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水面に落ちた星屑

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水面に落ちた星屑

第22話 - 第22話

139

2024年07月03日

#恋愛

#大人の恋愛

#大人ロマンス

#第3回テノコン

#ハッピーエンド

#純愛

瑠璃マリコ

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139

瑠璃マリコ

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夕方道の駅でぶつかった男性は優羽が東京で付き合っていた人だった。

優羽は上京後アパレル会社に就職し、新宿のデパートで働き始めてすぐにあの男性と知り合う。

彼の名は西村隆、38歳。優羽が働くアパレル会社の本社の社員で、優羽が働く店舗へよく顔を出していた。

優羽が彼と知り合った時、西村は自分はバツイチだと言っていた。

しかしそれは嘘だったと後で知る。

西村は婦人服の会社に勤めているだけあって、女性の扱いに慣れていた。

ソフトな印象でとても気が利く優しい男性だった。

長野から上京してすぐに働き始めた優羽は、恋愛などする余裕は全くなかった。

夢へ向かってお金と貯める為に、仕事に打ち込みながら家とデパートをただ往復するだけの毎日だった。

ショップ店員の同僚達は、やれ合コンだのやれ旅行だのと今時の若者らしくしょっちゅう遊んでいた。

優羽も時々誘われる事があったが、一切そういう付き合いには顔を出さなかった。

仕事を終えるとすぐ家に帰り、独学でファッションやメイクの勉強をしていた。

本社から来た西村達との飲み会にもほとんど顔を出さない優羽に対し、西村は少しずつ興味を持ち始める。

そしてある日デパートの社員食堂で西村が優羽の前に座った。

その時優羽は、洗練されてモテそうな西村の事をずっと苦手なタイプだと思っていたが、

話してみると意外と素朴な人だという印象を持った。

そして西村が優羽の故郷の隣町の出身であると知り、一気に親近感が湧く。

二人はそこから徐々に関係を深めて行った。

西村との付き合いは一年半ほど続いた。優羽が妊娠に気づいたのはその頃だ。

西村はいずれ優羽と結婚したいと言っていたので、優羽もそれを信じて疑わなかった。

しかし優羽が妊娠を告げた途端、彼は優羽の元を去って行った。

その理由は妻と寄りを戻すという事だった。

西村は妻との間に女児が一人いて、その子の為にも寄りを戻すことを選んだと優羽に告げる。

西村の言葉を聞き途方に暮れた優羽は、悩みに悩んだ末子供を産む決意をする。

既にお腹に宿っている小さな命の炎を自ら消す事など、優羽には出来なかった。

そして優羽はシングルマザーの道を選び、今流星と二人で暮らしている。

今日西村と再会した時はかなり驚いたが、西村の出身が大町市の隣の安曇野市だという事を思えば、

偶然会ってもおかしい事ではなかった。きっと家族で実家に帰省していたのだろう。

西村は流星を見ただろうか？　もし見ていたら自分の息子だと気づいただろうか？

あれから五年もの月日が経ち、自分の息子が大きくなっている姿を見てどう思っただろうか？

優羽はそんな事を考えながら駐車場の端まで行くと、そこにあるベンチに座った。

そしてしばらくの間物思いに耽っていた。

今優羽は、西村に対して以前のような気持ちや未練は全くない。

一人流星を産み育てて来た時間は、優羽を強く逞しくしてくれた。

流星と二人だけの生活は、とても充実した毎日で優羽に沢山の幸せをもたらしてくれた。

だからこの道を選んだ事について全く後悔はしていない。

ただ久しぶりに西村に会った事で心が動揺しているのは事実だ。

西村に再会したからといって、これからの生活になんら支障はないし何かが劇的に変化する訳でもない。

優羽はそう自分に言い聞かせる事で、少し心が落ち着いてくる。

優羽はフーッとため息をつくと夜空を見上げた。

ほんの少しの雲の切れ間から星が一粒キラリと光った。

その星を眺めながらそろそろ部屋に戻ろうと思った時、山荘の方から誰かが歩いて来るのが見えた。

暗闇の中で目を凝らすと、歩いて来たのは岳大だとわかった。

優羽はゆったりとこちらに向かって来る岳大を観察する。

身長は180センチはあるだろうか？　第一印象はスラッとしたイメージだが、よく見ると鍛え上げられた筋肉質の体型だ。

今まで幾度となく高い山に挑んできただけあり、そのガッチリした身体には登山家としての資質をすべて兼ね備えている。

肌は黒く山焼けし、無精ひげを蓄えたその風貌はとても野性的で魅力に溢れている。

先程優羽に話しかけてきた朝倉は、そんな岳大に対して好意を寄せているのではないだろうか？

ふとそんな気がした。

岳大は優羽の傍まで来ると言った。

「隣に座ってもいいですか？」

「はい」

優羽は咄嗟に答えたが、もしこの光景を朝倉が見たらと思うと少し心配になる。

そんな優羽の気持ちを読み取ったように岳大は言った。

「出版社の者に何か言われていたようだけれど、気にしないで下さい」

思わず優羽は思わずびっくりする。

（なせ私の考えていることがわかったのだろう？）

そう不思議に思っていると、岳大が説明した。

「アシスタントの井上が二人の会話を聞いていたみたいで僕に教えてくれたんですよ」

「そうだったのですね」

優羽はそれを聞いて納得した。