなって、俺は男ながらに思ったね」
そういえば、圭の婚約者、園田真理子と怜が二人きりでいた時も、真理子が怜の事をまだ好きだと言った際、彼がキッパリと迷惑だ、と言っていたのを思い出す。
「アイツ、外見がイケメンだし、社会人になってから遊び出すかな、と思ったけど全然だった。彼女は何人かいたみたいだけど、高校時代と変わらず彼女思いで一途だったし、内面もイケメンだから、セフレとかワンナイトとかも一切聞いた事がなかった」
豪が伝えてくれる言葉に、奏の視界が少しずつ歪んでいきそうになるが、ここはグっと堪えた。
「音羽さん。葉山が元カノと一緒にいるのを見たって言ってたけど、葉山の中では、元カノの事はもう既に終わってるはずだよ」
豪の言葉を聞き、奏は『色々教えてくれてありがとうございます』と答えると、今度は奈美が何かを感じたのか、ポツリと呟く。
「何となく奏の様子を見てて思ったんだけどさ…………奏は葉山さんの事、好きになってるよね……」
親友に言い当てられた奏は、無言のまま、辿々しい様子で肯首する事しかできない。
それにしても。
奈美の親身になって話を聞いてくれる姿に、奏は何となく違和感のようなものを抱いていた。
(奈美、何か変わったような。前はもっと大人しくて、シャイな性格だったと思うんだけど……)
ぼんやりと親友の事を考える奏。
奈美が言った事と、奏の様子を見て何かを思いついたのか、夫の豪が悪戯っぽく笑った。