数日後の夜、健吾は親友の小川英人と日本料理の店で飲んでいた。
「これ沖縄土産。唯さんと英太に!」
唯は英人の妻で英太は今年4歳になる英人の息子だった。
「ありがとう、二人とも喜ぶよ。それにしても突然石垣島に行ったからびっくりしたよ。どの女と行ったんだ?」
英人はニヤリと笑って聞いた。
「いや、今回はそういうんじゃないんだ」
「そういうのってどういうのだよ。女と行ってたんだろう?」
「うん、まあ……」
「最近お前に熱烈だったあの女か? 確か7月のパーティーの時にお前にずっと付き纏ってた若い女がいたよな。そうだ、優菜だ優菜!」
「そんな女覚えてねぇよ」
「そうかぁ? 結構美人だったけどなー。控えめで清楚な感じだからてっきりお前がお持ち帰りしたかと思ってたよ」
「してねーよ。俺が帰る時追いかけて来たけど少し話してすぐに別れたし。それに控えめな女が追いかけて来るかぁ?」
英人は確かにといった顔をする。
「じゃあ、誰と行ったんだ?」
「___お前覚えているか? 2年前、お前の事務所から見た女の事」
「もちろん。お前が一目惚れしたって女だろう? 確かベンチに座って泣いてたとか」
「そう。その彼女と行って来た」
「ハッ? マジか? 嘘だろう? 名前も住所も知らない女と? えっ? まさか再会したのか?」
「ああ」
「マジかっ! 確かあの時のお前は彼女を探そうと躍起になっていて毎日俺の事務所に押しかけて来たよな? でも見つからなかった。それなのい再会したのか?」
英人は興奮して声を張り上げる。
「俺だってびっくりしたよ。でも間違いなく彼女だったんだ」
「へぇーそんな偶然って本当にあるんだな。運命の出会いっていうやつか! で、彼女はどういう人なんだ? 独身か?」
「うん、独身だ。仕事はフリーランス」
「フリーランスってどんな業種?」
「小説家」
そこで英人はビールを吹き出しそうになってからむせた。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ! えっ? お前今なんて言った?」
「だから、小説家」
「マジかよ、そりゃびっくりだな。なんて名前の小説家?」
「恋愛小説の作家で『水野リサ』だ」
健吾が言い終わらないうちに英人はスマホですぐに検索した。
「超美人じゃないか! えっと年齢は29歳で独身、東京の大学を出た後は会社勤め____で、その後小説家に転身。代表作は映画化で大ヒットした『moon story~真実の愛は新月から始まる~』。ハッ? 俺これ観たぞ」
「マジか?」
「ああ。唯がどうしても観たいって言って英太を実家に預けて二人で観に行った。恋愛映画なんてつまんないだろうと思ってたら俺見終わった後に泣いてたわ!」
英人は苦笑いをしながら言った。そこで思わず健吾も笑う。
「凄いな、有名人じゃないか。ちょっと今度会わせろよ!」
「来週のパーティーには理紗子…あ、本名は理紗子っていうんだけれど彼女を連れて行くよ」
「そうか、じゃあ会えるな! そう言えばお前パーティーに女性同伴とか初めてだろう? 彼女ともうつき合っているのか?」
「いや、まだだ」
「まだ付き合ってないのにどうして連れて来るんだ?」
「それがさぁ…….」
健吾は英人に事の経緯を話し始めた。
理紗子は男性不信気味なので今すぐに恋愛をする気がないという事。
売れっ子作家なので小説の執筆も忙しく恋愛にかまけている時間もなさそうだという事。
そこで思いついたのが『契約恋人』という形。お互いの自由を損ねない適度な距離を保ちつつ恋人を演じる。
そうする事で理紗子には小説のネタになるような経験を提供し、健吾には寄って来る女達を蹴散らす効果がある。
その条件を彼女が飲んでくれたという話をした。
「なんだそれ、なんでそんな回りくどい事を健吾ちゃんはしちゃうのかなぁ」
英人は嘆き悲しむ。
「仕方ないだろう? 彼女に恋愛する気がないんだから」
「いや、そこは健吾ちゃんの腕次第だろう。お前今まで何人の女を速攻で仕留めて来たんだ?」
「いや、今までの女達と理紗子は全く違うんだ。迂闊にそんな事は出来ない」
「そこまで大事に思ってるんだねぇー」
英人はニヤニヤして言った。そして続けた。
「まあ、大体の状況は把握した! 俺も協力出来る事は何でもするから遠慮なく言え!」
「ああ、ありがとう。あとさ、もう一つ厄介な事があってさ、石垣島のホテルで原口さんと一緒になった」
「原口さんて、原口正樹か? へえ、それはすごい偶然だな」
「でさ、今度のパーティーって原口さん来る?」
「ああ来るよ。原口さん、前から健吾に会いたいってずっと言ってたから今回は声をかけておいた。何? 来たらまずいのか?」
「いや実はさ、原口さんは島に白川麗奈っていう女を連れて来ていたんだ。その女がしつこくて参っているんだよ」
「原口と旅行中の女が、お前にちょっかいを出してきたって事? そりゃやべーな。原口さんもプライドズタズタじゃないか。 お前睨まれてんじゃねーの? それにしてもその女もすげーな。えっと、白川麗奈だっけ? その名前なんか聞いたことがあるなぁ……」
英人はしばらく考えた後叫んだ。
「あっ、わかった! 白川不動産のご令嬢か! あーなるほどねー」
「知ってるのか?」
「ああ、その女の事なら聞いた事がある。なんでもイケメンの投資家を見つけてはちょっかいを出しまくりとか。年上だろうが年下だろうが見境ないらしい。彼女は確か年齢が30歳だったかな? で、かなり結婚に焦っているらしい。だから捕まったら大変だと若い投資家達は必死に逃げまくっているってもっぱらの噂だ」
英人はそう言って笑った。
「だから既婚者の原口さんにしか相手にされなかったのか。なるほどね」
健吾はそう言って苦笑いをした。
「沖縄で原口さんが彼女と一緒だったなら、今度のパーティーに彼女を連れて来る可能性は高いな。原口さんはそういう場に絶対奥さんを連れてこないからさ。お前気をつけろよ。麗奈が理紗子ちゃんにちょっかいを出すかもしれないからな」
「俺もそれを心配してる。気をつけるよ」
「それにしても女にうんざりしていたお前がなー、やっと本命を見つけたか」
「うるせえ、既婚者は黙ってろ」
「健吾ちゃん、結婚はいいよぉー! 愛する妻と可愛い息子がいるともう他には何もいらないって思えちゃうからさぁー」
英人が健吾を煽るように言った。
「よく言うよ。超最強の遊び人だったお前が唯さんに出会った途端一気に毒を抜かれて骨抜きにされちゃうんだからなー。俺は今でも信じられないよ」
そこで二人は声を出して笑う。そして男二人の楽しい飲み会は続いた。
英人は久しぶりに健吾に会い少し雰囲気が変わったように感じていた。
どちらかというと今まではクールで冷淡だった健吾が穏やかな表情になり人間味を増したように感じる。
二年前のあの日から健吾の女遊びはぱったりとなくなった。そして突然引っ越した。
引越しと同時にこれまで付き合って来た女達との縁も全て断ち切ったので英人は驚いた。
そんな健吾に英人は言った。素性も居場所もわからない女の事を思っても無意味だと。いつまでも諦めない健吾を見ていいかげん諦めろと何度も言った。
しかし健吾はどこまでもラッキーボーイだった。
(このチャンスを無駄にするなよ)
英人は心の中でそう呟くと酒の追加注文をしようと手を挙げて店員を呼んだ。
コメント
3件
元 最強の遊び人コンビ 英人さん&健吾さんの飲み会、 チョー明るいノリで楽しそう😆✨🍻🎶 英人さんは唯さんと出会い 遊ぶのを止め、今では良き夫で良きパパ....✨ ヨッシャ~✊健吾さんも続け~~!!! 応援してるよ🚩😆🚩📣頑張ってね✊‼️ 英人さん、健吾さんに変な虫が寄り付かないよう フォロー宜しく~😉👍️🎶
やっぱり2人共めっちゃくちゃ遊びまくってたんだねー'`,、(๑¯∇¯๑) '`,、 ハイスペでイケメン✨そりゃーおモテになってよりどりみどりでしょうよ〜😆 そんな英人さんも唯さんと知り合って骨抜きで遊びも止めて… 健吾も似たような感じだよね(⁎˃ᴗ˂⁎)✩ きっと英人さんはわからないくらいの、さらっとした気遣いを理紗子ちゃんと健吾にしてくれそう。 サイコーの健吾&英人コンビだね(''∇^d) ナイス☆!!
英人さんは原口も麗奈も付き纏い優菜も知ってるのね。上2人は言いようのないトラブルメーカーだしとにかく接触させたくないよね🤢🙅 そして優菜は来る可能性ありだよね😫💧それも回避したいよねー🌀 なんとか英人さんと協力して健吾と理沙ちゃんを守ってもらうようにしてほしい🙏🙏 偽造恋人は周りの女を牽制するだけだよね。 理沙ちゃんが嫌な思いをしないように楽しませてしてあげてよね、頼むよ健吾‼️