テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
偶然、山の日に立川駅の交差点で遭遇した時、豪とあの女性は、とても仲睦まじい様子に見えた。
だけど、ニュースでは翌日の十二日、女の人は男性社員、恐らく豪への誹謗中傷を、向陽商会のサイトに書き込み、昨日逮捕された。
(という事は、豪さんと彼女らしき人は、会っている時に揉めていたって事? 何を揉めていたのだろう?)
あの時、豪たちと遭遇する直前、彼と奈美は、一応恋人同士だった。
豪が女性と一緒にいるのを見て、奈美が一方的にさよならのメッセージを送り、彼のメッセージアプリのIDを消去し、あのSNSも退会して……。
まさかとは思うけど……もしかして……いや、そんな事があるはずはない。
(自惚れているかしれないけど……二人が揉めた原因は……私? こんな事を思うのは、彼が私を好きだって言ってくれたから? それとも私が彼を大好きだから?)
冷静になり、よく考えてみると、奈美は壮大な勘違いをして、とんでもない事を、豪にしてしまったのかもしれない。
それはきっと、出会ったきっかけがあのエロ系SNSで、彼女の心の根底には『口で言ってても、いかがわしい出会いをしたから、最終的には身体目当てなのだろう』という思いがあったのかもしれない。
結局、奈美は彼の言う事を、全然信じていなかったのだ。
豪に会いたい。
早とちりして勘違いして、彼を傷つけてしまった事を、きちんと謝りたい。
けど、豪も忙しいだろう。
(やっぱり私は……豪さんが……好き。大好きなんだ……)
こちらから電話したいけど、あのニュースを知ったからには、待った方が無難に思えた。
***
嫌でも、時間は刻一刻と流れていく。
ニュースを知った翌日から、奈美は淡々と仕事を熟し、余計な事を考えないようにした。
谷岡から豪のメモを頂いて以来、昼休みなど雑談する機会が、増えてきたような気がする。
正午を告げるチャイムが鳴り、作業場を後にしようとした時、谷岡から話し掛けられた。
「高村さん、体調悪そうだけど大丈夫?」
「大丈夫です。多分夏バテかもしれないので、食べられる時は、ちゃんと食べるようにします」
彼女は何とか笑顔を作り、上司に向けると、谷岡は何かを言いたげに口を開きかけ、すぐに引き閉じた。
「とにかく、あまり無理しないようにね」
「はい。ありがとうございます」
奈美は一礼した後、作業場を後にする。
午後になってからも、彼女は定時まで黙々と仕事をした。