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ruruha
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Lulu
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第5話読了〜!今回は黒電話の付喪神回かぁ😭💕 編集者ハラダさんからの電話に、レンくんを想ってこっそり出てたっていうのがもう健気すぎて胸熱…!『白くて茶色い大きな獣』呼ばわりされてる猫さんも可愛いし、迷惑電話をお経で撃退とかツボすぎて何度も読み返したわ笑 座敷童子と勘違いして煎餅お供えするレンくんも、つまみ食いするネズミも最高のワンシーン✨ あさぎさんの紡ぐ優しい世界、これからも楽しみにしてます〜!⋆♡
この不思議な出来事は、吾輩もレンも部屋に不在だった時に起こった。
まず昨日の昼過ぎ、吾輩はレンに連れられて動物病院に向かった。
安心してほしい、決して怪我や病気などではない。
定期検診という事で年に1回、医者に健康状態をチェックしてもらうのだ。
検査自体は別段なにも問題なく済んだのだが、吾輩とレンが留守の間、この家で奇妙な事が起きていた。
「なんだこれ?誰が書いたんだ?」
帰宅後、最初に異変に気づいたのはレンだ。
不思議そうにメモ帳を見つめ、首を傾げながらもスマホを取り出し、担当編集者のハラダ氏に連絡をとっている。
「⋯はい、はい。え、でもその時間って僕⋯っていうか、誰も家にいなくて。はい、今メモを見つけたんですが⋯。」
祖父殿が亡くなった際、遺品整理とやらでレンは思い出の品をいくつか譲り受けている。
文机や陶器の置物など、どれも年季の入った逸品だ。
その譲り受けた1つに古びた黒電話があるのだが、レンは律儀にその黒電話を愛用している。
いまどき自宅に電話回線を繋げる家も珍しいと思うのだが、レン曰く、黒電話で編集からの電話を受けるのは、文豪らしくてカッコいいそうだ。
このエピソードを聞いてからというもの、ハラダ氏はスマホではなく、黒電話に連絡をするようになった。
なんとも優しい、ハラダ氏らしい気遣いである。
さて今日はその黒電話の横に、拙い字で書かれたメモが残されていた。
『ハラダ様より。締め切りの件、連絡されたし。』
メモに覚えがないレンは、まずハラダ氏に確認の連絡をした。
そしてハラダ氏曰く、昼過ぎに締め切りの件で自宅へ連絡した際、電話を取り応対した人物がいたと言うのだ。
ハラダ氏の証言によると、電話に出た人物はどこか古風で、それでいてひどく幼い印象の声だったという。
『家主は、えっと、ただいま白くて茶色い大きな獣の健康状態を検分しに、お出かけ中でございます。伝言があれば、このモノが承りましょう。いかがか。』
そんな風に、丁寧だが少し舌足らずな調子で応対したのだそうだ。
白くて茶色い大きな獣とは、間違いなく吾輩のことだろう。
獣呼ばわりとは全くもって失礼なヤツだ。
「 留守番ですか?誰にも頼んでないです、って言うか僕友達いませんよ、知ってるでしょう! 」
情けない声を上げながらハラダ氏との通話を終えたレンは、スマホを握りしめたまま、念のためにと家中のあらゆる場所を捜索した。
手狭な四畳半のアパートだ、人が隠れ潜むようなスペースはない。
そもそも盗られるような高価な物もなければ、空巣からターゲットにされる要素もない家だ。
何の異変も見つからぬまま、レンは首を傾げるだけだった。
吾輩はふむ、と一つ息を吐いた。
ここは四畳半の名探偵たる吾輩こそが、一肌脱がねばなるまい。
次にレンは実家に連絡をし、その間に吾輩はするりと開いた窓の僅かな隙間からベランダへ出た。
そしていつものように短く「にゃあ」と喉を鳴らす。
その合図に応じるように、どこからともなく羽音を響かせて、窓辺の物干し竿に一羽の黒い影が舞い降りた。
近所の情報通である、あの賢いカラスである。
「今日の昼過ぎ、この部屋に誰か入るのを見なかったか?」
吾輩が問いかけると、カラスは賢しげな黒い目をパチクリとさせ、首を傾げた。
「いや、人影は見てないぜ、猫の旦那。ただ、ありゃなんて言うんだろうな⋯。」
カラスは見た光景を上手く説明する事が出来ないと言う。
「まぁ心配する必要はないだろう。強盗の類でもなければ幽霊でもない、放っておいても害はないさ。」
カラスはそれだけ言うと、カァと鳴いて飛び去ってしまった。
解決どころか、ますます謎が深まってしまった。
しかし人影はないにせよ、何かが居たのは確実のようだ。
吾輩は部屋に戻り、今度は畳の隅の隙間に向かって、静かに鼻先を近づけた。
「おい、引き出しの住人。何か知っているか。」
しばらく待つと、小さなネズミがひょっこりと顔を出した。
「やぁ猫さん、こんにちは。」
ネズミは何度か耳をパタパタと揺らし、一通り話を聞くとこう答えた。
「黒い電話のあの子の事だね。」
「あの子?」
吾輩が聞き返すと、ネズミは小さな前足で顔をこすりながら頷く。
「うん、あの黒いガチャンと鳴るやつだよ。猫さんも家主さんも気づいていないみたいだけど、あの子、時々そうやって電話に出ているんだ。」
ネズミが言うには、レンがいつも『また怪しい投資の勧誘か』だの『押し売りは結構です』だの言ってる、いわゆる迷惑電話が掛かってくる時、あの黒電話が勝手に応対して勝手に撃退している事があるらしい。
なるほど、カラスの奴が『上手く説明できない』と言っていたのはこのことなのだろう。
「あの子は自分に掛かってきた電話が、電気信号でどこからの電話かわかるんだって。それで、悪い電話がきたら家主さんの邪魔にならないように、あの子がこつそり相手をしてるんだよ。先週なんて面白かったよ〜。」
先週、レンが締め切りに追われていた頃、何度かリンッ⋯と一瞬黒電話が鳴っていた。
レンはヘッドホンで聞こえてないし、吾輩もこれが噂に聞くワンギリか⋯と別段気にもとめていなかったが。
実はその時も黒電話が自ら相手と話して、人知れず迷惑電話からレンを守っていたらしい。
なんでも、しつこい勧誘電話の相手にひたすらお経を聞かせ、怖がらせて撃退していたそうだ。
合点がいった。
吾輩は静かに歩を進め、件の黒電話の前で足を止めた。
この部屋にある文机も、陶器の置物も、そしてこの黒電話も、すべてレンの祖父殿が大切に使っていた遺品である。
レン自身もそれらを宝物のようによく手入れし、毎日愛おしそうに触れていた。
道具というものは、長く大切に扱われ、人から愛着を注がれ続けると、稀に小さな命のようなものを宿すという。
人間はそれを「付喪神」と呼ぶ。
要するに、この黒電話はレンのことが大好きなのだ。
ハラダ氏からの電話のベルが鳴った瞬間、敬愛する主人の孫であるレンのために、少しばかりのお節介を焼いたということか。
吾輩は静かに思考を巡らせた。
(つまり道具が意思を持ち、レンのために動いた。ふむ、それはなかなか面白い光景だ。)
幼い声の正体は、この古い黒電話の、まだ生まれたての幼い魂だったというわけだ。
拙い字で残したメモも、そう考えるとなんと健気な事か。
もしかしたら他の道具、この文机や陶器の置物もいつか動き出す日が来るのかもしれない。
だとしたら、この狭い四畳半にそれはそれは賑やかな時間が流れるのだろう。
それにしてもこの電話、吾輩を白くて茶色い大きな獣とはよく言ったものだ。
吾輩は目の前の棚に飛び乗り、件の黒電話に「にゃぁ」と鳴いてみせた。
(それ見ろ、大きさなど然程変わらんぞ。)
黒電話から返事こそないが、どこか申し訳なさそうにリリッ⋯と音が響いた。
「ねぇ、わかっちゃったよ!これ、やっぱり座敷童子の仕業だ!」
母上殿との通話を終えたレンは、嬉しそうに報告にくる。
「母さんも小さい頃に、おじいちゃんちで不思議な事があったって!きっとおじいちゃんちの座敷童子が、僕の所に遊びにきてるんだよって言ってた!」
無くした物も見つかるし間違いないよ、そう言ってレンは、なぜか黒電話の前に小さな煎餅をお供えして手を合わせた。
「ありがとう、座敷童子さん。仕事頑張るよ。」
座敷童子、当たらずしも遠からず、だろうか。
本人がそれで納得して仕事に戻れるのであれば、これほど平和的な結末もないだろう。
黒電話が嬉しそうに「コトッ」と小さな音を立てた横で、ネズミがこっそりと煎餅をかじりにやって来たのは内緒にしておこう。
レンは意気揚々とパソコンを開き、再び原稿に向き合い始めた。
吾輩はふぁあ、と大きく欠伸をして、日当たりの良い窓辺へと移動する。
昼過ぎの騒動が嘘のように、部屋には穏やかな時間が流れていた。
ハラダ氏からの伝言を届けようとした黒電話の健気さと、それを「座敷童子」と解釈して喜ぶレンの単純さ。
そしてそっと助けるネズミとカラス。
誰が欠けても、この四畳半の日常は守られなかっただろう。
レンはまたいつものように締め切りの重圧と戦い始め、その側で、黒電話は誇らしげに静まり返っている。
もしかすると、また明日、別の迷惑なセールス電話が掛かってきたら、彼は再び幼い声で相手を追い返してくれるのかもしれない。
そうなれば吾輩の仕事が一つ増えることになるが、まあ、それも悪くはない。
この部屋の主であるレンを泣かせないための防波堤が、他にもいるというのは心強いことだ。
吾輩は窓から差し込む陽光に目を細め、ゆっくりと瞼を閉じた。
不思議な道具たちが人知れず主を守り、それを猫である吾輩がそっと見守る。
そんな密やかな共犯関係も、四畳半の暮らしの一部として悪くない。
言葉を介さずとも、道具たちの想いを汲み取り、この狭い部屋の秩序を乱さぬよう調整することくらい、この四畳半の番人たる吾輩の肉球にかかれば、実にたやすいことなのである。
【誰もいない部屋で電話を取るモノ】