今日も両親は帰るのが遅い事が確定している俺の家へ、充と二人で帰って来た。彼の家に立ち寄る事なく、直接来たので充は学ラン姿のままだ。
鞄を俺の部屋の入り口近くに置き、充がベッドへ勢いよく座った。手に持ったままの保冷剤を、ぶたれたと思われる頰に当てている。よく見ると鼻には綿が入っていて鼻血も出ていた形跡が。もしかしたら、保健室で処置してもらってから教室へ戻ったのかもしれない。
「痛かったよな…… すまん」
充の隣に寄り添う様に座り、頰を押さえる手に手を重ねる。強く触れると痛いだろうから、そっとだ。
「謝るなよ、これは失言をした俺のミス。これであの子が清一を諦めてくれるなら安いもんさ」
「…… 詳しく説明してくれないか?話の内容が掴めないんだが」
「放課後の一件に関しては話す気は無いよ、コレは彼女と俺の問題だしな」
ニッと笑う顔はとても清々しくって、色々な事が吹っ切れたみたいな感じがする。会っていた子に告白されて、付き合う事になったとか、そういったことも無さそうなので俺も笑顔を返した。
「なぁ清一」
「ん?」
「俺さ、今まで『お前ばっかモテてズルイ。許せん!』って思ってたんだわ」
(うん、知ってる)
直接はどうこう言われることはほぼ無かったが、圭吾達と話しているのを聞いた事は何度もあったからだ。
「でもさ、今改めてよくよく振り返ってみると、イライラしてた相手がお前じゃないんだよねぇ」
(…… じゃあ誰に対してあんなに立腹してたっていうんだ?どう考えたって、彼女なんか欲しくもないのに、呼び出される機会が多い俺相手だとしか思えなかったんだが)
考えてもわからず、俺は軽く首を傾げた。
「堂々と告白出来る女の子達にイライラしてたんだなって今ならわかる。だってほら、結果はどうであれ、『好きだ』って堂々と公言しても誰にも咎められないだろ?数打ちゃ当たるで、もしかしたら清一のお眼鏡に叶う子だっているかもしれんしさ」
「いるわけないだろ!」
「間髪いれずに断言すんのな」
口元に軽く手を当てて、充が笑う。「いてっ」とたまに片目を瞑って痛みを堪えたりもしたが、それでも笑うのをやめなかった。
「ホント馬鹿だよなぁ、何に嫉妬してんのか間違えるとかさ。自分の事は、実は自分が一番わかってないって、マジなんだな。まぁ、彼女欲しいってのは本心だったけど、それも…… その、ぶっちゃけ性欲のせいだったし」
相手に失礼な話だという自覚があるのか、充の声が段々声が小さくなっていく。
「…… えっと、つまり、充は…… 何が言いたいんだ?」
眉間にシワを寄せ、充の顔を見上げる。頰に触れていた手は彼の膝に置き、無意識に力が入っているのか学ランのズボンがクシャッとなった。
「清一ってさ、俺の事好きだったのな。俺達、あんな事散々してるクセに、全然気が付かんかったわ」
「——…… は?」
俺の額に額をつけ、充が穏やかに微笑んだ。
今まで微塵も気が付く気配なんか無かったのに、何故いきなりバレたのか思い付かない。さっきの写真か?スマホに入っている大量の寝顔や着替えの隠し撮りの写真が、やっぱりマズかったんだろうか。
「何であんなに求めてくんのかわからんかったけどさ、好きなんだなってわかったら、全部納得出来たよ。どおりで至極丁寧に、そりゃもうしつこい訳だ」
恥ずかしいやら居た堪れないわで顔が赤くなる。口元はワナワナと震え、充の膝に置く手に、より力が入った。
「正直気分いいよ。だってさ、誰かが遊び半分の企画でやった“彼氏にしたい男ラインキング”上位のお前が、よりにもよってこんな冴えない俺相手に、しかも男だってんのに惚れ込んでくれてるなんてさ。俺の何がいいのか、サッパリわかんねぇけどな!」
「充は、俺が気持ち悪く…… 無いのか?」
「気持ち悪かったら、自慰なんか一緒に出来んだろ」
(…… 充にとってアレは自慰の延長扱いだったのか。まぁ、うん。最後まではしていないから否定はしないが)
「清一の事は、かっこいいと思うよ。んでも可愛いとも思う。ワガママだけど健気だし、家事も出来てさ、惚れない要素無いんだよねぇ、よくよく考えると。まぁ、お前も男だって点は、俺の中ではかなり痛いけど」
(カッコイイ?可愛い?……惚れ——え?)
充の言葉が頭にきちんと入ってこない。俺にとって都合のいい言葉しか並んでいない気がするが、そんな筈がないだろ。充は『彼女が欲しい』と何度も公言していたじゃないか。俺の気持ちなど嘲弄し、『もう近づくな』と言われたのならばすぐにでも納得出来るのに。
「…… あれ。もしかして俺、何か勘違いしてる?」
呆然とする俺の目を充が至近距離から覗き込んでくる。艶やかな唇が半開きになっていて、ほんの少しだけ距離を詰めるだけで深く奪ってしまえそうだ。
勘違いじゃないと否定したいが、充の真意がわからず、言うのが怖い。
(同じ気持ちなのだと思いたいが、もし違ったら?)
と、どうしても考えてしまう。体を震わせ、瞼を閉じる。拒絶されたら生きていけない。でも、諦める事も出来ない。人生の始まりからずっと好きで、拗らせ過ぎてもうどこが好きだとかも語れないレベルだっていうのに、失敗なんかしたくない。愛情を隠し通せば隣に居られる。そう言い聞かせ、必要とされる努力はしてきたつもりだ。だが、思いが届く事など、夢想はすれども想定していなかったから、素直に言葉が出てこなかった。
「あの子の勘違いでも、もういいや。キッカケだって思うことにしないとだな、うん」
充がボソッと呟き、息を吐き出した。
「清一が好きなんだって言ったら、引く?」
「ひ、引かない!」
聞き間違いだっていい。都合のいい幻聴かもしれない。行動はもう反射だった。考える間もなく、俺は充の腰にギュッと抱きつき、必至に縋りついた。
「くるし——」
ぎゃーと叫ばん勢いで、充が俺の背中を叩いてくる。筋肉に守られた背に充の拳はサッパリ通らず、全然痛くない。
「離したくない、傍に居たい、ここから出したくもない…… 」
充の薄い腹に頭を擦り付け、聞き取り難いだろうことをいいことに、本心をぶちまけた。
「いや、そりゃ無理だろ。ダメ、監禁」
普段なら全然俺の呟きなんか拾ってもくれないクセに、こんな時だけはバッチリ聞こえたみたいで腹立たしい。
「でもまぁ、両想いって思っていいのかな?俺は」
(両・想・い!)
な、なんて魅惑的で、俺には縁遠い言葉なんだろうか。響きだけで頭がクラッとし、抱きつく体から力が抜けた。
「んあ!ちょっ」
俺の顔が見事に充の股間にずり下がり、充から焦り声が聞こえた。
(両想い…… 好き…… 充が、俺を…… うわぁぁぁぁぁっ)
頭ん中で繰り返し繰り返し、言葉を反芻する。嬉し過ぎて頭を振ると、柔かった充のモノがグッと硬さをもった。
「か、顔上げろって…… きよか、ず!」
充が俺の頭を掴み、押してくる。だけど、こんな状態のモノが目の前にあって素直に聞ける心境でなどあろう筈がない。だって、両想いなんだぞ?ってことはもう、自制なんか全く必要が無いんだ!
些細な刺激で勃起する充の股間に頰を擦り付け、深呼吸する。
「やぁぁぁめぇぇろぉぉっ!はずっ!キモイ!」
叫びはすれども、充の両脚から力が抜けて、開脚していく。快楽に弱い事は充分過ぎる程知ってはいたが、それでも素直に嬉しかった。
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