優羽は慌てて岳大と流星の後を追った。
その時、建物の出口付近で優羽はすれ違う人と激しくぶつかってしまった。
咄嗟に、
「すみません」
と謝りその相手を見上げる。
その瞬間優羽の顔は一瞬にして凍りついた。
ぶつかった相手の男性も、
「すみません」
と言って優羽の顔を見た。
するとその男性も一瞬にして青ざめた表情へと変わった。
二人は無言で見つめ合う。
まるで時が止まってしまったかのようにしばらく動けずにいた。
その時駐車場の方から女の子の声が響いた。
「パパ―っ! はやくしないと閉まっちゃうよ!」
声と共に流星よりも少し年上と思われる女児が走って来た。
その後ろからは、母親と思われる女性が穏やかな笑みを浮かべて近づいて来る。
それに気づいた優羽はそのまま無言でお辞儀をすると、
岳大達が向かったソフトクリームコーナーへ足早に向かった。
優羽とぶつかった男性は、そのまま優羽の後ろ姿をじっと見つめていた。
そんな夫の様子を不思議に思った妻が言った。
「どうしたの? 早くしないと閉まっちゃうわよ」
「あ、うん。そうだね。行こうか」
男性は妻の言葉で我に返ると、娘と共に三人で建物の中へ入って行った。
今の出来事を岳大は全て見ていた。
男性とぶつかってからの優羽の様子が変である事にも気づいている。
なぜなら優羽の顔は顔面蒼白だったからだ。
二人の間に何かある……岳大の鋭い勘がそう知らせていた。
優羽が二人に追いつくと岳大は流星に聞こえないように言った。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いみたいだけれど」
「あ、え、ええ、大丈夫です」
岳大はそれ以上追求はしなかった。
そして三人分のソフトクリームを買うと、売店の前にある椅子に流星を座らせる。
そして岳大と優羽も椅子に座った。
流星は早速ソフトクリームを食べ始めた。ニコニコと嬉しそうに食べている。
優羽はまだ少し青ざめた表情をしていたが、流星の可愛らしい様子を見て徐々にその表情が柔らかくなった。
その時流星がポツリと言う。
「しぜんのなかでたべるアイスはおいしいねぇ」
その大人びた口調に思わず岳大が声を出して笑う。
優羽も釣られてフフフと笑った。
「流星君は、たまに大人びた事を言うよね」
「なんか大人の口癖を真似する時期みたいで……」
優羽はそう言うと流星の事を愛おしそうに見つめる。
すると流星はキョトンとしてから二人の顔を交互に見比べた。
そんな愛らしい流星のおかげで、緊張した空気が一気に和んだ。
優羽と岳大がソフトクリームを食べ終わると、流星はまだ一生懸命食べ続けている。
あと少しで食べ終わるという頃、先程の三人家族が建物から出て来た。
優羽はその家族に背中を向けていたので、三人が出て来た事には気づいていない。
岳大が優羽の身体越しにその家族を観察していると、男性はじっと優羽を見つめていた。
そして視線を優羽から流星へ移す。その瞬間男性の顔は一気に思いつめたような表情へと変わった。
そんな男性には全く気付かずに、優羽は流星の口の周りをティッシュで拭いてやっている。
二人を真剣な眼差しで見つめていた男性は、その後岳大へと視線を移した。
その時二人の視線が衝突する。
岳大が視線を逸らさずにじっと相手の目を見つめていると、男性はバツの悪そうな顔をして視線を逸らせた。
それから家族と共に車に乗り込み道の駅を後にした。
その時ちょうど夕暮れ時の空が一面ピンク色の染まり始めた。
流星がソフトクリームを全部食べ終わると、三人は道の駅を後にして山荘へ戻った。
宿へ戻ると、既に宿泊客の食事の準備が出来ていたので、優羽は岳大にお礼を言ってフロントで別れた。
優羽は自室に流星を連れて行くと、すぐに食堂で配膳の手伝いを始めた。
食堂では岳大の仕事仲間が既に席に着いていた。
遅れて来た岳大が席に着くと、どこへ行っていたんだと仲間に聞かれているのが耳に入る。
その問いに岳大は笑いながらすみませんと答えていた。
食堂の仕事が終わった後、優羽は流星を風呂に入れて寝かしつけ、その後フロントで事務作業の残りを続けていた。
途中何本か予約の電話が入り山荘の夏の空き室を埋めていく。
その日の仕事を全て終えて優羽が部屋へ戻ろうとした時、誰かがフロントへ近づいて来た。
それは岳大の仕事仲間の朝倉亜由美だった。
「こんな時間までお仕事? お子さんを抱えて大変ですね」
朝倉は唐突にそう言った。朝倉は優羽に子供がいる事を知っているようだった。
「いえ…」
なんと答えていいかわからなかった優羽は言葉を濁す。
すると再び朝倉が言った。
「佐伯さんはこれから大事な撮影があるんです。だからあまり気安く関わらないでいただけませんか?」
朝倉は優羽の目を睨むように見つめて言った。
かなり怒っているようだ。
「申し訳ありません。今後は気をつけます」
優羽はそう言って頭を深く下げる。
すると朝倉は、
「彼は有名な写真家なのよ。私達にとっても大切な仕事のパートナーなんです。これから彼は泊まり込みで山にこもって撮影を
する予定なの。だから彼の仕事の邪魔になるような事はしないで下さい」
「本当に申し訳ありません」
優羽は他になんと言っていいのかわからず、謝って再び頭を下げた。
すると朝倉は満足したのか、くるりと踵を返すと自分の部屋へと戻って行った。
そんな二人の様子を、ウッドデッキから戻って来たアシスタントの井上が見ていた。
優羽は朝倉がいなくなるとホッと息を吐いてから、山荘の出口から外へ出る。
先日ここで岳大と満天の星空を観たのに、今夜は一面雲に覆われている。
夕方道の駅で見た美しい夕焼けは、これから天気が下り坂であるという事を知らせていた。
だから明日は雨かもしれない。
そんな事を思いながら、優羽は駐車場の端にあるベンチへ向かう。
そして今日道の駅で遭遇した出来事を思い返した。
コメント
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朝倉貴女のやってる事見てる人は見てるのよ😠😠😠
流星くんの父親…💢 岳大さんが居てくれて良かった😭 らびぽろチャン😂 「朝倉ーっ」🤣ナースのお仕事の朝倉は かわいいけど、 こっちの朝倉はクソ💢 ↓↓ホンマ、井上くん‼️‼️‼️見たこと岳大さんに伝えてー😱💦💦💦
流星くんより少し大きい女の子って… ひょっとしてそのぶつかった男は、はぁ〜っ💢そういう事ですか⁉️騙してたとか⁉️ それだけでも腹立つのに朝倉ーっ👊(ナースのお仕事を思い出しちゃった🤣)なんなのよーっ💢 井上さん、全て見てた事聞いてた事を岳大さんに漏れなく報告‼️頼みますよっ‼️ 邪魔なのは朝倉ーっあなたです😤