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雨が本格的に降ってきた。

シャンディの頬を伝うのは涙なのか、雨の滴なのか。


「それなら、俺が行く」

思わず、言葉が口から飛び出した


シャンディが唖然としたかと思うと、顔をくしゃくしゃにして笑った。


「なに、馬鹿なことを言っているんですか?」

「俺は本気だよ」


シャンディを真っ直ぐに見たいのに前髪が邪魔だ。


「失恋して辺境の地に捨て身で来る人が時々いるんですが…ええ、クリスならいつでも大歓迎よ」


泣き笑いというものを初めて見た。

シャンディは泣きながら笑っている。


「ボートで遊べる場所も植物園もないけど、大きな共同墓地はあるわ。そこでいっぱいお話しをしましょう。ガゼボがないのでそれはクリスが来るまでに作っておきます。次はどんな作戦を立てますか?」


笑顔でボロボロと泣くシャンディ。

お願いだから、お願いだから。

もう泣くな。




長い前髪と眼鏡でそのお顔の全貌をよく知らないけど、でもわたしは知っている。


クリス殿下はとても気遣いの人で人が気づかないほどのさりげない優しさで人を包み込むことを。

いつも前向きで自分のことよりも人の幸せを真っ先に考えることができる根っから王族気質であることも。

周りを冷静によく見ていて、どれが最善かをすぐに判断出来ることも。


そしていつもわたしを温かく見守っていてくれたこと。

優しく包み込んでいてくれたこと。

とても感謝している。


今ごろ気づくなんてね。

わたしはペイトン様ではなくて、クリス殿下のことをこの2ヶ月間、ずっと見ていたのね。


もう時間。

クリス、いろいろありがとう。

あなたと知り合えて良かった。

「初恋」も「終わった恋」もいま知った。



「お嬢様、用意は出来ましたか?」

「もう出来てるわ。やっと帰れるわね」


わたしは王都に3ヶ月の滞在だった予定を少し早めて、今日領地に帰る。


キール様にいままでのお礼とこれからのおふたりのご健勝とご多幸を祈っていると手紙にしたためた。



それからしばらくして、辺境伯令嬢が病で倒れ、婚約解消をしたという噂が流れた。




シャンディが領地に帰ってすぐだった。関係の良くない、いつ戦争が起こってもおかしくない隣国マッキノンから王女を留学させたいと打診があり、王宮に激震が走った。

その意味をわからない王族はいない。

要するに人質交換だ。


「陛下、お話しがあります」


自ら、父にお願いすることは今までにない。


第3殿下という立場は何も主張することなく、目立たずに生きるのが良策だといままでは信じていたから。


下手に能力を誇示し、自分の意見を主張すれば、国政を混乱に陥しかねない。

ずっと前髪を長いままにし、その表情さえも読み取れないようにしていたのは「何を考えているかわからない、使えないやつ」を演出するため。


そして私は初めて「能動的」に行動をした。

彼女の言葉が耳に残っていたからだ。


俺は今ごろになって、シャンディへの気持ちに気づいた。

あの時、初めて「激情」というものが込み上げたからだ。

それはシャンディが自分の感情を押し殺して政略結婚を受け入れる発言をしたから。

シャンディのその発言をどうしても受け入れられなかった。

その発言を聞いた自分の感情を抑えられなかった。


私が見てきたシャンディは眩しい。

チーズケーキに向かって元気に歩いたり、ケラケラとお腹を抱えて笑う表情豊かなシャンディ。

抱きしめる練習をした時、シャンディの柔らかさや自分の腕にすっぽり入る小ささ、温もりを知った。

反面、努力を怠らない、本人は自覚していないが自分に厳しい彼女。

市井の人と堂々と議論を交わせる芯のしっかりた面も持ち合わせる。


そして、あの初めて会った夜。

アドニスとペイトン殿の関係を目の当たりにして、打ちひしがれる私の前に突然現れた彼女。


「月が雲隠れしましたね」


そう言って、微笑んだ彼女は黄色の髪が月の光を纏ったようで、月の女神が舞い降りてきたかと思った。


一目惚れだったのか?

だからあんな「共同戦線」の提案を無意識のうちにしたのか?


俺の前で泣き笑いをするシャンディ。

初めて女性を私の腕の中に閉じ込めて、慰めたいと思った。

シャンディの涙を拭ってあげたかった。


シャンディにしてあげれることはただ一つ。

きみがずっと平和に笑っていられるなら。

強く思ったんだ。


次に出会うことがあれば貴女に幸せを。

直接、シャンディの笑顔をみていたい。

出会うのが遅かったんだ。



もうすぐ学園の卒業式。

それが終われば、人質として隣国マッキノンに留学に行く。

「留学」は何年かかるか、わからない。


アドニスとは「留学に行く」ということで円満な婚約解消に至った。

辺境伯令嬢、殿下とお互いの婚約者の愛を掴もうと奮闘しましたが、どうやら拗らせたようです

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