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~8日後~
あれから俺はアカリの部屋を使わせてもらい、ほとんど不眠不休で研究した。
幸い参考となる未来のドリームフォンがあったが、部品に見たことがないものが使われていたり、どう考えても理解できない構造があったりと、完全再現をすることは不可能だった。30年後のものなのだから当たり前だ。
それでも、これまでの研究で得た経験や知識の全てをこの数日間に注ぎ込んだ。入手できない部品は他の似た素質を持つ素材で代用し、理解できない構造も必死に理解しようとした。
そして研究にはアカリが助手としてついてくれた。俺にはない知識をアカリが持っていたこともあった。それに、ずっと一人で研究していた俺にとって、アカリの存在はとても心強く感じた。
そして出来上がったのが[ドリームフォン]完成品(仮)である。そして今日、このドリームフォンを34年後の俺に向かって飛ばす。
未来のドリームフォンを解析したので未来の俺のいる座標は分かっている。俺はアカリと共に未来へ送る方のドリームフォンのスイッチを押した。
“ビービービービー”
煙を上げながら、未来に送るドリームフォンから負荷のかかりすぎを表すブザーが鳴り始めた。時空が歪み始めているのか、部屋には風がまるで竜巻のように吹いている。
心配そうにドリームフォンを眺めている俺の手をアカリは握ってくれた。そして俺にこう言った。
「きっと大丈夫です。二人で未来の聡さんにガツンと言ってあげましょう。」
俺はドリームフォンに向かって叫ぶ。
「おい!ドリームフォン!未来の俺なんかに、負けるはずがないだろう。お前は俺の夢なんだ。俺の夢を!叶えてくれ!」
“ビビィッッッー!”
風は止み、こちら側のドリームフォンから転送完了を表すブザーが鳴った。気づけば未来へ送るドリームフォンは消えていた。これだよこれ!俺が求めていた演出だ!
そしてホログラムが作動し、未来の俺(62)の姿が映し出された。
未来の俺はひどくやつれていた。そしてこう言った。
「京太がしくじったみたいだな。やはり過去を変えるのは簡単じゃないようだ。」
俺はできるだけ未来の俺に対する怒りを抑えながらこう言った。
「初めましてだな。未来の俺。まるで不幸を溜め込んだような顔をしてるじゃないか。」
俺はこう続ける。
「何でこんなことをしたんだ。ドリームフォンを作ることは俺の夢だったはずだろう?!」
俺の問いに対し未来の俺はこう言った。
「あぁ、夢だったさ。ドリームフォンが世界を壊すと気付かされる前まではね。ドリームフォンの開発に成功した俺は調子に乗って大量生産を行なった。その結果様々な問題が起こり始めたのさ。」
未来の俺はこう続ける。
「歴史の改変に始まり、死人が減り人口の増加による食糧不足、食糧不足による戦争と、挙げだしたらキリがないよ。初めは大量生産をしようとする俺を止めようとしたが、俺自身を止めれたとしても他のドリームフォンの情報を持っている奴らが大量生産を始めるから上手くいかない。だからドリームフォン自体の開発を取り消そうと考えたんだ。俺自身を殺してでもな。」
ドリームフォンが世界を壊す未来を聞き呆気に取られていると、アカリが未来の俺にこう言った。
「だからって聡さんや私を殺そうとするのは絶対に間違ってる。他にも方法があるかもしれないのに、京太くんを使って、あなたは手を汚さずに安全なところで過去が変わるのを待っていればいいだけ。きっとホログラムの私が好きだったのは、そんなことをしようとする聡さんじゃない!」
アカリの叫びを聞き、未来の俺はこう返した。
「はは、アカリにそんなことを言われると流石に堪えるな。実は君と俺は結婚したんだよ。だが君はドリームフォンの開発者として日に日に病んでいく俺の姿を見て悲観し、5年前に俺の前から姿を消したんだ。今も俺の隣にアカリがいてくれたら、こんな荒いことをすることも無かったのかもな。」
未来の俺の発言に対し、俺は怒りが溢れだしこう叫んだ。
「アカリのせいにするんじゃねぇ!悪いのはお前自身だろうが!全部お前が悪いんだよ!」
怒りを吐き出した俺は冷静になり、こう続けた。
「すまない。未来の俺も大変だったよな。俺の夢が世界を壊してしまうなんて、辛かったよな。だから俺を殺して解決するんだったらそれでいいよ。その代わり、頼むからアカリだけには何もしないでくれ。彼女は俺と違って立派な夢を叶えようとしてるんだ。」
俺の言葉に対しアカリがこう言った。
「聡さんの夢だって立派ですよ!確かにそれは世界を壊してしまうものなのかもしれない。でも夢を追ってる聡さんは私には輝いて見えます。きっとホログラムで見た私だって、あなたの存在が大切だったはず。だから殺されてもいいなんて言わないで!」
俺たちのやりとりを聞き、未来の俺はこう言った。
「分かったよ。もう君たちに手は出さない。だが過去の俺よ、約束してくれ。ドリームフォンの代わりになる夢、生きる意味を見つけるのだ。未来の俺をどうか助けてほしい。俺とは違って、アカリを悲しませる男にはなるなよ。」
そして未来の俺は笑みを浮かべながら倒れてしまった。もう身体も精神も限界だったのだろう。俺は動かなくなった未来の俺に対し、こう誓った。
「あぁ、必ず未来の俺を幸せにして見せるよ。アカリのことも任せてくれ。」
しばらくするとドリームフォンは煙を上げ始め、機能が停止した。
~1年後~
あのあと俺は約束通りアカリにつきっきりで勉強を教えた。そしてアカリは無事志望大学に合格することができ、優秀な医者になろうと努力を続けている。
京太も改心して、就職活動に励んでいるそうだ。きっと彼なら頑張れると俺は信じている。
そして俺自身はというと、これまでの研究で培った知識を活かしてとある会社に就職した。そしてその会社で仲間たちと一緒に世界を良くするための研究を行なっている。
現在、俺とアカリは同棲している。将来、未来の俺が言っていたように結婚するかは分からないが、どのような形になってもアカリのことを支え続けると決意している。
そろそろ車で、出社がてらアカリを大学に送る時間だ。
「アカリ!そろそろ出るぞ!支度は済んだか?」
俺が玄関でアカリを呼ぶと、朝食のパンを咥えたままアカリが部屋から飛び出してきた。
「早いよ聡さん!まだ頭が起きてないのに!」
アカリの夢を支えること。それが俺の新しい夢だ。玄関に置いてある2台のドリームフォンが、日に照らされ眩しく光っていた。