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短編集「夢」

6 - 第6話 とある発明家のドリームフォンとホログラム少女④

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2025年06月06日

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~ 一日後~


 俺はアカリが住んでいるアパートの前に来ていた。片方だけになってしまったドリームフォンを入れたカバンを持って。 


今から10日後にこのアパートにドリームフォンが届くはず。アカリが刺される前に助け出さなければ。

実はドリームフォンには研究のために通話を記録する機能が備わっている。通話機能は壊れてしまって使えないが、通話記録をホログラム付きで見ることができるのだ。まずはこれをアカリに見せて信じてもらわなければ。

そう思いながらアカリの部屋に向かおうとしたとき、急に頭に痛みと衝撃を感じた。そして気づいた時には地面に倒れていた。後ろから棒で叩かれたらしい。俺はそのまま気を失ってしまった。



 俺は気がつくと縄で手足を縛られ、アパートの一室のような場所で拘束されていた。部屋は荒れており、周りにはゴミが散らかっている。

そして目の前にはアカリを刺した覆面が刃物を持って立っている。覆面は俺に対してこう言った。

「俺は今からお前を殺す。何か言い残すことは?」

前回はボイスチェンジャーによって分からなかったが、今回は素の声だった。聞き覚えのある声だ。

「君、京太くんだろ。何でこんなことをするんだ!」

俺がこう言うと、彼は覆面を脱いだ。パーマがかかった金髪の頭に、耳にはハート型のピアス。間違いなく京太だ。京太は驚いた様子でこう言った。

「わけがわからねぇ。何で俺の名前を知ってんだ?」

俺がもう少し周りを見渡すと、部屋の隅に俺のカバン、そしてドリームフォンが置いてある。

だが、俺が持って来たドリームフォンじゃない。そこにあるドリームフォンは俺のやつよりデカく、形もしっかりしている。まるでドリームフォンの完成品のような。

俺は仮説を立てた。そして頭を抱えている京太に向かってこう尋ねる。

「あそこにある装置は未来から送られて来たものだろう?おそらく未来の俺から。」

京太はこう返す。

「あんた現代の新妻聡か?あぁそうだよ!未来のあんたから送られて来たんだ。」

京太はこう続ける。

「34年後の新妻聡って名乗るおっさんからアカリのアパートの前にいる男を殺したら一千万円送ってやるって言われたんだよ。あんたの顔写真をホログラムで見せられてな。俺は借金があるから金が欲しいんだ!」

おそらく次は三週間後のアカリを殺せと命令されるのだろう。なぜ未来の俺がこのようなことをしているのかは分からないが、ようするに未来の俺を止めなければこの一件は解決しないということだ。そのためにはまず京太を説得しなければ。

「京太くん!お金のために人殺しをするなんて。どうかしてるし間違っている!そのうち警察に捕まるぞ!」

俺の訴えに対して京太は座り込み、こう叫んだ。

「そんなこと分かってるよ!でもきっと、俺みたいな駄目なやつはこうでもしないと生きていけないんだ!」

彼なりに大変な人生を送って来たのだろう。だが彼がしようとしていることが許されるわけがない。俺は京太を諭す。

「未来の俺は君を騙しているんだ。お金なんてきっと送られてこないさ。それに仮に送られて来たとしても、こんなことをして得たお金で幸せになんてなれないよ。今回が初めてなのだろう?今解放してくれるなら警察に行かないと約束するから、こんな馬鹿げたことはやめるんだ。」

俺がこう言うと京太は「許してくれ」と言い泣き始めた。もし本気で俺を殺そうと考えていたのであれば、俺が気を失っていたときに何とでもできたはず。彼にも抵抗があったのだろう。

アカリを殺す前、今の段階では。

 

 

~数時間後~

 俺は解放され、再びアカリが住むアパートの前にいる。京太の部屋にあった未来から来たドリームフォンを見てみたが、すでに壊れて機能していなかった。しかし何かに使えるかもしれないので持って帰ってきた。


俺はアカリの部屋のインターフォンを鳴らした。

 “ピンポーン”

 俺がインターフォンを鳴らすと中からアカリの声が聞こえた。

「はい。えっと、どちら様ですか。」

インターフォンにつけられているカメラでこちらの様子が見えるらしい。当然ながら今のアカリは俺のことを知らない。俺はこう返した。

「不審がられるのは分かっている。だが、どうしても君に伝えたいことがあるんだ。だからどうか、部屋に入れてくれないか?」

しばらくしてアカリはこう返答した。

「なんか大変そうですし。分かりました。どうぞ。」

“ガチャ”

遠隔操作で玄関の鍵が開いた。アカリの部屋に入るのはこれが初めてだ。 

リビングに繋がるドアを開けると、勉強机の前に座っているアカリがいた。これまでドリームフォンを通じてでしか話したことがなかったので、いざアカリを目の前にすると何だか緊張する。

気まずい空気が流れる中。アカリがこう言った。 

「その、私に伝えたいことって。」

俺は壊れたドリームフォンをアカリに見せながらこう言った。

「俺が説明するより、これを見てもらった方が信じてもらえるはずだ。」

俺がドリームフォンを起動させ通話記録を再生させると、俺の姿とアカリの姿が浮かび上がり、二人で勉強して居る様子が映し出された。

アカリは驚いた様子で俺にこう聞いた。

「これはいったい。まさか、京太くんが言ってたのって。」

俺が京太の部屋から出る際、京太はこう言っていた。

「未来のあんたが言ったんだ。アカリに変な装置が送られて来て現在の西暦を聞かれたら、2027年って答えるように伝えておけって。」

これでアカリが俺に嘘の西暦を伝えた謎は解けた。だが何故、未来の俺はここまでして俺の研究を邪魔しようとしているのだろう。大切な存在であったはずのアカリを殺してまで。何故だ?

だがこのことを考えるのは先だ。まずはアカリに説明しなくては。


 一通り俺のこれまでの話を聞いたアカリはひどくショックを受けていた。無理はない。回避されたであろう未来とはいえ、京太に殺されたのだから。アカリはこう言った。

「でもまだ私が殺されないって決まったわけじゃないですよね。それに、未来の聡さんは別の方法を取ってあなたを邪魔しようとするんじゃないですか?」

アカリの言う通りである。未来の俺自身を止めなければ解決しない。そのためには未来の俺と直接話す必要があるが、現段階のドリームフォンでは34年後までは送れないし、未来から来たドリームフォンも修理して直りそうな様子ではない。 

手段はただ一つ。これからすぐにドリームフォンの完成品を完成させること。そして俺はアカリに提案した。 


「無理なお願いなのは分かっている。だが俺は君に未来の俺を説得してほしい。力を貸してくれないか。君自身を死なさないためにも、どうかお願いだ!」


アカリはこう答えた。


「分かりました。こんなの見せられたらどうせ勉強どころじゃなくなって集中できませんし。でも、約束してくださいね。この一件が片付いたら、私の受験勉強手伝うって。」


俺は、未来の俺を、アカリと一緒に止めると決意した。


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